ここから本文です

シスコが提唱する「フォグコンピューティング」は普及するか

@IT 8月26日(金)20時10分配信

●この連載は……
 近年、さまざまな技術トレンドが注目され、ニュースとして盛んに取り上げられています。それらは社会、企業に対してどのようなインパクトを及ぼすのでしょう。ベンダーを中心としたプレーヤーたちは何を狙いとしているのでしょう。
 それらのニュースから一歩踏み込んで、キーワードの“真相”と“裏側”を聞き出す本連載。今回は「シスコが提唱するフォグコンピューティングとIoT」を取り上げます。

【その他の画像】「フォグコンピューティング」とは何か?

●IoTに向けた“データ処理のパラダイムシフト”

 「フォグコンピューティングは、IoT(Internet of Things)を実現する上で必要不可欠なコンピューティングアーキテクチャだと、私たちは考えている。普及するかしないか、もしくは普及させたいというより、このアーキテクチャを使わなければ、IoTの普及そのものに支障を来すといった強い使命感を持って取り組んでいる」

 表題の疑問にこう答えてくれたのは、シスコシステムズ 執行役員 最高技術責任者(CTO)兼イノベーションセンター担当の濱田義之氏である。今回は、米シスコシステムズが提唱している「フォグコンピューティング」に焦点を当て、IoTにおけるコンピューティングアーキテクチャのスタンダードを目指す同社の取り組みを探ってみたい。取材には濱田氏とともに、シスコシステムズ イノベーションセンター東京 シニアマネージャーの今井俊宏氏にも応じてもらった。

 今回、筆者が本コラムでフォグコンピューティングを取り上げたいと思ったのは、米シスコシステムズや米インテル、米マイクロソフト、英ARMなどがフォグコンピューティングの普及促進団体として2015年11月に米国で設立した「OpenFog Consortium」の首脳陣が2016年6月に来日し、同団体の活動内容や日本での普及に向けた取り組みについて、日本で初めて記者会見を開いたのがきっかけだ。

 フォグコンピューティングについては、日本法人であるシスコシステムズも折りに触れて国内で説明してきたが、普及活動の中心となる同団体が会見を開いたことで、いよいよスタンダードを目指して本格的に動き出したという印象を受けた。同団体の活動については後述するとして、まずはフォグコンピューティングとは何かを説明しておこう。

 フォグコンピューティングとは、IoTを構成するクラウドとデバイスの間にあるネットワーク機器に「クラウド機能を拡張」し、サーバやストレージ、ネットワークなどのリソースやサービスを分散。データが生成される場所の近くでリアルタイムかつセキュアに処理を行うことで、さまざまなデバイスから生じるデータを活用してエンドユーザーに多くの価値を提供する仕組みのことをいう。

 すなわち、データとその処理をクラウドに集約するのではなく、データが生成される場所に近い部分にアプリケーションを配置することで、より多くのデータを活用し、価値を引き出すことを目的としている。これはまさしくIoTに向けた“データ処理のパラダイムシフト”といえる。

●集中と分散の合わせ技が求められるIoTのコンピューティング

 濱田氏によると、米シスコシステムズがフォグコンピューティングを発案したのは2010年。翌2011年にホワイトペーパーを作成して提唱した。「フォグ(霧)」と名付けたのは、クラウド(雲)よりネットワークのエッジ側にある、デバイスに近いところに位置するからだ。クラウドとデバイスの間にフォグのレイヤーを設けてフォグで必要な処理を行い、さらにフォグとクラウドが“連携”することによって処理の効率化を実現できるという意図が込められている。

 ちなみに今井氏の話では、フォグコンピューティングの名付け親は、このアーキテクチャ構想に携わっていた同社のエンジニアの夫人だとか。構想の大枠を聞いた夫人が、「それってクラウドとつながっているフォグみたい」とつぶやいた一言がきっかけになったという。今後、フォグコンピューティングがスタンダードになった際には、貴重なエピソードになりそうな話である。

 一方、このクラウドとフォグをめぐる話には、今後のコンピューティングのありようにおける本質的なポイントがある。それは、これまでのITとこれからのIoTにおけるコンピューティングの在り方を示すものでもある。この点について、濱田氏が次のような見解を語ってくれた。

 「これまでのITにおけるコンピューティングは、集中と分散を繰り返してきた歴史がある。そして現在今、その波はクラウドの出現で集中に向かっている。しかし、これからのIoT時代は、クラウドによる集中だけではデータ処理が追いつかないのは明らかだ。2020年に500億デバイスがつながるといわれるIoT時代に対応するためには、クラウドとシームレスに連携した分散の仕組みが不可欠になる。集中と分散の“合わせ技”によるコンピューティングアーキテクチャをどう描いていくか。フォグコンピューティングの発想の原点はそこにある」

 集中と分散を繰り返してきたITと、集中と分散の合わせ技が求められるIoT。今まさにコンピューティングの在り方が転換期を迎えている中で、米シスコシステムズはフォグコンピューティングを世に問うたわけである。

●普及促進団体でフォグコンピューティングをオープンに展開

 ただ、あらためてフォグコンピューティングは普及するかという観点で、筆者はもう1つ「言葉遣い」として確認しておきたいことがあった。それは、クラウドとデバイスの境界を表す言葉として早くから使われてきた「エッジコンピューティング」とどう違うのかということだ。この点については、今井氏が次のように説明してくれた。

 「フォグコンピューティングは、エッジコンピューティングのようにデバイスに近いところで処理を行うだけでなく、その処理のためのコンピューティングリソースを分散化して最適に配置する仕組みだ。その意味では、フォグコンピューティングはエッジコンピューティングも包含している。私たちとしては、フォグコンピューティングはコンピューティングリソースの最適化を図る技術として、SDN(Software-Defind Networking)やネットワークの仮想化をさらに進化させたものと位置付けている。そうした技術の進化から見ても、フォグコンピューティングは広く使われるものになると確信している」

 さて、そのフォグコンピューティングの普及促進団体であるOpenFogコンソーシアムだが、2016年7月末時点で9カ国40組織が参画している。活動内容としては、フォグコンピューティングのオープンアーキテクチャである「OpenFog」の定義、ユースケースの開発、テストベッドの運用を通じた実現性と相互運用性の検証、各種標準化団体との連携、フォグコンピューティング認知度向上のための情報提供やイベントなどを行っている。OpenFogアーキテクチャについては2016年9月に発表する予定だが、全体のイメージとしては図3のようになるという。

 2016年6月に開かれた記者会見では、同団体のチェアマンで米シスコシステムの幹部でもあるヘルダー・アンチューンズ氏が、「私たちの活動をさらにグローバルなエコシステムとして拡充し、フォグコンピューティングをクラウドコンピューティングと同じレベルの存在に育て上げていきたい」と力を込めて語った。

 また、会見では同団体の地域支部が初めて日本に設立されたことも発表。日本支部の先導役を担う今井氏によると、日本では東芝、さくらインターネット、富士通、NTTコミュニケーションズなど8社が参画しており、同団体で一大勢力を形成しているという。そうした勢いもあってか、2016年11月にはIEEE(米電気電子学会)とOpenFog Consortiumの共催によって、アジア地域で初めてとなる国際イベントを日本で開催する計画だ。

 最後に、濱田氏にユーザー企業のIT担当者や開発者へのメッセージをお願いしたところ、次のように語ってくれた。

 「IoTが産業を問わずデジタル変革の根幹になることは、もはや疑いがない。そのIoTを実現する仕組みとして、フォグコンピューティングはスタンダードになり得ると確信している。IT担当者や開発者の多くの方々が関わることになると思うので、ぜひOpenFogの活動などに参加して技術を修得していただきたい」

 ちなみに、クラウドコンピューティングという言葉が世の中に定着するまでに、おおよそ10年掛かった。フォグコンピューティングはクラウドの延長線上にあるので、数年で定着する可能性もありそうだ。ただ、企業にとって最も重要なのはIoTを何にどう活用するかだ。フォグコンピューティングはあくまでそれを実現するための手段である。その意味では、OpenFog Consortiumの今後の活動において、さまざまな導入事例が示されることにも大いに期待しておきたい。

●筆者 松岡功:ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。

最終更新:8月26日(金)20時10分

@IT