ここから本文です

ニッポンのゲームだからできた。歴史に残る「安倍マリオ」【オールゲームニッポン】

インサイド 8月26日(金)21時36分配信

テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。

【関連画像】

変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。

===== ===== =====

インサイド編集長 谷理央(以下 谷): 今年の夏もそろそろ終わろうとしています。8月の当コーナー、オールゲームニッポンのテーマは、やはりリオデジャネイロ・オリンピックでしょうか?

平林久和(以下平林): そうしましょう。今年のオリンピックはいつも以上に中継を見ていました。柔道、競泳、体操、卓球、レスリングのメダルラッシュで十分に喜ばせてもらったうえに、最後に陸上の男子400メートルリレーでも銀メダル獲得。感動しました。で、感動はこれが最後ではなかった。閉会式での東京オリンピックに向けてのセレモニー。そして、いつの間にか「安倍マリオ」と呼ばれるようになった、あのパフォーマンスに心が揺さぶられました。

安田善巳(以下 安田): トータルで8分間でしたか。限られた時間の中で、よく練られた演出でしたね。

平林: はい。私にとって、あのパフォーマンスは人生の集大成のように思えてしまって。録画やインターネットの動画で、たぶん20回以上見返しました。

安田: そんなに見たんですね。

谷: 人生の集大成とはどういう意味ですか?

平林: ワタクシゴトですが、語ってもいいですか?

安田: どうぞどうぞ。

平林: 私がゲーム業界に首を突っ込んだ年。ちょうど新入社員になった1985年は『スーパーマリオブラザーズ』の発売年でした。当時、ゲームへの風当たりは強かった。たとえば、こんなブームはいつか終わるとか、ゲームは目に悪いとか。ファミリーコンピュータ本体と『スーパーマリオブラザーズ』がバカ売れするいっぽうで、世間からのバッシングも激しかったんです。

谷: その『スーパーマリオブラザーズ』がオリンピック閉会式の主役になって感慨もひとしお、ということですね。

平林: はい。当時、ファミコンから出る音のことは、よく「ピコピコ」と言われていました。

安田: そうでしたね。どんな音楽も効果音もピコピコ音なんて言われていました。

平林: 「ピコピコ」という表現は、ゲームに対する無関心があらわれていて、もうちょっと激しく言うと小馬鹿にした感じがあっていつも抵抗感を持っていました。ところがセレモニー中盤の山場。安倍首相が土管から登場するシーンで開場に鳴り響いたのが、まさにかつてピコピコ音と言われていた効果音じゃないですか。うわー、あのピコピコ音が世界中に響いて人を驚かせていると思うと泣きそうになります。ゲームの社会的地位が低かった時代、「いつか世間は認めてくれるさ」と自分を奮い立たせて仕事をしてきました。ゲームのことが、いつかNHKのニュースに登場する、いつか新聞の一面に載る。ゲームが社会に溶け込んだ未来を無理してでも思い描いてきたのですが、まさかのオリンピックで、まさかの首相がコスプレです。長い年月がかかりましたが、ゲームの地位がここまで上がってくれた。そんな思いにさせてくれる土管のシーンです。

安田: 土管について、そういう見方をしてたんですね。

平林: はい。ところで、あのマリオが土管から飛び出るときの効果音ですが、大きなマリオ(スーパーマリオ)がミスをして小さくなるときの効果音と同じなんですよね。当時のロムカートリッジは容量が少なかったのでメモリを節約していたという……。

安田: 僕もあのセレモニーを見て、ゲームが世界に認められていることを実感しました。良い悪いではなくて、文化というものは上下で区別する慣習ってありますよね。いわゆるハイカルチャーというのは、お金も教養もある上流階級の人が好むもの。西洋文化でいえばクラシック音楽、バレエ、オペラ、日本文化でいえば能、茶道、華道などがそれにあたるでしょうか。対してポップカルチャーは大衆の誰もが楽しめるもの。そのポップカルチャーの中でも映画、漫画、アニメがあって、その下にゲームがある。いや、誰かが「ゲームは下だ」と言っているわけではないですよ。そうではないのですが、たとえば文章で並べて書くとき、たいてい映画・漫画・アニメ・ゲームの順番でゲームが最後に置かれます。歴史が浅いから仕方がないことだとも思いますが。そのゲームキャラクターがセレモニーでは大活躍してました。画期的なことだと思います。

平林: なんたって、あの『ドラえもん』がマリオをサポートしてくれました。渋谷のスクランブル交差点に土管を設置してくれたんですからね(笑)。

安田: そして、ゲームが発するメッセージが、世界共通であることが証明されたとも思うんです。『スーパーマリオブラザーズ』の土管といえば水を流すものではない。マリオが潜るもの、地上と地下を区切るもの……ということが何の説明がなくてもわかってしまう。国や地域ごとによって受け止め方が違う、なんてことがありえないわけです。

平林: 漫画やアニメで描かれた物語は、解釈が異なる場合があっても土管の解釈は一緒、ということですね。

安田: はい。そんなポップカルチャー満載の映像に首相がコスプレして登場するというのはなんとも痛快でした。

平林: あの土管のシーン。映像では「ドリルで掘る」という補足説明の映像が入っています。あの絵柄は『スーパーマリオブラザーズ』のものでも『ドラえもん』のものでもなくてオリジナル。部分的にはダサく見えるのですが、最高にわかりやすかったです。で、これはニコニコ動画のコメントにあったのですが、「内核通り大臣」というジョークがウケました(笑)。

安田: 内閣総理大臣が地球の内核通り大臣、うまいですね(笑)。ところで前例をよく知らないのですが、オリンピックの閉会式に次回開催国の首相が登場するのは初めてですよね。

平林: たぶんそうだと思います。

安田: これが映画のヒーローだとすると、たとえ正義の味方だったとしてもバイオレンスの香りがして国のリーダーが扮するのは問題があるかと思うんです。

平林: プーチン大統領が銃を持って登場したら怖いですよね(笑)。

安田: 帽子をかぶったマリオだから、世界の人々が好感を持って受け入れてくれました。

平林: そうですね。さっきは『スーパーマリオブラザーズ』登場の頃の話をしましたが、最近の私は一所懸命にオールゲームニッポンの連載を続けています。日本のゲームは世界のゲームと比べて遅れてはいない。日本のゲームは特別な存在なのだ。そんなことを訴えたいんですね。今回のセレモニーは日本のゲームだからできたのだと思うと、それもまた感慨もひとしおです。

安田: 「Love Sport Tokyo 2020」というタイトルのPR動画は、わずか2分程度ですが東京=日本がぎっしりと詰まっています。伝統、未来、カワイイもの、先端技術。混沌としてますが、これらが当たり前のように共存している日本が描かれています。

平林: 安田さんがよく言われる、ニッポンの多様性を映像にするとあんなカタチになるんだ、と再認識しました。

安田: 新国立競技場やエンブレムのことで、何かと問題が多かった東京オリンピックですが、ムードが変わりました。2020年が楽しみになってきました。

平林: リオデジャネイロ・オリンピックの終わり。東京オリンピックの始まり。私の心の中では、あの土管は時間の区切りでもあります。

最終更新:8月27日(土)2時22分

インサイド

豊洲へなぜ市場移転 経緯と課題

築地から市場が移転される豊洲で、都が土壌汚染対策をしていなかったことが発覚。そもそもなぜ豊洲に移転するのか、経緯と課題を知る。