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ITインフラ刷新で“お役所”の紙文化を崩せるか? 文科省の挑戦

ITmedia エンタープライズ 8月26日(金)8時14分配信

 生産性の向上やワークライフバランス、ペーパーレス、女性の活躍促進など、さまざまな文脈で「ワークスタイル改革」が注目されており、さまざまな施策を行う企業が増えてきている。

【画像:文部科学省のワークライフバランス推進強化月間の取り組み】

 しかし、最近は国が目標に掲げていることもあり、企業だけではなく、総務省などをはじめとする官公庁もワークスタイル改革に熱心に取り組んでいる。教育やスポーツに関する施策を担う文部科学省も、そんな行政機関の1つだ。

 「超スマート社会」を実現する、ビッグデータ、IoT、サイバーセキュリティなどのAI研究開発や、人材育成に取り組む同省では現在、端末のシンクライアント化や無線LAN環境の導入、サーバやストレージ、ネットワークの仮想化など、業務用ITシステムの刷新に着手している。新システムの稼働は2017年1月を予定しており、システム刷新で“ワークスタイル改革”を目指しているという。

●テレワークやペーパーレス会議をシステムで後押し

 今回文科省がIT基盤の刷新に踏み切ったのは、4年契約だった行政情報システムの刷新時期を迎えたことがきっかけだ。同省 大臣官房政策課 情報システム企画室 情報システム専門官の風間広幸氏によれば、システムの調達をするにあたって、ワークスタイル改革を見据えたシステムの調達を検討し、次の3つのコンセプトで仕様を策定したという。


1. 多様な働き方への対応
2. 業務の効率化
3. セキュリティの強化

 文部科学省は7月と8月を“ワークライフバランス推進強化月間”とし、管理職のテレワーク実施や研修、出勤時間を早くして就業時間を早める「ゆう活」など、ワークスタイル改革を目指す施策を行っている。今回のシステム刷新は、こうした施策を支援するためのものでもある。

 セキュリティの強化も重要なポイントだ。政府機関を標的としたサイバー攻撃は近年増加傾向にあることから、機密情報を扱うネットワークの分離、監視の強化など、攻撃を受けることを前提に、攻撃を受けた場合にも情報漏えいなどを防ぐ対策を取り入れることにした。

 これらの条件を基に入札を行い、価格も含めた総合的な評価から、2016年2月にNTTコムウェアが落札。現在は設計が終わり、システム構築を行っている段階だという。

 ワークスタイル改革という観点で見れば、システム刷新による影響が大きいのは仮想デスクトップとシンクライアントの導入だろう。現在、文科省内で使用されているPCは形こそノートPCであるものの、ワイヤーでデスクに固定しているなど、基本的に各ユーザーのデスクのみで利用する運用形態であり、会議等で自由に端末を持ち運びできなかったという。

●シンクラ導入による業務効率化、ペーパーレスにも寄与

 そして仮にPCを会議室に持ち込んだとしても、無線LANがないため、ネットワークに接続するには、床からLANケーブルを引っ張り出なさければならない。こうした煩雑な作業があるため、文科省内でPCを持ち歩く職員は少なかったという。

 ローカルに情報を保存しないシンクライアントであれば、紛失や盗難によるリスクが下がり、PCをワイヤーで固定する必要はなくなる。さらに各会議室に無線LANを整備するとのことで、職員のみの少人数での打ち合わせから、職員以外も含めた大人数の会議に至るまで会議にPCを持ち込むスタイルが今後普及することになりそうだ。これにより、資料の印刷に使っていた時間や紙の削減が期待できる。

 また、出張や在宅勤務でPCを持ち出す際は、共有の持ち出し専用端末を借りる必要があり、設定に時間を要することから、なおかつ2日前までに申請しなければならなかった。

 「緊急で貸し出す必要がある場合は、その作業を優先させますが、通常は2日前までに申請が必要です。そのため“明日から急な出張が……”といった状況になかなか対応しづらく、ユーザーの利便性を損ねていた面は否めません」(大臣官房政策課 情報システム企画室 情報基盤係 穗積勇起氏)

 仮想デスクトップの導入により、外部に持ち出す際にも自席の端末をそのまま利用できるようになる。申請手続きや専用端末の準備作業の手間を削減できるほか、職員のワークスタイル改革にも寄与できるという。

 基盤の刷新に合わせて、スケジューラーやコラボレーションツールも一新するとのことで、Webカメラを使った遠隔地とのビデオ会議も容易になる。

 サーバなどの仮想化で、運用管理コストの削減も期待できる。特に昨今は各PCのOSにパッチを当てたり、各種機器からのウイルス検知のアラートに対応したりといった、セキュリティ対策のための業務負荷が高まっているが、仮想化したサーバにセキュリティ機能や運用システムを集約し、端末の集中管理を行うことで運用管理業務を集約できるという。情報システム担当者のワークライフバランスも改善されそうだ。

●システムの刷新は“紙文化”を崩せるか?

 もちろん、ツールやシステムを変えたからといって、ワークスタイルが一気に変わるわけではない。

 大臣官房人事課の玉城直氏によれば、女性活躍やワークライフバランスの観点から政府全体でテレワークの推進に取り組んでいるが、2015年度における文科省の実績は、約2800人の職員のうちテレワーク実施者が68人。先に挙げたPCの事前設定に時間がかかるという問題のほかにも、持ち出し用端末の台数との兼ね合いや、人事課での承認手続きなどに時間がかかるという状況もあるそうだ。

 「クライアント端末が変われば、持ち出し用端末を貸し出す台数の調整を行う必要がなくなり、より柔軟な利用が見込めます。併せて、テレワークの運用ルールも再検討の余地があるでしょう。そういったことも踏まえ、2016年度は昨年度以上の数字を上げるという目標を掲げています。その結果を基に、2017年度以降の計画や目標を検討していく予定です」(玉城氏)

 ペーパーレス会議については、文部科学大臣の諮問委員会である「中央教育審議会」において実践することが決定している。1~2カ月に1回のペースで開かれるこの会議は、政府の審議会の中でも、最も紙資料が多いといわれており、資料の説明だけで会議時間の多くを消費してしまうケースもあるそうだ。

 「基本的には、会議の前に外部委員のBYOD端末に資料をダウンロードしていただく運用を考えています。会議後に回収が必要な資料もあるので、一部紙の資料は残るでしょう。委員の希望によりタブレット端末を貸し出す用意もしていますが、相手あっての話なので、紙にしてほしいと言われれば対応するケースもあると思います。とはいえ、機は熟し始めていると感じているので、あとはユーザー目線に立って使いやすいシステムを入れることで、だんだんと理解が得られるのではないでしょうか」(大臣官房政策課 情報システム企画室 情報基盤係長 木村修平氏)

 中央教育審議会など、外部の委員が多数出席するような会議で一気に紙の資料をゼロにするのは難しいが、省内の会議から徐々に広げていく構えだ。資料の内容によっては、タブレットよりも大きなサイズの紙に印刷したほうがいい場合もある。旧来から紙文化だった“役所”の仕事を変えるのは、時間とエネルギーが必要だろう。

 システムの刷新にかかる費用は税金だと考えると、一般的な企業と同じくシステム刷新の費用対効果はシビアに判断される。文部科学省の場合は、ITインフラの仮想化でコストを減らしつつ、セキュリティ対策やワークスタイル改革を充実させた好例といえそうだ。ITの力で“紙文化”を変えられるのか。今後の動きにも注目だ。

最終更新:8月26日(金)8時14分

ITmedia エンタープライズ