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第48回 SIベンダーの“錬金術”が通じない? ざっくりなITインフラのサイジング

ITmedia エンタープライズ 8月26日(金)8時15分配信

 前回取り上げた“テビとテラ”。皆さんは、この単位の違いをどう思いましたか? 「たかが10%程度」という人もいれば、「10%も!?」と感じた人もいるでしょう。どちらかというと後者の人が多いかもしれません。

【画像:欧米のアーキテクトの必需品「Sizer」。幾つかの質問に答えるだけでざっくりとサイジングしてくれる】

 今日は、そんな「サイジング」にまつわるココヘンを考えていきたいと思います。

●サイジングを制する者は案件を制す?

 日本のITインフラは、これまでも“注文住宅”に例えてきた通り、要件に対してピッタリに仕立てられるのが特徴です。良く言えば、映画「007」の主人公が着るような英国のテーラーメイドのスーツ。寸分の狂いもなく採寸されて作り上げられています。

 これほど正確な採寸(サイジング)はプロの仕事。ITインフラにおける“テーラー”(仕立て屋)は、言わずもがなSIベンダーであり、採寸から部材調達・構築まで一手に引き受けます。例に挙げたスーツ業界とは違い、日本のITインフラ業界はテーラーメイドが基本。メーカー各社のWebサイトにある認定パートナー一覧のページを見ると、日本には無数のSIベンダーがいることを再認識させられます。

 ここまで多いと、もはや供給過多。どの案件もコンペが発生しています。コンペになれば技術点と価格点であり、この両方に有効なのが「サイジング」なわけです。なぜなら、サイジングが正確なほど、ぜい肉を削ぎ落としたアスリートの肉体美のような、無駄のないピッタリなシステムが提案できるからです。同時に、無駄を削ぎ落とされていることから、価格面でも競争力のあるものになります。

 このように、SIベンダーがビジネスを進めるうえで、サイジングは1つの必勝法といえるでしょう。「サイジングを制する者は、案件を制す」的な雰囲気で、どのSIベンダーも日々鍛錬しているノウハウ・スキルです。

●昨今のITインフラは“プリン”のようなもの?

 サイジングは顧客もベンダーも喜ぶ“魔法の錬金術”と言えそうですが、欧米人はその腕を鍛えようとはしていません。一体なぜでしょう?

 その答えは、いくら正確な採寸ができても意味がなくなりつつあるから。

 今日のITインフラを支えている欧米製のハードウェアやソフトウェア製品。仮想化やクラウド技術などがありますが、実は、これらは日本人が日々研究・切磋琢磨しているほど正確にサイジングされるなんて、外国人は予想だにしていません。もっと言ってしまえば、「ざっくりな人の、ざっくりな人による、ざっくりな人のための製品」です。

 これは別にネガティブなことではなく、単に考え方の違いです。サイズの決まった“固い物体”に仕上げるのではなく、ブヨブヨとした“弾力性のある物体”に仕上げる方向で製品開発を行っています。

 例えるなら「プリン」でしょうか。プリンの容器を要件通りにいくら正確に採寸して作っても、皿に“プッチン”してしまえば、その自重からスライムのように形が崩れてしまいます。どのくらい形を維持できるか、崩れてしまうのかは、素材や温度次第です。

 仮想化インフラも、プリンと同じ。構築中は、一定温度に守られた環境下で、SIベンダーによって正確に採寸された容器の中で作り上げられますが、いざカットオーバーになって皿に空けると状況が変わる。さまざまな内的・外的要因が重なり、元々の採寸(サイジング)から変わってしまうわけです。いわゆる「前提と変わった」ってヤツですね。

 技術的に言えば、リソースを余分に消費してしまう“オーバーヘッド”効果と、実消費量を減らす“オーバーコミット”技術のせめぎ合い。そこにハードウェア側の仮想化テクノロジーも絡みますので、ちょっとしたイベントや朝夕などの時間帯で負荷が変わります。

 運用に入れば形が崩れてしまうので意味が無い―――「サイジング」について、SIベンダーの求める情報とメーカーの提供する情報にギャップがあるのも、こういった背景があるわけです。

●米国のインフラサイジング

 最後に、その“ざっくり”な製品を設計開発している米国のインフラサイジングの例を簡単に説明しましょう。

 まずは注文住宅(テーラーメイド)型の場合。面白いのは、あえて1つ上のモデルを選んでしまう傾向です。Mサイズで十分な採寸なのに、あえて緩々のLサイズのTシャツを買ってしまうようなもの。ピッタリのものを買うのは嫌がります。

 もちろん、日本でも流行りのクラウドサービスやハイパーコンバージドは建売住宅(既製品)型も伸びています。既製品であるがゆえ、これらの製品やサービスの多くは「サイザー(Sizer)」と呼ばれるサイジングツールが無償で用意されています。機械的なツールですので職人芸のような正確な採寸はできませんが、前述の通りざっくりで十分なのです。

 そして、何より印象的なのは、彼らは「ウチの会社はプラス成長しかしない」と頑なに信じており、いかなる時でもこれを前提に考えるところ。会社の事業が傾き、縮小するなんてことはシステム上も一切想定していません。彼らの話を聞いていると、「後ろは振り向かず前に進むだけ」という、事業部門さながらの強い気持ちがうかがえます。

 もちろん、テクノロジーの進化によってコンパクトになることはあります。彼らにとってシステムを小さくするとしたら、それは以前もご紹介した定期的な総入れ替えのタイミングなのです。

最終更新:8月26日(金)8時15分

ITmedia エンタープライズ

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