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電子化物ガラスを開発、転移温度が大幅に低下

EE Times Japan 8月26日(金)14時53分配信

これまでの常識を覆す、新たな物性制御法を開発

 東京工業大学元素戦略研究センター/科学技術創成研究院の細野秀雄教授と、米国パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)のピーター・スシュコ博士らによる研究チームは2016年8月、電子化物ガラスが、従来のガラスとは大きく異なる物性を持つことを、実験と計算で初めて明らかにしたと発表した。従来と同じ網目構造でありながら、微量の電子を混ぜた電子化物ガラスは、転移温度(Tg)が大幅に低下することが分かった。

xCaO・(100-x)Al2O3ガラスのガラス転移温度 出典:東京工業大学他

 電子がアニオン(陰イオン)として振る舞う化合物群は、電子化物(エレクトライド)と呼ばれている。細野氏らの研究グループは2004年に、「12Ca0・7Al2O3(マイエナイト)」(以下C12A7)の酸素イオンを電子に置き換えた電子化物「C12A7:e-」の合成に成功した。これは、空気中で高温まで安定している初めての電子化物だという。C12A7自体は絶縁体であるが、C12A7:e-は、低温において超伝導の特性を示す。また、アルカリ金属と同等に電子を放出しやすいが、化学的に安定した物性を持っているという。

 酸素を含まない環境でC12A7:e-を過熱して融解し、それを急冷すると電子化ガラス(C12A7:e-ガラス)を得ることができる。このガラスは結晶のC12A7:e-とほぼ同じ程度の電子アニオンを含んでいるため黒色となるが、室温付近ではほとんど電気伝導を示さないという。

 研究グループは今回、C12A7:e-ガラスのTgと電子アニオン濃度について、その関係性を調査した。Tg以下の状態がガラスであり、過冷却融体の状態はTgで凍結された構造を持つ。網目が連続的につながっている構造であればTgは高くなり、網目が不連続になるほどTgは低くなる。網目のつながり程度は化学組成によって決まるため、Tgを変化させるには、これまで化学組成の変更が必要と考えられてきた。

 研究グループは、極めて低い酸素分圧の雰囲気で結晶のC12A7:e-を赤外線加熱炉で融解し急冷した。これを高温で空気中の酸素と反応して電子が消失しないようにして示差熱分析を行い、Tgを決定した。測定データから、ベースラインが吸熱側に急にシフトする温度を観測することができた。Tgは比熱のジャンプに相当する現象で、固体から液体の状態に変化する際に、固定されていた原子の重心が移動可能となるために生じたものだという。

3%の酸素イオンを電子に置き換える

 Tgは、電子の濃度が低い1020cm-3以下で約830℃となるが、0.2×1021cm-3になると770℃、1021cm-3に高めると725℃まで低下する。1021cm-3の電子濃度は、このガラスを構成している酸素イオン(O2-)の3%を電子に置き換えた濃度に相当するという。

 電子を含まないxCaO・(1-x)Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの2成分系)の普通ガラスでは、xの部分を0.55~0.75まで変更してガラスの網目構造のつながりを大幅に変えても、Tgの変化幅は65℃となった。これに対して、今回作製した電子化ガラスは、わずか3%の酸素イオンを電子に置き換えただけで、これまでにない低Tgのガラスを得ることができたという。

 続いて研究グループは、このガラスの構造とガラス転移について、第一原理分子動力学法を用いてシミュレーションを行った。計算は2000K付近(1727℃)で結晶を融解させ、そこから100K(-173℃)まで急冷。その結果、試料の比熱がピークとなるガラス転移点は、電子化物ガラスで約1150K(877℃)、電子アニオンを含まないガラスで約1250K(977℃)となった。電子アニオンが存在すると低温側に約100℃もずれることが分かった。このデータは実験で観察したTgの差と同じである。構成原子の平均原子速度の温度変化をみると、Alは高温で動きが遅くなる。これに対して酸素とカルシウムは、1300~1100Kになると急に低下することが分かった。この温度はTgに相当し、電子化物ガラスの方が低い温度になった。

 ガラスの物性は、網目を構成する成分(NWF)とそれを切断する成分(NWM)の比率で決まる。通常のNWMは、イオン性結合を形成し網目構造を切断することでTgを下げる。これに対して電子化ガラスは、電子アニオンがイオンよりも動きやすいため、局所的に温度が高い状態になっており、より低温にならないと系全体の構造が凍結されるガラス転移が生じないと理解できるという。

 C12A7:e-は、大面積で透明な薄膜を比較的容易に作製することが可能である。研究グループは、有機EL用の電子注入材料などとしての応用に期待できるとみている。

最終更新:8月26日(金)14時53分

EE Times Japan