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なぜ急ぐ? 伊方原発再稼働

ニュースソクラ 8月26日(金)14時30分配信

住民の安全対策は不十分

 四国電力伊方原発3号機が先週12日、再稼働に踏み切り、9月7日から営業運転を目指す。

 同原発の稼働は11年3月の東電福島第一原発事故後、定期検査に入って以来、5年3ヶ月ぶりの再開である。新規制基準のもとでは、九州電力川内1、2号機(鹿児島県)と関西電力高浜3、4号機(福井県)の計4基に続く。ただ高浜は大津地裁の仮処分で停止しており、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電としては唯一の稼働になる。

 伊方原発3号機の再稼働について、なぜ今実施するのかについて多くの疑問が投げかけられている。万一の事故の際、周辺住民の安全対策に不備な点が目立つ上、差し迫った緊急性も見当たらない。原子力規制委員会のお墨付きをもらったからには早期実施をめざし、企業収益の改善につなげたいとする「企業益」重視の姿勢だけが目立つ。これではとても地元住民の支持は得られまい。

 その点で、伊方3号機の再稼働は、中長期的視野を欠く無理筋の選択と言っても過言ではないだろう。

 無理筋と考える最大の理由は万一の際の周辺住民の安全対策である。
 
 伊方原発は東西40キロ、最大幅6キロの細長い佐田岬半島の付け根にある。原発西側の「予防避難エリア」には約4700人が住む。政府が作成した緊急時対応では、半島を貫く国道197号が利用できれば、陸路避難が可能になる。だが原発のすぐ脇を通らなければならず、事故が発生した場合には危険で通行が不可能になるのではないか、との懸念の声が強い。道路が寸断され陸路避難ができなくなれば、海路避難になるが、その場合には荒天や津波が起こった場合どうするか不安が募る。陸も海もダメなら屋内退避になる。

 内閣府によると、原発の西側には耐震基準を満たす屋内退避施設が44カ所(約1万5千人収容)あり、津波に襲われても約7600人が収容できると見込んでいる。しかし熊本を襲った震度7程度の地震が起これば、屋内退避施設も安心できないと住民は頭を抱えている。

 周辺住民を納得させる安全対策が不十分な中で、見切り発車的に稼働を再開すれば将来に禍根を残すことになる。

 第二の理由は今直ちに再稼働しなければならないほどの緊急性がないことだ。11年3月の原発事故を契機に電力需要は減少している。電気事業連合会の資料によると、企業や個人の節電による需要の縮小、再生可能エネルギーの普及、新電力の参入などで供給は拡大している。この結果、電力需給に余裕が生まれ、昨年の需要は事故前の10年比約13・5%減だった。電力需要がピークになる今夏、政府が企業や個人に「節電要請」を見送ったのも、原発再稼働なしでも大丈夫と判断したためだ。

 業績面でも原発を持つ電力9社の16年3月期決算は、事故後初めて全社が経常黒字になった。原油価格が大幅に下落し、火力発電の燃料費負担が数年前と比べ半減以下になったことが黒字化に寄与している。世界経済が低成長時代を迎えており、今後中期的にも、原油価格は1バレル当たり最大50ドル台で推移しそうだ。電力需給、企業業績面からも、今直ちに稼働しなければならないという緊急性は見当たらない。

 第三に政治上の思惑が無理筋を助長させたことも無視できない。日本の原子力政策の基本の一つが核燃料サイクルの推進である。使用済み核燃料をごみとして捨てず、再処理してプルトニウムを取り出しMOX燃料として再利用する政策である。プルトニウムは原爆の原料になるため、その取り扱いは国際的に厳重に管理されている。プルサーマル発電の伊方3号機が稼働すれば、増え続けるプルトニウム(現在47・9トン保有)の減少につながるとの期待が政府内部にある。とはいえ、同原発1基で使うプルトニウムは年0.1トン程度に過ぎず実効性に乏しい。国際的にPRできるだけのインパクトはない。

 無理筋を承知で伊方原発3号機の早期再稼働に踏み切ったツケは、高浜原発に見られるように、運転差し止めを求める住民訴訟などの圧力受け、継続稼働が危ぶまれる事態に発展しかねない危うさを抱え続けるだろう。

■三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」

最終更新:8月26日(金)14時30分

ニュースソクラ

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