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イエレンFRB議長の指導力不足が露呈

ニュースソクラ 8月26日(金)18時0分配信

追加利上げ必要? ばらつくFOMCメンバー間の見解

 米連邦準備理事会(FRB)が日本時間18日未明に公表した7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月27日、28日開催分)は、メディアなどですでに報じられているように、FOMCメンバー内での見解の違いを際立たせる内容だった。

 ただ筆者が留意しているのは、FOMCメンバー内での見解の違いよりも、イエレン議長が見解の違いに対し指導力を発揮できていない可能性があるということだ。

 7月のFOMC議事要旨によると、景気の現状判断は6月会合からほとんど変わりはない点が確認された。労働市場は6月の米雇用統計が好結果だったことを受けて強まっていると上方修正。米景気は緩やかなペースで拡大しているとの認識は、これまでの会合を引き継ぐ形で現状維持とされた。また英国のEU離脱(以下BREXIT)が米経済見通しに与える短期的なリスクは後退したと指摘された。

 見解が分かれたのは景気の先行き見通しについてだった。大半の参加者は、今年後半の米成長率が長期のトレンドをやや上回るペースで推移するとみているものの、数名は設備投資の軟化が続き、住宅市場の改善ペースの鈍化することが、米成長率の下方修正リスクであると指摘。BREXITリスクは短期的には後退したが、今後も注意深く監視(モニタリング)し続けるべきとの認識が確認された。

 労働市場の先行きについても慎重な意見が見られた。多くの参加者は労働市場がさらに拡大するとの見方を示したが、参加者数名からは失業率が自然失業率を下回り、インフレが加速するリスクを懸念し続けていることが示された。また一方で他参加者は、労働市場のスラック(弛み)の減少ペースが鈍化し、FOMCが目標とする雇用の最大化と2%インフレへの到達が遅れるとの懸念も示された。

 こうした見解の違いは、利上げに関する判断の違いにも表れている。多くの参加者は、経済活動の基調を確認するために、さらなる情報(経済指標)を待つのが適切と判断。ところが数名は、仮にインフレが予想以上に加速しても、それに対応する時間は十分にあると指摘。インフレが2%に向かうとする確信が強まるまで追加利上げは遅らせるほうが好ましいとの見解を示した。

 ところが一方で他数名は、最近の労働市場は完全雇用状態もしくはそれに近い状態にあるとし、近いうちの利上げは正当化されると判断。うち一名は今回(7月)の会合で利上げを主張したことも明らかになった。結局、7月FOMCでは、多くの参加者が指摘するように、さらなる情報を待つべきとの考えからFFレートの誘導目標を0.25~0.50%にするなど金融政策の現状維持が決まった。

 7月のFOMC後に発表された7月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が25.5万人増と、市場予想を大きく上回り、週平均労働時間も34.5時間と前月から小幅増加するなど6月に続く形で好結果。FOMCメンバーの数名が追加利上げに前向きになった可能性がある。

 現にNY連銀のダドリー総裁は、7月FOMC議事要旨が発表される前日(16日)に米テレビ番組でのインタビューで一段の利上げが適切となる時期が近付いていると発言。年内2度の利上げも想定可能との認識を示した。また同じ日にアトランタ連銀のロックハート総裁は、年内少なくとも1度の利上げの可能性は排除しないとし、9月の利上げもあり得るとの考えを示している。

 ただ一方で、セントルイス連銀のブラード総裁は、FOMC議事録が公表される1時間前の講演で、これから2年半程度は低金利が適切になるだろうと発言。その後、記者団に対し、雇用を維持しインフレ率をFRBの目標に近づけるためには1回限りの利上げで十分と述べ、利上げは、少なくとも成長の緩やかな回復、もしくは緩やかに回復するとの確信が得られるなどの兆候が見られてから実施するのが望ましいとの考えも示した。

 ブラード総裁は以前より利上げは数年内に1回で十分との見解を示していたことから、今回の発言も、これまでの見解を再表明しただけとも言えるが、言い換えれば同総裁の考えは、7月の米雇用統計の好結果程度では変わらないことも意味している。

 FOMCでも懸念事項として指摘された米設備投資は弱いままで、インフレも目立って加速したわけではない。追加利上げに否定的なFOMC参加者達が、ブラード総裁と同じように考えを変えていない可能性も十分ある。

 だからこそ日本時間8月26日に予定されているFRBイエレン議長のジャクソンホールでの講演が注目される、という考えがメディアを中心に広がっているようだが、同議長がジャクソンホールでの講演で追加利上げのタイミングについて具体的なメッセージを発するとは考えにくい。

 もともとイエレン議長は、これまでもFOMC会合後の会見などで金融政策の具体的な変更について明確なメッセージを発することはなく、今後発表される経済指標などを受けて政策変更などを検討するとの姿勢を示し続けてきた。

 7月FOMC議事要旨で示されたようにFOMCメンバー内で見解の違いがあったとしても、イエレン議長が指導力を発揮すれば、各地区連銀総裁が追加利上げについて全く違う見解を公に示すとは考えにくい。

 たとえば、仮にイエレン議長が追加利上げに前向きで、実現に向けて指導力を発揮しているのであれば、ブラード総裁であっても、金融市場への折り込みを目的に、(自身の意見を脇に置いてでも)追加利上げの可能性を示唆するだろう。

 逆にイエレン議長が利上げ先送りが望ましいと考え、指導力を発揮しているのであれば、ダドリー総裁やロックハート総裁は、追加利上げの可能性がさほど高くない可能性を示唆するはずだ。

 あくまで推測でしかないが、イエレン議長はFOMCでの議論でも、会見等で示しているように追加利上げに対し中立的な立場を示し、今後の情報を待つという様子見姿勢に徹している可能性がある。この場合、FOMCメンバー達は異なる見解をぶつけあう状態が続くだろう。

 米設備投資が早期に拡大に転ずる見込みは薄いほか、世界的なディスインフレの中、米国のインフレだけがFOMCメンバーの想定を上回るペースで早期に加速するとも考えにくい。追加利上げに慎重なメンバーの主張は、いつまでも有効性を保つことになるからだ。

 FOMCにて各参加者が意見をぶつけ合うプロセスは、合議を尊ぶ民主的なものといえなくもないが、追加利上げという重い決定に至るには当然、時間がかかるものとなる。FF金利先物市場から計算される利上げ確率は、12月FOMC時点でも48.5%とほぼ五分五分。それは米景気やインフレの弱さに起因しているのではなく、FRBイエレン議長の指導力不足に起因しているのかもしれない。

■村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。

最終更新:8月26日(金)18時0分

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