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女子レスリング栄和人監督「選手の生きる道を探す」攻めの増量

デイリースポーツ 8月27日(土)14時0分配信

 リオデジャネイロ五輪の女子レスリングは6階級で4つの金メダルと1つの銀メダルを獲得した。女子代表6人全員が日本レスリング協会・栄和人強化本部長が監督を務める至学館大の卒業生か在校生だ。そり上げた頭で選手とともに喜ぶ姿はすっかりおなじみだが、リオでは63キロ級金メダルの川井梨紗子に2度も投げられ、海外でも話題となった。

 熱血指導の一方で、冗談好きでいつも周りに笑いが絶えない。頭をなでながら「メダルが獲れなかったら頭を丸めます!」と言うのは、五輪前の鉄板ネタ。50歳を過ぎて授かった2歳のまな娘に、帰国直後に「あした帰るよ~」と電話し「(吉田)沙保里が負けたと理解して『えーん、えーん(と泣いていた)』と言うんだよ」と目を細めるよきパパでもある。

 練習量は世界一と言われる一方、戦略は緻密で繊細。今五輪のメダルラッシュは指揮官のチームマネジメントも要因の一つだ。女子代表の指導を始めた頃から、選手の適正体重を見極めると迷わず階級変更をすすめてきた。実力者同士がつぶし合いにならないためだが、減量ではなく増量を選ぶのが特徴的だ。

 例えばアテネ、北京五輪で72キロ級銅メダルを獲得した浜口京子は、65キロ級からスタート。しかし、そこには世界女王の先輩、浦野弥生がいた。栄監督は「練習で勝てればいいが、今のままでは世界は無理」と浜口に増量を命じた。そこには「親(アニマル浜口)もプロレスラーなので、体を大きくすることはできる」という計算もあった。

 リオで五輪4連覇を達成した伊調馨も55キロ級の時には山本聖子、吉田沙保里が代表候補にいた。吉田が山本に勝ち始め、存在感を強めてきた頃にアテネ五輪で女子が正式種目となることが決まった。栄監督は「(身長で上回る)伊調が減量してやせたら吉田には勝てない」と考え、63キロ級に有力選手がいなかったことから伊調に増量を指示。伊調は63キロ級でアテネから五輪3大会を制した。

 リオで48キロ級金メダルの登坂絵莉も高校時代は44キロ級や46キロ級。しかし、国際大会にはそれらの軽い階級がないため、将来性を見込んで早めに階級を上げさせた。今五輪で新設された58キロ級に伊調が移ると、同級の川井には63キロ級をすすめた。急成長した川井は本命の渡利璃穏に勝ち、五輪切符をつかんだ。

 敗れた渡利は、その後2カ月で2階級を上げて75キロ級で代表入り。今五輪は女子で唯一メダルを逃したが、戦前から栄監督は「また63キロ級に戻せば、とてつもなく強くなっているはず」と見込んでいた。根底にあるのは「選手の生きる道を探す」という思いだ。

 五輪前には「自分の経験では、体重を落とすより増やす方が成功例は多い。体重を落とすと筋肉を絞り込み、体力もなくなる。もともと勝てている世界王者が絞り込むならいいが、勝てない選手が減量してもさらに勝てない。食べて筋肉をつけて強くなる。そして、さらに強い選手に挑戦する。逃げない姿勢が競技生活には必要だと思う」と語っていた。登坂、伊調、土性の3連続逆転金メダルが象徴するように、残り数秒でもあきらめない精神力は日本女子の真骨頂。それは、指揮官の攻めの姿勢によって培われたのかもしれない。(デイリースポーツ・船曳陽子)

最終更新:8月27日(土)14時17分

デイリースポーツ