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教えて! キラキラお兄さん「エンジニアのキャリアもグロースハックできますか?」

@IT 8月29日(月)8時10分配信

 今回より始まる「プロエンジニアインタビュー」は、IT業界で活躍中の「プロとしての気概を持って働くエンジニア=プロエンジニア」たちに、自身のキャリアやエンジニアとして心掛けていることなどを聞くインタビュー集だ。今後のキャリアに迷いや不安を持っている、新たな可能性を模索しているエンジニアたちの参考になれば幸いだ。

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 最初にご登場いただくのは、「Growth Hack Studio(グロースハックスタジオ)」でエンジニア兼コンサルタントを務める前田洋平さん。顧客のサービスやプロダクトの成長を支える仕事をする前田さんに自身の“グロースハック”について聞いた。

●現役グロースハッカーに聞く! グロースハックの真骨頂

 2015年4月に設立されたグロースハックスタジオでエンジニア兼コンサルタントとして働く前田洋平さん(29歳)。グロースハックスタジオは、新規事業に取り組む企業にグロースハックをサービスとして提供する企業だ。前田さんはコアメンバー4人のうちの1人として、主にデータ分析や可視化を中心としたプロダクトマネジメントを担当している。

 グロースハックというと、思い通りに進まない事業から欠点や長所を探し出し、そこに手を入れることで加速度的な成長サイクルを生み出す魔法のようなテクニックを想像しがちだ。グロースハッカーの真骨頂もそうした“銀の弾丸”をどう撃ち込むかにあるように思える。だが、実際はかなり違うようだ。

 「どんなサービスでも『こうすれば必ずうまくいく』という方法はありませんよね。さまざまな試行錯誤を行って、そのサービスに合った成長の方法を探っていくことが大切です。その意味では、サービスを成長させるのは唯一の方法は、正しいブロダクトマネジメントなんです」

 前田さんの考える「正しいプロダクトマネジメント」とは、「サービス改善のためのPDCAサイクルを回し続けること」だ。具体的には、「エンドユーザーは何を求めているのか」「筋の良い仮説は何か」「素晴らしい発想によるプランかどうか」「データベースは正しく設計されているか」といったさまざまな要素を考えながら、全体として大きな流れを作り出す手助けをしていく。実際には地味で、だからこそ地力が問われる分野なのだ。

 「今の仕事は、代表取締役兼共同経営者の広岡が行ったビジネスサイドからの分析に対して、ボクがエンジニアとしてデータを分析したり、KPIモニタリングのビジュアライズなどを行ったりしてサポートすることです。プロダクトのコードを書くよりは、プロダクトをどう成長曲線に乗せるのかについてプロダクトマネジャーを補佐する。スプレッドシートやGoogleアナリティクスの結果を見てミーティングすることがメインになる日も多いですね」

 顧客は大手企業が中心だ。今や企業のサービス展開にはスマートフォンやWebの知識が欠かせない。ただ、サービスを開発する企業側にそれらの知識が十分にあるわけではない。かといって、スマートフォンやWebのアプリを開発する企業では、サービスやビジネスを成長させるノウハウを提供しているわけでもない。そこで、顧問先企業と開発パートナーの間に入って、プロダクトの持続的な成長をコントロールしていくわけだ。

 「いったん組み上がったプロダクトをあえてしっちゃかめっちゃかにして再び組み上げるような楽しさと難しさがあります。エンジニアとして最新のWeb技術に常に触れながら、実際のビジネスの現場で経験を積み上げていけるのが大きな魅力ですね」

●エンジニアリング、デザイン、ビジネスの3本柱を意識

 前田さんが心掛けているのは、「エンジニアリング」「デザイン」「ビジネス」の3本柱を意識することだ。

 「エンジニアリング」は、グロースハックに欠かせない重要な要素だ。グロースハックスタジオが提供するサービスには、KGI/KPIツリーやユーザー像の分類を作り、それに合わせてモニタリング環境を整えることや、街頭インタビューやアンケートを使ってユーザーセグメントを分析し、そこから考えられる仮説をチューニングすること、サービスの成長ストーリーの作成とFit-Gap分析などを行って予算獲得へと導くことなどがある。

 「こうしたサービスを提供する上では、データをどう集めてどう見せるかや、どんな技術を使ってどう構築するかといった専門家の目線が必要です。そこで、エンジニアの知識とスキルが生きてきます」

 逆に、エンジニアリングに裏打ちされないコンサルティングは顧客を振り回して終わることにもつながりかねない。そこで同社では、コアメンバー4人のうち3人がエンジニアという陣容で、単なるビジネスコンサルティングにはない価値を提供できるようにしているという。

 2つ目の柱となる「デザイン」は、アプリ開発のUI/UXを担う重要な要素だ。エンドユーザーが何を考えているかを知るために、UI/UXに対する評価や変更への反応からデータを収集して改善を行っていく。実際のサービス開発の現場でも、エンジニアとデザイナーがお互いに連携することが、PDCAサイクルを回しやすくするための1つのポイントになる。

 「技術職であり立場も似ているため、エンジニアとデザイナーは意思疎通が図りやすいと思います。ユーザーの意見を最も知りやすい立場にもいます。注意したいのは、ディレクターやマネジャーなどの上の立場から降りてきた要求に対して、そろって受け身になりがちなことでしょうか。言われたことをただこなすだけではなく、とにかく意見を出していく姿勢が大事だと思います」

 3つ目の柱「ビジネス」は、技術職にとって最も縁遠い領域だ。だが前田氏は「だからこそ積極的に学んでいく必要がある領域だと感じた」と話す。

 「この会社にジョインしたきっかけは、スタートアップの立ち上げという“ゼロイチ”を経験したかったからです。それと、自分に足りないビジネス面での経験を身に付けたかったから。まさに今、自分に足りないビジネスの経験を積んでいるところなんです」

●アプリエンジニアから広告・マーケティングの世界へ

 前田さんがサービス開発の面白さに目覚めたのは、社会人1年目のことだった。大学で化学を専攻し、学卒で都内のSIerに入社した。半年間の研修と社内OJTでJavaを学び、最初の派遣先となった映像系ベンチャーでAndroidアプリの開発を任された。自由な環境で最先端の技術に触れ、新サービスを立ち上げる面白さを肌で知ったという。

 その後、ポータルサイトを運営するエキサイトに転職。面接で「米国でNo.1を取れるスマホアプリを作ろう!」という熱いパッションを持った上司に出会い、心を突き動かされた。配属されたスマートフォン推進室では、企画から開発、運営までを一貫して行った。チームで担当したアプリが「東京スマートフォンAPPアワード」で最優秀賞を獲得した経験もある。電子書籍アプリ「Dモーニング」やニュースアプリ「エキサイトニュース」の開発も担当した。

 「チームがフラットな関係で、プロデューサーやデザイナーらとあれこれ話し合いながら新しいサービスをゼロから開発していきました。作る楽しさ、リリース後にユーザーが増える楽しさ、レビューを読んで改良する楽しさ、B2Cサービスの面白さを実感した時期です」

 フットワークが軽く、意識も高かった。エンジニアとしては、AndroidやiOS向けアプリの開発を中心として、UnityやCocos2d-xなどを使ったゲームアプリ開発の技術、SDKの開発や管理画面側のデザインの実装にも携わった。プラットフォーム全部を押さえようという戦略の下、いろいろな技術を吸収していったという。また、B2Cサービスの楽しさを知ったことで、広告やマーケティングの重要性にも関心が広がっていき、飲み会を通じて知り合った友人を通して、「アド部」という勉強会に足しげく通うようになった。

 「アド部は『開発者ってマネタイズの方法知らないよね』という問題意識から始まった勉強会です。DSPやSSPといった広告の技術だけでなく、ビジネスモデル開発なども取り扱っていました。エンジニアとアド関係者の接点ってほとんどありませんでしたから、そこをつなげようという意図もありました。このアド部で本当にいろいろな人たちと出会いました。今の会社の広岡ともそこで知り合ったんです」

 アプリ開発の技術力と「人の懐に入り込む力」を買われ、エキサイトから広岡氏がCFOとして経営に携わっていたアドイノベーションへと転職。同社で代理店が利用するスマートフォン向け広告効果測定ツールの開発を担当した。アドイノベーションでは、現在グロースハックスタジオの代表取締役兼共同経営者の和家翔氏とも知り合っている。和家氏からスクラム開発やファシリテーションの在り方、チームビルディングの方法など学んだという。

●シリーズAのスタートアップで“ゼロイチ”をやりたい!

 アドイノベーションで、テクノロジーと広告・マーケティングを融合した世界に触れると、今度は、ビジネスそのものを立ち上げる現場に行きたいという欲求が出てきた。そのタイミングでエキサイト時代の上司に誘われ、伸び盛りの企業として注目されていマネーフォワードに転職した。

 「マネーフォワードではAndroid版の家計簿アプリの開発を担当しました。自分のスキルが生かせることは良かったのですが、想像以上にフェーズが進んでいて、入ってから違和感を覚えるようになりました。個人的な感覚では、シリーズAではなくシリーズBだったんですね」

 シリーズAは資金調達の最初のフェーズであり、資金調達に向けてビジネスを作っていくことがミッションだ。一方、シリーズBは、「どうビジネスを立ち上げるか」から「どうビジネスを拡大していくか」にミッションが変わる。エンジニアに求められる役割も、ビジネスを考えた動き方よりは、定まった目標をどううまく遂行するかの比重が大きかった。実際、所属先のチームでは、仕様やデザインを決める席にエンジニアが参加することが少なく、出した意見が仕様に反映されるまで時間がかかることもあった。

 次第に「もっと小さなスタートアップで事業の立ち上げから関わった方が、やりたいことができるのでは」と考えるようになった。そんなタイミングで和気氏が独立してグロースハックスタジオを設立。同氏らから「最初の社員」として誘われたことをきっかけに、4人のコアメンバーの1人としてジョインすることになるのだ。

 「29歳で5社目」と言うと、かなりの落ち着きがないように映る。前田さん本人も「飽きっぽいので」と笑うが、実際に足跡を追ってみると「やりたいこと」に対して一途であることが分かる。

 「エンジニアって、自分から知識や情報を取りに行こうとしないと自分の好きなものに寄っちゃうんですよ。エンジニアとして、1つの技術に集中してそれだけを深く追い求めることは大事。でも、Webやスマホアプリのように常に新しい技術が出てくる世界では1つのことに集中し続けるのはリスクになりかねません。自分にはそのリスクを負い続ける度胸がなかった。だから、少しずついろいろな人から話を聞いて、知識と情報を広めていこうとした。そこに積極的になる方が自分らしいのかなと思います」

●大事なのはユーザーのために考えること

 前田さんがエンジニアリングやビジネスを考えるときに1番大切にしているのは「エンドユーザー」だ。B2Cサービスからキャリアを始めたことも影響しているが、B2Bサービスでも常にエンドユーザーを意識するように努めている。

 じつは、前田さんには、エンドユーザーが見えなくなって心が折れそうになった経験がある。新卒で入社したSIerで、金融案件に従事したときだ。外部から遮断されたテレコムセンターに派遣され、テストケースのスクリーンショットを撮ってExcelに貼り続けてドキュメントを完成させるという、絵に書いたような「金融あるある案件」に遭遇した。使われているコードは汚い上、直す権限も与えられてない。数週間続ける中で、「誰のために自分が何をしているのか」が分からなくなった。

 それでもめげずに自宅に帰ってから新しい知識の勉強を続けていたが、あるとき先輩社員から「Webでこんなことしたいんだけどどうすればいいの」と質問され、がくぜんとした。前田さんは、Ajaxを使えばすぐにできることが分かったが、角が立たないように「Ajaxっていうのがあるらしいですよ」とやんわり答えた。すると先輩社員は、Ajaxという言葉自体を初めて聞いたような顔をした。2011年のことだ。ちなみにGoogle Mapsがリリースされ、Ajaxが脚光を集めたのは2005年の話だ。

 それを見て「Ajaxすら知らないのか。そうか。なるほど。やめよう」と、ストンと心の整理がついたという。エンドユーザーが見えなくなると、言われたことをやるだけのエンジニアなり、新しい技術の習得やリサーチも怠るようになる。そうこうするうちに、自分の技術力やポジションさえ見失うことになる、と悟ったからだ。

 前田さんは、環境は意識して変えられると考える。

 「仕様があって、ユーザーがいて、提供する機能がユーザーに合わないなら、ユーザーのために仕様を変えるべき。ユーザーのためにならないと技術を提供する意味はありません。そのためにはまずは疑問を誰かにぶつけることが大事だし、やってみて失敗することも必要です。失敗をすることで、自分の周りにあるカラを破れます。カラを破ることで周りの環境も変わってくるはずです」

 前田さんは新しい取り組みにも積極的だ。勉強会への参加は少なくなったが、新たに社外活動として、会社公認で個人事業主としての受託開発やサービス開発を始めた。これまで、iBeaconを使ったAndroid SDKや、広告のSDKなどを企業に対して納品したという。

 現在、前田さんがチャレンジしているのが、ビジネスとエンジニアリングを融合するための取り組みだ。例えば、エンジニアリング、デザイン、ビジネスという3本柱を、事業のグロースハックだけでなく、エンジニアの成長にも必要な要素として学ぼうとしている。前田さんはこう話す。

 「まだまだペーペーで勉強中です。分からないこともたくさんあります。分かるようになるには、3年、4年と時間がかかると思います。恐らく今までで1番長い社歴になるんじゃないでしょうか。でも、エンジニアリング、デザイン、ビジネスの3つを自分の軸として持っていれば、将来何かをやりたいと思ったとき、どんなことでも実現できる気がするんです」

最終更新:8月29日(月)8時10分

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