ここから本文です

ディズニーは「夢と魔法」で企画をつくる――ヒットを生み出すための10のストーリー

ITmedia ビジネスオンライン 8月29日(月)8時28分配信

 ITmediaエグゼクティブ オープンセミナーに、元ウォルト・ディズニー・ジャパン(ディズニー)シニア・プロデューサーの大畠崇央氏が登場。著書である「ディズニー流 感動を生む企画の秘密(すばる舎)」の内容に基づき、約10年間のディズニーでの経験を生かした、ヒットする企画を生み出す10のストーリーを紹介した。

【企画は改善し続ける】

●企画はなぜ失敗するのか。

 「多くの人から"ディズニーは、なぜたくさんの人を集めることができるのか"と聞かれる。ディズニーに在籍していたときは、"魔法使いがいるからです"と答えていたが、ディズニーも普通の会社であり、予算や目標、達成率などが細かく決められており、方針を間違えると普通に失敗することだってある」(大畠氏)

 例えば、米国ディズニーランドのアトラクションである「ホーンテッドマンション」も、実は失敗するかもしれないプロジェクトの一つだった。外観は完成したのだが、スケジュールの大遅延で、内装がまったくできておらずオープンが約2年遅れた。

 しかしウォルト・ディズニーは、「ゴースト入居者募集中」という看板を出すように指示し、さらに2年後に「ほぼ完売! 残りは人間の皆さん仲間になりませんか?」という看板を出させた。スケジュール遅延という大失敗を、ストーリーをつくりあげることで大成功のプロジェクトに変えてしまったのだ。

 大畠氏は、「失敗だとあきらめた時点で、そのプロジェクトは失敗になる。常に挑戦を続けることが必要。10割バッターはいない。間違いを直し続けることで、良い結果を残せるようになる」と話し、企画の根源やひらめきの原点など、ディズニーにおける企画の考え方を10のストーリーで紹介した。

●1、企画の根源:究極の自己満足をしよう

 企画の根源は、徹底的にゲスト代表の視点になることであり、その究極が「自己満足」である。キャストが笑顔になれない企画を楽しめるゲストはいない。ヒットとは結果であり、ゲストの通信簿である。

 ピクサーの責任者であったジョン・ラセターは、ディズニー映画の低迷時にディズニーの責任者も兼任することになった。このとき方針を「ヒット作を作りなさい」から「自分が良いと思うものを作りなさい」に変更した。この方針により、ディズニー映画は、再びヒット作を連発するようになる。

 「ラセターは、"自分が良いと思うもの、楽しいと思うものを作りましょう。"と話し、私はそれを「まず究極の自己満足をしよう」とチームに伝えていた。データ分析も必要だが、それは過去の証明でしかない。最終的には、自分の判断が重要になる」(大畠氏)

●2、企画とは何か:企画とは「夢」と「魔法」

 ディズニーの企画は、「夢」と「魔法」の2つの要素から成り立っている。大畠氏は、「"夢と魔法では商売にならない"と思う人は多いと思う。しかし、フィリップ・コトラー氏がマーケティング4.0の考え方で自己実現が求められていると指摘しているのと同様に、現在は夢が必要な時代であり、夢と魔法はどの企業にも必要なキーワードである。企画者は目的を売り上げにするのではなく、顧客の夢をかなえなければならない」と話している。

●3、企画と組織:2人のディズニー

 ディズニーといえば、ウォルト・ディズニーが有名だが、実はもう1人のディズニーとしてウォルト・ディズニーの兄であるロイ・ディズニーがいる。大畠氏は、「ウォルト・ディズニーは企画担当であり、ロイ・ディズニーは財務を担当していた。この2人の信頼関係があったからこそ、ディズニーの企画は成功した」と話す。

 在籍当時のディズニーのチームでの考え方では、全体の売り上げを見るのが上層部であり、顧客満足度を考えて目標を積み上げるのが現場の企画者であった。大畠氏は、「目指したい組織は、イノベーションを起こせる組織、行動力のある組織、失敗できる余裕のある組織である。そのために必要なのは、"ホウレンソウ"より"カリフラワー"である」と言う。

 ホウレンソウとは上司・部下でのコミュニケーションにおいて必要とされる、報告、連絡、相談のことであるが、それは経営者視点の考え方であり、上司が進捗管理をするのに有効なもの。一方、カリフラワーは同じコミュニケーションでも、仮説を話す、フラっと雑談する、ワーニングを出すことが重要という考え方で、企画を推進のためのものである。そのためには、机上の議論よりも実践ができる信頼関係を作り、スピードを重視することが必要になる。ちなみに、カリフラワーはディズニー用語ではなく大畠氏の造語である。

●4、ひらめきの原点:企画者にとって大切な帽子と靴

 企画者としては、仕事の時間、遊びの時間と明確に区切るのではなく、仕事中でも遊んでいる、遊んでいるときでも仕事中であるという感覚を持つことが望ましい。

 「人はインプット以上にアウトプットすることはできない。そこで1年1趣味を実践している。スポーツや音楽、勉強など、毎年、違う趣味を持つことで、新たな発想が生まれる。特別な理由はなく、なんとなくやってみようという程度からスタートしているが、ひらめきの原点をたくさん見つけることが重要」(大畠氏)

●5、ブレスト手法:Yes, ifで連鎖させる。

 大畠氏はディズニーで、「白雪姫」「シンデレラ」「美女と野獣」「アラジン」「眠れる森の美女」「リトルマーメード」という、6人のプリンセスの物語に登場する悪役にあわせて企画を考えていく手法を実践していた。事前に用意したチェックリストに答えることでアイデアを生み出す「オズボーンの発想法」を応用したものといえる。

 例えば、ジェットコースターの企画を考える場合、「世界で1番美しいのはだれ?」と聞く白雪姫の王妃(魔女)から「世界で1番短い(動かない)スターツアーズ」とか、実子を「ひいき」するシンデレラの継母から「宇宙飛行士をひいきしたスペースマウンテン」、美女と野獣を「強引にくっつけた」ガストンから「お化け屋敷とくっつけたタワー・オブ・テラー」といった具合の発想法である。

 また伝えたいことを、まずは120字にまとめ、次に16文字に、最後に漢字1文字にする「言葉を減らす練習」も行っていた。これにより、要点がしぼられ、自分の考えを明確にできる。大畠氏は、「自分の会社にあわせたテーマで発想すること、ディズニーのストーリーにすることで、企画を身近にできる」と言う。

 さらにディズニーでは、「ブルースカイ」という発想法を実践している。ブルースカイの由来は、青天井であり、すべてを否定することなく突き抜けたアイデアを出すもの。たった1つだけルールがありそれは「アイデアがないのが、最も悪いアイデアである」。

 「1つのアイデアに対し、"もしこうだったら(Yes, if)……"という発想を繰り返すこと。"できないよ。だって(No, Because)……"は厳禁である。自分視点で、制限なく、子ども心を持って、無邪気に話すことが重要。これにより、最終的に1つのストーリーを導きだすことができる」(大畠氏)

●6、1番重要な要素:すべての始まりはストーリー

 ディズニーでもっとも重要な企画の要素は、「ストーリー」である。商品でも、映画でも、アトラクションでも、企画を伝える手段は問わないが、どのようなストーリーなのかを明確にすることが必要である。

 例えば、ディズニーのアトラクションは、4つのストーリーで構成されている。まず行列で飽きさせないための「キューライン」、アトラクションの背景を紹介する「プレショー」、実際のアトラクションである「メインショー」、出口までの「ポストショー」の4つである。これは「BEAR」によるストーリーの伝達である。

 BEARとは、「Before、Enter/Enjoy/Experience、AfteR」という体験時間の考え方のこと。Before(前)で「気持ちを作る」、Enter/Enjoy/Experience(中)で「背景を知る」と「実際の内容」、AfteR(後)で「出た後も続く」という4つのストーリーで企画が考えられている。

 アトラクションを待っている間も、終わってからもワクワクした気分が続いていたのは、ディズニーの企画通りだったのだ。

●7、インターナルブランディング:チームで書初めをする

 企画では、インターナルブランディングが重要になる。毎年、1月にチームで書初めを行い、7月に七夕で短冊に願い事を書いていた。1月は上期の目標を、7月は下期の目標を書いていた。メンバーが何を考えているかを発表することで、応援する環境を作ることが目的だった。

 自分のやりたいこと、会社の方向性、ゲストの気持ちの3つがすべて共通していることが理想である。大畠氏は、「どれだけ共通化できるかを模索することが必要だった。会社にやらされているのではなく、自分でやっていることが重要。夢は生産性を向上することができる」と話している。

●8、マーケティング:ミッキーを消せ

ディズニーの企画は、ミッキーが登場することではない。例えば、ディズニーがハワイに造ったリゾートホテルには、アトラクションやショーは1つもなく、あるのは、「らしい」ホスピタリティだけである。

 「ディズニーらしさとして、ストーリー、イノベーション、クオリティ、オプティミズム(ハッピーエンド)、コミュニティ、ディセンシー(礼儀)、エンターテインメントの7つを実践している。これがディズニーのブランドであり、ミッキーがいることではない」(大畠氏)

 大畠氏は、「重要なのは"らしさ"を考えることである」と話している。

●9、PDCA:ディズニーランドは永遠に完成しない

 ゲストの気持ちは、常に変化する。そこでゲストの標準値、期待値を意識する。標準を超えると「感謝」になり、期待を超えると「感動」になる。リピーターは、標準値と期待値が1段高くなるので、同じことをしていたのでは感動は生まれない。ディズニーに限らず、現状維持は後退していることと同じである。

 そこで、PDCAサイクルではなく、STITCHサイクルで考えることが必要になる。STITCHサイクルとは、STory(方向性を考える)、Idea(アイデアに落とす)、Traial(まずやってみる)、CHange(変更する)の繰り返しで企画を改善する手法である。

 「考えるよりも動き、失敗を歓迎することが、ディズニー流感動を生む企画の秘密である。"ディズニーランドは永遠に完成しません。創造力がある限り、成長し続けます"という言葉がある。お客様にとって最高のものを考えると、作って終わりではない」(大畠氏)

●10、終わりに:夢は叶う

 ディズニー・ピクサー映画「トイストーリー」のキャラクターであるバズ・ライトイヤー(バズ)は、自分は宇宙から来たと思い込んでいる。そのバズのフィギュアを、NASAが本当に宇宙に連れて行ったことで、バズとバズが好きな子どもたちの夢がかなった。大畠氏は、「たった1体のおもちゃかもしれないが、それがゲストの夢をかなえる手段、希望にもなる」と語る。

 「ディズニーが人を集めることができる理由として"魔法使いがいるから"と話したが、実は今でも"やっぱり魔法使いがいるから"だと思っている。ただし、その魔法使いとは企画者自身である。お客様の声を聴き、いかに夢をかなえるかは、企画者の心1つである。"夢は叶う、もしそれを追い求めるならば"」(大畠氏)

 ディズニー流企画の秘密を自身の仕事にも取り込んでいきたいが、それ以上に大畠氏がこの秘密を自分で咀嚼し発展させ、分かりやすくチームメンバーに伝え、巻き込み新たなサービスに次々と取り組んでいる姿勢に敬服した。「仕事を楽しもう。夢は生産性をあげるのだから」は印象的な言葉でした。

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:8月29日(月)8時28分

ITmedia ビジネスオンライン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

暗闇で光るサメと驚くほど美しい海洋生物たち
波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]