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【映画「君の名は。」を観て】RADWIMPSと新海誠監督を結びつけた作品性とは?

M-ON!Press(エムオンプレス) 8/29(月) 18:07配信

◆心が入れ替わり出会いを遂げる、SFファンタジー

この夏、最注目のアニメーション映画「君の名は。」を観た。

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新海 誠作品には並々ならぬ想い入れがある筆者にとって、本作から感じたことは実に多い。

新海監督といえば「秒速5センチメートル」(2007年)や「言の葉の庭」(2013年)のような、現実世界を舞台にした詩的で切ない恋物語を思い浮かべる人が多いだろう。

実際に、公開前の様々なテレビ番組では盛んにこの2作品の映像が使用され、「君の名は。」は「世界一美しい」と呼ばれる緻密な風景描写を背景に、少年と少女の恋物語がみずみずしく描かれている作品だと紹介されていた。

ところが本作の主題は、都会の男子高校生と田舎の女子高校生の心が入れ替わり出会いを遂げる、SFファンタジーだ。

◆“作家性”について、改めて議論をするきっかけになる

物体だけでなく光をも描き込んでいく背景美術と、青く切なく香るジュブナイルとの組み合わせ。つまり「君の名は。」を新海監督の過去作品になぞらえて語るためには、「星を追う子ども」(2011年)が欠かせないことになる。さらに世界を分かつ重要なファクターとして機能する“夢”。これも主題は違えど「雲の向こう、約束の場所」(2004年)を思い出さずにはいられない。

新海監督のアニメーション映画はこれで6作品目になるのだが、彼のセンスはそれぞれが独立しているのではなく、むしろすべてが欠けることなく絡み合った連なりの中にあると思う。飛び抜けた背景描写によるアート性への評価が先行するなかで、「君の名は。」は新海監督の最初期から一貫してきた“作家性”について、改めて議論をするきっかけになるのではないか。

◆表情や仕草の表現にも、これまで以上の執着が込められていた

もちろん、本作は過去の経験だけから作られたものではない。むしろ新海作品には野心的な一面がのぞくことのほうが多く、例えば作画では3DCGと手描きのハイブリッドによる背景美術の技術にますます磨きがかかり、つねに日中シンクロしたかのような新しい超写実を生み出すことに成功している。またキャラクターの表情や仕草の表現にも、これまで以上の執着が込められていた。

特にこのキャラクターの演技(動き)の機微は、新海作品のなかでも際立った変化だった。これは作画監督に元ジブリの安藤雅司を迎えたことが大きいのだろう。

そういえば、新海監督は過去に「星を追う子ども」公開前後のインタビューで、ジブリ作品のオマージュを多々取り入れたことについて、「伝統的な日本のアニメーションを自分になりに完成させたい」という旨の発言をしていた。こんなスタッフ起用の背景にも、彼が昔から秘めてきた野心との一貫性がある。

◆叙情的な空のイメージとよく結びつく

もうひとつ、ここでは背景美術に並び、新海作品におけるもうひとつの大きな個性と評価される音楽についても触れたい。

新海作品の劇伴は「ほしのこえ」(2002年)から「星を追う子ども」までの4作品を、作曲家の天門が担当してきた。触れれば今にも崩れ落ちそうな、細やかで儚いタッチのピアノの調べ。そして甘やかに響くバイオリンの和音は、新海作品における男女の心情描写に大きな影響を与えてきた。彼の音楽にはどこか“空気感”が浮遊しており、それは新海監督が描く叙情的な空のイメージとよく結びつく。

「言の葉の庭」ではあらたにKASHIWA Daisukeが迎えられた。エレクトロニカ畑である彼の緻密な音楽性は、作品の舞台となった新宿御苑をすみずみまで描ききっていた。午前中のふとした晴れ間や、突然の雷鳴と豪雨。1日の中で目まぐるしく変化していく公園とシンクロするように音が鳴り、それが主人公とヒロインの心情にも重なっていく構成は見事だ。

◆稀代の詩人と詩人による思いがけないタッグ

そして今回、「君の名は。」の劇伴を担当することになったのは、RADWIMPSだった。

これは過去の新海作品からはまったく予想できなかった事件だ。そもそもロックバンドがアニメーション映画の劇伴を担当することは、アニメ業界全体を見ても珍しい。

ところがどうだろう。こんなにワクワクする組み合わせもなかったのではないか。新海 誠とRADWIMPS。稀代の詩人と詩人による思いがけないタッグに、興奮を覚えたのは筆者だけであるまい。

8月24日、映画の公開に先んじて、RADWIMPSのアルバム『君の名は。』がリリースされている。もちろんこれは、同作品のオリジナルサウンドトラックだ。

RADWIMPSが紡いだ音楽は、当然のことながらRADWIMPSらしさに満ち溢れていた。歌モノだけでなくふとした日常曲にも宿る、彼ららしいギターの響きやピアノのタッチ、リズムパターン。どんなに映画音楽に徹しようとしていても、各曲からにじみ出る記名性が隠せていない。

◆キーファクターは、赤いリボン

今作の劇伴は、過去作品よりも少しだけ温度の高い音が鳴っていたように思う。おそらくは作品の雰囲気や景色を描写することよりも、キャラクターの心そのものを表現することに重きが置かれたはずだ。それは新海監督と同じく人と人の関わりをテーマに「君」と「僕」を歌ってきた、RADWIMPSという作家性の現れなのだろう。

新海監督とRADWIMPSのタッグが成立した経緯については、オフィシャルや他メディアでのインタビューに詳しい。ただ、結果としてここでもはっきり言えるのは、両者の相性は最高だったということだ。

これは蛇足なのだが、ほぼ同時期に野田洋次郎がプロデュースし、Aimerに提供した楽曲「蝶々結び」のキーファクターは、赤いリボンだった。それは不思議なことに、「君の名は。」に登場する宮水三葉が持っているものと一致する。

意図的だったか無意識だったかはわからない。だが少なくとも、「君の名は。」のモチーフが別作品の創作にも現れるほど、彼らは今回の劇伴制作にのめり込んでいたのだ。

◆ネタバレOKで語り合える仲間が早くほしい

それにしても新海監督は、これほどまでの記名性を持つRADWIMPSの劇伴を、よくも破綻なくアニメーション映画としてまとめ上げたものである。そこにはカメラワークやカッティングなどの編集センス、独特のセリフ回しによる演出など様々な技術的な要素があるのだが、新海監督はこの点においても、自己を更新して過去最高作を作り上げている。

「君の名は。」は現在、全国300館以上で上映中だ。新海 誠が一貫して描いてきたテーマと、飽くなき追求で高められてきた映像作品としてのセンス。おそらく新海監督はまた、国内外から大きな賞賛を受けることになるだろう。そしていよいよ名実ともに、世界を代表するアニメーション映画監督として、ジブリや細田 守の域に達するのだ。

ああ、本作をネタバレOKで語り合える仲間が早くほしい。「君の名は。」を観た人間は、きっとみんなそう思っているはずだ。

TEXT BY 西原史顕(元リスアニ!編集長)

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映画情報

君の名は。
08/26(金)全国東宝系公開中
監督・脚本:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
声の出演:神木隆之介、上白石萌音
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝

オフィシャルサイト:http://www.kiminona.com/index.html

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プロフィール

ラッドウィンプス/野田洋次郎(vo、g、piano)、桑原 彰(g)、武田祐介(b)、山口智史(ds)。2005年シングル「25コ目の染色体」でメジャーデビュー。ドラム山口智史は持病の治療のため休養中。

オフィシャルサイト:http://radwimps.jp

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リリース情報

2016.08.24 ON SALE
ALBUM『君の名は。』
EMI Records

最終更新:8/29(月) 18:07

M-ON!Press(エムオンプレス)

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