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フォードが“完全な”自動運転車の開発を本格化へ

EE Times Japan 8月29日(月)16時29分配信

■2021年には完全自動運転車の実用化を狙う

 Ford Motor(フォード/以下、Ford)のCEO(最高経営責任者)であるMark Fields氏は2016年8月16日(米国時間)、「当社は、自動運転車の実現を目指していく上で、段階的に開発していくつもりはない」との考えを明らかにした。

【米国で自動車の保有率が減っていることを示す資料などの画像】

 アクセルやブレーキペダル、ハンドルなどを一切搭載せず、ドライバーが乗車するかどうかを選択可能な、完全な自動運転車の実現に向けて、一直線に突き進んでいく考えだという。

 Fields氏は、「2021年初めには、完全自動運転車を実用化し、配車やカーシェアリングなどのサービス提供を開始したい」と宣言した。

 今回のFordの発表には、注目すべき点が2つある。1つ目は、ドライバーが不要な完全自動運転車をゼロから作り上げるという決断を下した点。そして2つ目は、個人の移動手段が変化する中で役割を果たすべく、崇高な目標を掲げたという点だ。

■ドライバーは必要か、不要か

 現在、ほとんどの自動車メーカーが、完全自動運転車の実現に向けて、段階的に開発を進めている。Fordの開発の仕方はGoogleが「Google Car」を開発している方法とよく似ていて、例えばトヨタ自動車(以下、トヨタ)が提唱している“運転助手モデル”などとは大きく異なる。トヨタは、完全自動運転を実現する上で、機械による運転と人間による運転とを組み合わせることが重要なステップになると考えているのだ。

 Toyota Research InstituteのCEOであるGill Pratt氏は2015年4月に、ドライバーの動きを自動的に制御したり微妙に調整することで危険を回避する、「Guardian Angel(守護天使)」機能について語っている。つまりトヨタ自動車は、最初は完全な自動運転車を目指すのではなく、ドライバーが事故を回避できるようにハンドルを取ってサポートすることが可能な自動車を開発したいという考えだ。

 自動車業界は現在、命を救うためにはどのアプローチが適しているのかという点で、合意できていない状況にある。しかし、Fordは今回、独自の結論を明示してみせた。

 Fields氏は、「Fordは、自動運転車のターゲット市場として、配車サービスやカーシェアリングサービスを挙げている。ただ単に、自動運転車の実現を目指すのではなく、完全自動運転車によって実現可能な、新しいモビリティーソリューションとビジネスチャンスを提供することを目指すのだ」と述べている。

 同氏は、「世界は常に速いスピードで変化しているため、傍観しているわけにはいかない。当社は、こうした変化を積極的にけん引していく考えだ」と付け加えた。

 変化を積極的に受け入れていくというFordの姿勢は、称賛に値する。投資コミュニティーやメディアにも、魅力的に映るはずだ。

 しかしFordは、配車やカーシェアリングなどの計画の他に、完全自動運転車を保有するのはどのようなユーザー層なのか、またその導入場所や導入方法などについて、見通しをうまく説明できていないようだ。

■米国自動車市場は縮小?

 米国の市場調査会社であるStrategy Analyticsのグローバルオートモーティブ部門でアソシエートディレクターを務めるRoger Lanctot氏は、以前に自身のブログの中で、「自動車メーカーは、カーシェアリングによって自分たちがどのような状況に陥ることになるのかを理解しているのだろうか」と疑問を投げ掛けている。

 同氏は、「カーシェアリングや配車サービスはいずれも、自家用車による移動を、ネットワーク化された公共交通機関へと変化させることを目的としている」と指摘する。自家用車と公共輸送用車両の比率を頭の中で計算してみれば、この目標がいかに難しいかがよく分かるだろう。

 Lanctot氏はブログの中で、かつてGM(General Motors)の研究開発担当コーポレートバイスプレジデントを務めた経歴を持つLarry Burns教授が、Mentor Graphicsが最近開催したイベント「IESF(Integrated Electrical Solutions Forum)」において登壇した時の発言を引用し、もう1つ別の問題を提起している。

 Lanctot氏は、「Burns氏によると、米University of Michiganの研究結果から、1万8000台の自動車をネットワーク接続して共有すれば、既存の自動車12万台に相当するモビリティーを提供できることが明らかになったという。つまり、現在路上を走行している自動車全体の15%を使用するだけで、現地のモビリティー需要に対応できるということになる。自動車メーカーにとっては、良くないニュースだといえる」と述べる。

 このデータが正確であれば、自動車メーカーは、ロボットカーの研究開発に注力しながら、かつてないほどに縮小していく市場を必死に追い求めているということになる。

 率直に言うと、Fordのような自動車メーカーが完全自動車の実現に向けて本格的に取り組まざるを得ないのは、未知なる市場に対する恐怖心からではないだろうか。今のところ、カーシェアリングが自家用車保有率に対して及ぼす影響について、具体化することができた市場調査データはまだ存在しない。さらに、完全自動運転車を購入したいと考えるユーザーの数や、その市場規模の大きさなどを算出したデータもないのだ。

 しかし、自動車メーカーのこうした恐怖心を正当化する要素が2つある。1つは、米国内でさえも自家用車保有率が減少しており、ドライバーの運転量も減っているという点だ。

 2つ目は、世界のベンチャーキャピタルによるカーシェアリング/配車サービスへの投資が、かつてないほどに増加しているという点だ。

 つまり、輸送市場における“変化”を嗅ぎつけるのに、特別な才能は必要ないのである。

■都市部との協調

 自動車メーカーは、こうした変化に対して、効率的に準備を進めているのだろうか。Lanctot氏は、「Fordの完全自動運転車の実現計画に欠けている点は」という問いに対し、「都市での活動の必要性を明言していないという点だ」と答えている。

 同氏は、「新しいモビリティーサービスによって、人々の都市内での移動方法が変わるというのであれば、自動車メーカーは、各都市や州と密接に協業する必要がある」と主張する。

 同氏はアナリストとして、最近のブログの中で、「自動車の使い方や、自家用車を保有する、しないをめぐり、新しい考え方が登場している。都市は、このような変化の最前線に立っている。自動車メーカーは、各都市と協業することにより、現行の輸送状況を把握して、自社製品が問題の解決に向けてどのように貢献できるのかを検討すべきだ」と説明している。

 さらに同氏は、「都市のニーズは、地形や人口、既存の輸送インフラなどによって異なる。例えばラスベガスのニーズは、ロサンゼルスのニーズとは大きく異なる上、それぞれの都市の内部にも多様なニーズが存在する」と付け加えた。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

最終更新:8月29日(月)16時29分

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