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津賀パナ社長、「18年度には増収増益の体質に」

ニュースソクラ 8月29日(月)11時40分配信

「わが経営」を語る 津賀一宏パナソニック社長(3)

――成長戦略の第一歩をしるすはずだった2016年3月期は、減収に終わりました。「経営環境の変化への対応力が伴っていなかった」そうですね。どこに原因があったのでしょうか。

 37ある事業部はみな一生懸命やっているのですが、長年やってきた事業を続けたいとの思いが非常に強いのです。何かうまく行かなくても、一過性であって、頑張れば何とかなるのではないかという気持ちも根強い。これが通用する領域は、変化がゆっくりしているか、競争があまり激しくないところです。

 従事する人たちは、想定以上に市場が縮小するとの前提では、自分の首を絞めることになるので、そうした認識でやるのはなかなか難しい。このため変化への対応が弱くなるのです。

 もう1つ、いい商品を作れば売れるだろうという意識もありました。特に海外の事業です。いい商品は日本が中心になれば作れると思っているわけです。しかしライバルがその国の流通業界と強固な関係を築いたところでは、単にいい商品をぶつけただけでは食い込めません。

――働いている人たちの意識改革を加速するには、どうしたらよいのですか。

 実際には、もうだいぶ変わってきています。例えば、収益改善事業には、あなたのところは売り上げを伸ばさなくていい、収益を改善してくれればいいと言っています。

 まずコスト削減をやるのですが、それだけでは続かない。結局、新しいことにチャレンジして、そちらに経営資源をシフトしないと、収益の持続的な改善は難しい。そういう形で、このままでは駄目だとマインドを変えてもらっています。

 例えば、住宅関係も国内は、着工戸数が減って行きます。自分たちが変化しなければ、間違いなくジリ貧です。どう変わるか真剣になるには、人間ですからやはり危機感を持たないと駄目です。そういう事業には、刺激的なメッセージなり方策なりを講じないと、人は変わらないですね。

――2018年度に連結売上高「10兆円」を、目指すという目標を取り下げて、社内からはどのような反応が出ていますか。

 特に言うほどの悪い影響は出ていません。なぜなら通常の投資とは別に、成長のために1兆円の戦略投資をやるというのは一切変えていませんからね。「10兆円」は下しましたが、戦略投資は今も進めています。

 伸ばしたい領域ではチャレンジが続いています。しかし無闇に売り上げを追うのは意味がないというメッセージは伝わっていると思います。

 企業など法人向けのB2Bの事業では、他社から商品を買い入れて、組み合わせて売れば、売り上げは増えますが、利益は出ません。M&A(合併・買収)も、売り上げをかさ上げするだけで、将来の成長につながらないものは止めようという点は、明確になっています。

――1兆円の戦略投資は既にどれだけ消化できましたか。

 定義が難しいのですが、もう1兆円に近い分の使途がほぼ固まったところです。M&Aですと、最終的に契約して出資が完了しないと、終わったことになりません。また米国の電気自動車メーカーのテスラ・モーターズとの投資など、車載電池への投資だけでも、勢いが増して当初の想定以上に投資することになります。

――18年度の車載電池事業の売上高は4000億円になるそうですね。

 田村憲司役員が言っていましたね。詳細は新聞で読んだだけですけど、これなんか1兆円の投資をやるぞと言わない限り、絶対に出てこない話です。

 今は「10兆円」を目指してみんなで成長しよう、そのために1兆円を投じるぞ、それを活用する権利はみんなにあると発信してきたわけです。ただし将来、キャッシュを生む投資なのか、本当に成長分野への投資なのか、厳密に考えるようになっただけです。

 「10兆円」を取り下げてイメージは悪いですが、事業活動にはそんなに悪影響が出ているとは聞いていません。

――1兆円の戦略投資は、37の事業部が早い者勝ちで使えるのですか。

 いや、必ずしも早い者勝ちということにはなりません。投資案件は、検討すべき様々な要素を含んでいます。パナソニック全体の方向と合致しているのか、長期にわたるものなのか、短期なのか、いろいろあります。それを全社で同じテーブルに載せて、議論しているのです。しかも繰り返しやっています。こういうことは過去にはできていなかったと思いますけどね。

――現場にチャレンジ精神が出てきていると見ていますか。

 私は、チャレンジしてもらいたい、それによって会社を変えてほしいという話をしています。実は私自身は、利益とか数字には割と無頓着なんです。研究所出身ですからね。時の運もあるよなと思ってしまいますのでね。

 でも新しいことに挑戦して、我々は変わる世の中に対応して、「A Better Life, A Better World」を実現すると、それぞれ目指してくれています。

――理想的な増収増益の体質を持った力強いパナソニックになるのは、18年度でなくて20年度以降になるのでしょうか。

 いや、そんなことはない。18年度には増収増益の体質に間違いなくなりますよ。大事なのは、1回なれば、それで終わりではないということです。キャッシュが回りだしたら、次の戦略投資1兆円をどこに投じて成長するのか、絶えず決めて実行していかなければならない。このサイクルを回し続けなければ駄目です。

 しかし売り上げが単純に拡大する一方にはならないでしょう。我々としては、将来を見越して売却などによって事業を入れ替えることも考えていかなければなりません。これを怠ると、また縮小する事業をたくさん抱えて、今と同じ苦労を繰り返すことになるからです。絶えず新陳代謝を図ることが、これからの時代には必要です。

――新陳代謝をしながら成長するというわけですね。

 今、成長を目指すと言っていますが、同時に新陳代謝をいかに適切にやるか学んでいるということですね。これは組織にとって、すごく大事なことだと思います。

(津賀氏のインタビューは今回で終わりです。次回からは泉谷直木アサヒグループホールディングス会長兼CEOです)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:8月29日(月)11時40分

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