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<特別連載>ミャンマーのロヒンギャ問題とは何か? (26最終回) 「ロヒンギャ問題」は軍政下で引き起こされてきた人道、人権問題 宇田有三

アジアプレス・ネットワーク 8月29日(月)6時0分配信

Q. ミャンマー国内では支援者はいないのでしょうか?
A. 実際にロヒンギャを助ける人びともいます。例えば主にラカイン人が組織している 「Narinjara」 というミャンマー系メディアは、ラカイン州の出来事をできるだけ正確に伝えようとしています。そのため、その組織は、ビルマ人やラカイン人からあまりよく思われていません。

関連写真を見る:国内外からの支援を停止されたロヒンギャ難民キャンプ

「困っている人が目の前にいれば、民族も宗教も関係ないでしょう。それに対応するのが人としての努めだ」。ロヒンギャ・ムスリムの支援に当たる、現地のラカイン人たちはそう言います。

また、ミャンマー国内では「国民民主連盟(NLD)」と肩を並べる草の根の支援組織「88年世代平和オープンソサエティ(旧88学生世代)」の最高幹部の一人は、「ロヒンギャたちが市民権を得るのは全く問題ない。問題は、彼らが『民族』としてのアイデンティティを主張していることだ」と言います。その幹部は続けて「でも、今はロヒンギャという名前を出すことさえ憚られる雰囲気が社会に蔓延しているので、〈彼らに市民権を・・・〉という話を公表すること、そのことが難しい」と。

ミャンマー国内で長年取材活動を続けているミャンマー人の記者はこうも話してくれた。

「まず、我々ビルマ人(バマー)が軍政下で少数民族をどのように見てきたのか反省しなければならない。ビルマ人はどこかでラカイン人に対して恐れを抱いていることもだ。ロヒンギャのことにしても、ムスリムとはこれまで、隣人として一緒に暮らしてきた。しかし、何か問題が起これば、すぐにロヒンギャにその問題の原因を押し付けようとしてきました。だが、やはりロヒンギャの話を公に出すことが出来ないという雰囲気が、今の一番の問題だ」

Q. では、どのような解決方法があるのですか?
A. 1982年の国籍法を変えるためには、NLD党による強力な政治的なリーダーシップが必要だと思います。

その際、この問題は軍政下で引き起こされてきた人道問題、人権問題であるということをメディアを通じて、あるいは教育を通して同時進行で進める必要があるといえます。


◆まとめ◆

◎ビルマ軍事政権は、英国(と日本)による植民地支配に対して根深いルサンチマンがある。軍政はそこで、他国に支配されることのない、上座仏教を基盤とする強力な統一国家が必要を必要とした。その国家統一のために、軍政は少数派の存在を抑え込んできた。軍政は人びとに恐怖を植え付け、住民の間に不信感を増幅させ、正確な情報を隠してきた。その結果、ロヒンギャ・ムスリムへの迫害が広がった。国際的に見ると、ロヒンギャ・ムスリムの被害の大きさは、民主化勢力や少数民族の人びとの被害報告の影に隠れてきた。

◎民族は政治問題として生まれてきたのだから、政治問題として解決は可能である。ロヒンギャ問題がこじれた最大の理由は、軍政下で1982年に制定された国籍法をどのように変えていくのか、新政権に注目する必要がある。

◎ロヒンギャの人びとのアイデンティティ
ロヒンギャの人びとのほとんどが、ロヒンギャ民族やロヒンギャ人としてのアイデンティティを認めて欲しいというのではなく、ムスリムとして平和的に生活したいというのを最優先としている。

◎ミャンマー族とラカイン族の歴史的な確執をミャンマー社会はどのように乗り越えていくのか。

◎国内外のメディアは、一部の過激な仏教徒やムスリムのプロパガンダや活動排し、負のイメージで対立を煽る風潮を抑えながら、事実をどのように冷静に伝えていくのか

◎国内外のラカイン人やロヒンギャは、それぞれの立場で主張したいことがあるだろう。そこで、対立を乗り越えて、何を優先させるべきか。それは、最も差別の被害を受けている現地のロヒンギャの声を一番大きく反映させる政策を決め、行動を起こすことであろう。(了)

◆宇田有三(うだ・ゆうぞう) フリーランス・フォトジャーナリスト
1963年神戸市生まれ。1992年中米の紛争地エルサルバドルの取材を皮切りに取材活動を開始。東南アジアや中米諸国を中心に、軍事政権下の人びとの暮らし・先住民族・ 世界の貧困などの取材を続ける。http://www.uzo.net
著書・写真集に 『観光コースでないミャンマー(ビルマ)』
『Peoples in the Winds of Change ビルマ 変化に生きる人びと』など。

最終更新:8月29日(月)6時0分

アジアプレス・ネットワーク

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。