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インフレ目標論議、イエレン議長は反主流派から主流派に

ウォール・ストリート・ジャーナル 8月29日(月)15時32分配信

 米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は20年前、主流派に属していなかった。グリーンスパン議長時代にFRB理事を務めていたイエレン氏は、適切なインフレ率はゼロという中銀当局の共通見解に異を唱え、2%の方がふさわしいと初めて主張したFRB当局者の1人だった。

 この水準は現在2%というのが主流となっている。イエレン氏がFRB副議長を務めていた2012年に、FRBは2%のインフレ目標を正式に導入した。足元では1996年と同じように主流派の考えは時代遅れとの不満が高まりつつある。もっとも今回の議論では、イエレン議長は主流派に属する。主流派が正しいのかどうかは、FRBがいま直面している最も重要な問題かもしれない。

 今年のジャクソンホール会合は「金融政策の枠組み」がテーマとなった。言い換えると、中央銀行は何を目標にし、それをどのように達成すべきかに主眼が置かれた。その答えは、金融危機の前であれば「短期金利の調整を通じて2%のインフレ目標達成を目指すべき」という一文でまとめることができた。

 この「2%のインフレ目標」という部分はいまも変わっていないが、「短期金利の調整を通じて」という部分は、FRBが政策金利を事実上のゼロに引き下げた2008年に無効となった。政策当局者らは当時、さまざまな非伝統的手段(代表格は、新たに印刷した紙幣で債券を買い入れる量的緩和)や、政策金利をゼロ近辺で維持すると公約するフォワードガイダンスを採用した。だが彼らは、政策手段として短期金利のみを用いる従来の形に戻れる日が来るのをずっと願っていた。

 あいにく、そううまくはいっていない。今や多くのエコノミスト(そしてFRB当局者の大半)が認めているように、低成長と低金利は当面続く可能性がある。完全雇用下の経済でインフレ率を安定させる「自然利子率」は低下している。これは米国が再びリセッション(景気後退)入りしたときに、FRBの政策余地は以前よりも限られるという意味に他ならない。

 FRBはこれにどう対応すべきだろうか。イエレン氏の後任としてサンフランシスコ地区連銀を率いるウィリアムズ総裁は最近、インフレ目標を引き上げるか、目標対象を名目国内総生産(GDP)や物価水準などに置き換えるべきだと提唱した。

 イエレン議長が詳しい対応を明らかにすると期待していた向き(筆者もその1人)にとって、26日の議長講演は期待外れに終わった。バランスシートが恒久的に膨れ上がり、銀行システムが多額の準備預金を抱えた状態でのFRBの運営方法に関する説明が講演の大半を占めた。量的緩和とフォワードガイダンスは一線を退くのではなく、「今後もFRBの政策手段の重要な構成要素であり続けるだろう」と述べた。

 ただ、インフレ目標の引き上げや名目GDP目標の採用については「研究対象としては重要だが(中略)FRBとして積極的に検討しているわけではない」と否定した。

 むしろ、FRBの新たな政策手段は、かつて短期金利が単独で担った務めを果たすことができると強く確信していると述べた。もっとも議長自身が認めたように、量的緩和の消費刺激効果は利下げよりも小さい可能性がある。また、フォワードガイダンスは「過剰なリスクテイクを促し、金融の安定を損なう」恐れがある。

 この議論からうかがい知れるのは、こうしたリスクよりも、目標変更に伴うより大きなリスクのほうが重視されているということだ。議長が昨年9月の講演で指摘したように、インフレ目標を変更すればFRBの信認を脅かし、金融危機という特別な状況で役に立たない可能性があり、連銀法に記された「物価の安定」の定義が拡大することにもなる。今回の講演で言及されなかったこと、すなわち、FRBにとってインフレ率を2%へ押し上げることさえ難しいのならそれをどうやって4%へ押し上げるつもりなのか、という点が実は最大の問題かもしれない。

 これらは論理的反対だが、それに勝る何かがあるのかもしれない。FRB議長にとって非公式の責務の一つは、FRBという組織のアンカーとして機能する、つまり、FRBを中核的な目標に注力させ、知的流行という風になびかせないようにすることだ。96年当時は、主流派の考えを守ることがグリーンスパン議長の務めで、それに異を唱えることがイエレン理事の務めだった。グリーンスパン氏がイエレン氏の論理を理解したことは評価に値する。グリーンスパン氏はただそれを公表したくなかっただけだ。「2%のインフレ目標」という構想は、イエレン議長の前任のバーナンキ議長が正式に採用した。

 現在、主流派に異を唱えているのはウィリアムズ総裁だ。イエレン議長の務めは、かつてのグリーンスパン氏がそうであったように、こうした主張の是非を判断することではなく、それに耳を傾け、他のFRB関係者も議論に加わるよう促すことだ。イエレン議長はある時点で、FRBのアンカーを動かすべきかどうかが分かるだろう。

By GREG IP

最終更新:8月29日(月)18時3分

ウォール・ストリート・ジャーナル