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レイプに立ち向かった女性がレイプされ コロンビア

BBC News 8月29日(月)15時12分配信

ルーシー・アッシュ、BBCニュース、コロンビア

コロンビアで武装勢力による女性や女児への性暴力を非難していた1人の女性が、武装グループに誘拐されて恐ろしい報復を受けた。武装勢力が今もどれだけ強い力を持つかを物語る悲劇だ。政府軍と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)の間では最近停戦が成立したが、一部の地域では無法状態が続く。

すらりとしたアフリカ系コロンビア人の女性が色鮮やかなターバンとゆったりしたローブをまとい、患者をのぞき込んで腹部を優しく押す。

「どこが痛みますか」――仰向けになった男性に、女性はそう尋ねる。部屋にはたくさんの植物や鮮やかなポスターが飾ってある。女性は植物の根や種から作られた伝統薬で患者をいやす。ここは、首都ボゴダの寂れた地域にある国営の医療機関「武力紛争被害者センター」だ。

多くの人が内戦時代の苦しみからいくらかでも解放されようと訪れ、ここで自分の経験を打ち明ける。左翼ゲリラと政府軍の戦闘は半世紀以上も続いた。

ターバン姿で治療する側のマリアさん(仮名)自身も、過酷な試練から立ち直ろうとしているところだ。マリアさんはその試練のせいで、故郷を追い出される羽目になった。

銃を向けられ

コロンビアでは国民の10人に1人が国内避難民で、マリアさんもその1人だ。FARCは1964年に社会的平等と農地改革を求めて武器を取り、反政府闘争を始めた。それ以来、家を追われた人は700万人近くに上り、22万人以上の命が奪われた。FARCは停戦に応じ、反政府活動の終結が期待されるものの、右翼の準軍事組織など、ほかの武装勢力が今も多くの地域を脅かしている。

自動車整備工場の上にある狭いアパートで、マリアさんはこれまでのことを話してくれた。6年前までは、ここから約640キロ離れた西部チョコ県の県都、キブドに住んでいた。チョコ県は国内で最も貧しい地域のひとつ。住民の大半は、スペイン人開拓者に奴隷として連れてこられたアフリカ出身者の子孫だ。

マリアさんは、紛争避難民を支援する女性団体「アフロムパス」のリーダーだった。地域の武装勢力が少年兵を使ったり、女性や女児を性暴力にさらしたりしていると非難する活動もしていた。

川が縦横に流れ、カリブ海と太平洋の両方に面するチョコ県では長年、麻薬密輸ルートの支配権や違法金鉱の採掘権をめぐる戦いが繰り広げられきた。地元の女性たちは常に、武装勢力の餌食にされてきた。アフロムパスはこの問題に対して声を上げ、阻止しようとする数少ない団体のひとつだった。

2010年7月に1人の男がマリアさんのもとを訪れ、子供用の服や靴を団体へ寄付したいと申し出た。品物を受け取りに別の地区まで連れて行ってくれるという。

「何の疑いも持たずにその男のトラックに乗り込んだ」と、マリアさんは話す。「トラックが街を出るところで不安になり、目的地はどこかと尋ねた。すると銃を向けられ、頭に覆いをかぶせられた」

マリアさんが連れて行かれたのはジャングルの中だった。覆いを外され、武装した男たちに囲まれていると気づいた。そして恐ろしいことに、当時13歳だった娘のカミラさんが、兵士に連れられて小屋から出てきた。

カミラさんは準軍事組織「ロス・ラストロホス」の女性メンバーに「お母さんのところへ行こう」と誘われ、車に連れ込まれたのだ。「私と娘は2人とも誘拐されてしまった」と、マリアさんは語る。

この集団のような右翼の準軍事組織は10年ほど前に解体され、公式にはすでに存在しないことになっている。だが実際には多くの組織が復活したり、犯罪集団に形を変えたりしている。もともとは「コロンビア自警連合」(AUC)という連合体の傘下にあり、左翼ゲリラによる誘拐や恐喝から身を守りたい地主や麻薬取引人たちの護衛をして資金を稼いでいた。

夜になるとカミラさんはどこかへ連れ去られ、マリアさんは木に体を縛り付けられた。3人の男が見張りについた。マリアさんは頭を何度も殴られて、血まみれだった。

「最初は殺されると思った」と、マリアさんは振り返る。「私がしゃべりすぎるから罰を与える、と1人が言った。男たちは私に性器を見せ始めた。何をしようとしているか分かって、私は叫んだ。私には何をしてもいいけれども、どうか子どもには触れないで。私の娘には触れないで、と」

マリアさんはそれから5日間、5人の男たちに繰り返し強姦された。ある時点で気を失い、目覚めるとキブド市内の病院にいた。マリアさんの長女から通報を受けて出動した捜索隊が、道路脇に倒れているマリアさんを発見したのだ。

末娘のカミラさんは自宅へ帰されていた。心に大きな傷を負っていたが、体は無事だった。マリアさんによると、カミラさんは「何が起きたかひと言でも話せば、戻ってきて母親を殺す」と脅されていた。「そのせいで彼女は何も話さなくなってしまった。長い間ずっと、『はい』か『いいえ』という言葉以外は口にしなかった。毎日のように泣いていた」。

同じ組織の男が再び

マリアさんは次第に回復し、半年後にはアフロムパスでの仕事を再開していた。しかしある朝、あの時と同じ準軍事組織のメンバーが自宅へやって来た。48時間以内に街を出ろと言い渡され、「出ていくしかないと悟った」という。

マリアさんはボゴタに移り住んだ。当局から防弾ベストと携帯電話を与えられた。公共交通機関は使わないほうがいいと言われ、毎月のタクシー代を支給された。数カ月後には3人の子どもたちも合流した。

コロンビア政府とFARCの和平交渉で主導的な役割を果たしたカトリック司教、エクトル・ファビオ・エナオ氏によると、武装勢力の最近の傾向として、マリアさんのように抗議の声を上げたり、自分たちの利益に反した主張を唱えたりする人たちを狙うケースが増えている。

司教によると、今年はわずか4週間のうちに人権活動家、環境活動家や先住民の部族指導者ら合わせて13人が殺害されたこともあった。

昨年は5日ごとに1人が殺された計算になる。犯人は準軍事組織や犯罪集団、あるいはFARCと違って停戦に応じていない左翼ゲリラ「民族解放軍」(ELN)などのメンバーだ。

「麻薬取引や金鉱の違法採掘にかかわるグループにとって、環境を保護しようとする人たちは邪魔者だ。先住民を擁護する人も性暴力を非難する人も邪魔。だから私兵を使って消してしまうのだ」と司教は説明する。

政府とFARCは50年間の紛争中に起きた人権侵害の捜査、訴追を目的とする特別法廷の設置で合意した。強姦を含む性暴力の犯人は、恩赦の対象としないとも約束している。

政府はさらに先月末、女性の苦しみがきちんと認識されて本人たちの声が届くよう、性差別問題に関する委員会を設置したことを明らかにした。

「紛争が女性たちを容赦なく苦しめ、想像を絶する恐怖をもたらしたと承知している」。政府の交渉責任者、ウンベルト・デラカジェ氏はそう強調する。

だが証言した場合の身の安全について、マリアさんは確信が持てないという。マリアさんのような女性たちは、まさに暴力の実態を語ったからという理由で標的にされたのだ。

娘のカミラさんは誘拐事件の後、一時的に話せなくなってしまったが、今は大学で法律を勉強している。法治体制の復活を、マリアさんよりも楽観しているようだ。将来は政治家になりたいと話し、「ただし良い政治家に!」と付け加える。「一般市民の貧困を悪化させるような腐敗した政治家じゃなくて」。

マリアさんは、ボゴダでの暮らしに子どもたちほどうまくなじめずにいる。故郷で年老いていく母親や友人たちに会えないのは寂しいし、昔の仕事で感じていた目的意識が懐かしい。だが治療師としての仕事はやりがいがあり、内面に抱える「怒りと憎しみ」の感情を打ち消す力を与えてくれる。

「自分の身に起きたことは変えられない」と、マリアさんは言う。「忘れることはできない。毎日、自分の体に思い知らされるから」。

それでも、許しについて考え、平和な国での暮らしを想像しようと努力はしている。故郷キブドへ帰る日も夢見ている。

「いつになることやら。明日にも帰りたいけど、先のことは分からない」

数字でみる紛争

・コロンビアの国内避難民は690万人。この人数はシリアを除くどの国よりも多い。

・「紛争被害者」として公式に登録されている780万人のうち、半数近くが女性。武装勢力によって家を追われた女性が大半を占める。

・85年以降、武装勢力に強姦された女性は1万3600人を超えている。

(英語記事 Raped for speaking out against rape)

(c) BBC News

最終更新:8月29日(月)15時12分

BBC News

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。