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『君の名は。』新海誠監督が“奇跡”を描き続ける理由とは?

ぴあ映画生活 8月30日(火)12時4分配信

『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』の新海誠監督の最新作『君の名は。』が公開されている。本作は新海監督が王道のエンターテインメントを目指し、キャリア最大のスケールで製作されたが、その根底にはデビュー作『ほしのこえ』から連なる強い作家性とメッセージが宿っており、新海監督の渾身の一作に仕上がった。

『君の名は。』/その他の画像

ほぼすべての作業を独力で行った個人制作アニメーション『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを飾った新海監督はその後も、映画だけでなく、CMや小説など様々なチャンネルで活動し、そこで得た知見や成果を新作にフィードバックしてきた。本作も企画がスタートしたのは2年前だが、そのはじまりは意外なことにCMだったという。「2年ほど前に、田中将賀さんにキャラクターデザインをしていただいたZ会のCM『クロスロード』2分間の映像を作ったのですが、すごく手ごたえがあったんですね。そのCMは、離島に住んでいる女の子と、東京に住んでいる男の子が会ったことはないんだけど、ひとつの方向を見ているという内容を“受験”をモチーフに描いたのですが、その内容をもっと語りたいと思いましたし、田中さんのキャラクターでもう少し長いものをやりたいと思ったのがきっかけです」

まだ出会っていない、まだ始まっていない、何かの“前日”にいるふたりの物語。新海監督はそれを「可能性の直前」と表現する。「そんな可能性の直前を全力で語れるような物語を探す中で、小野小町の和歌や男女が入れ替わる『とりかへばや物語』がヒントとして出てきたんです」。本作の主人公は、田舎町で暮らす高校生・三葉と、東京で暮らす高校生・瀧。ふたりは夢を見ている間になぜか入れ替わり、入れ替わった相手の人生を楽しみながら同時に、まだ見ぬ相手に対して想いを募らせていく。

その後、物語は急展開を見せ、本作の核心に入っていくため、多くは明かせないが、新海監督は本作の物語は「自然に出てきたもの」だという。「いま振り返ればリスキーな選択だったと思う方もいるかもしれませんが、書いているときは本当に自然に出てきたんです。2011年以降、東北や熊本などで大きな自然災害があって、“明日は自分たちの番かもしれない”“なぜ、あれは自分たちじゃなかったんだろう”というのは僕たちの思考のベースになっていると思うんです。この映画は震災を描いた映画ではないですけど、僕は2011年以前とは違う人間になったし、観客も違う人間になった。その中で、フィクションではあるんだけど、リアリティを感じられる、これは自分たちの物語なのかもしれないと思ってもらえる物語を書こうとしたときに、自然とこういうものが出てきた……というのがストレートな気持ちです」

新海監督は、これまでに数々の作品で、目の前にいない/すでに存在しない相手に対する強い想いや、偶然の出会い、奇跡が起こる瞬間に居合わせた人々のドラマを繰り返し描いてきた。美しい背景美術や映像技法、観客を引き込む語りのテンポや、音楽の効果的な使用など、ストーリーテリングの精度は作品を重ねるごとに向上しているが、男女を主人公に“奇跡”を描き続ける強い作家性にはデビュー時から一切のブレがない。「こういう物語を作り続けるのは、“大きなものとの一体感”がほしいんだと思います。何か大きなものについて知りたいし、自分が何か大事な“意味のあるものの一部”なんだと思いたいっていう欲求がすごくあるんです。僕の10代の頃の真剣な望みは“他の惑星にいきたい”と“誰も観たことがない景色を初めて見る人間になりたい”でした。それが年齢を重ねて、イノセンスを失って、自分は社会の中で生きていくしかないんだってわからざるをえない年齢になっても、自分が社会的な存在になる前に強烈に憧れていたものにつながりたいっていう気持ちがどうしても消えなくて、それが物語になり、アニメーションになっているんだと思います」

『君の名は。』は名だたるスタッフが集結し、壮大なスケールでドラマが紡がれるが、その根底には新海監督が少年の頃に抱いてきた望みや、監督を続ける中で貫き続けてきたテーマやモチーフが、少しも薄まったり、ねじ曲げられることなく息づいている。「僕は、映画に関わる人が増えたことで、創作する上の不自由は一度も感じたことがないんですね。よく映画が大きくなると、いろんな人にいろんなことを言われて、思うように作れないって話を聞いたりするんですけど、僕にはそんな経験は一切なくて、そんなことって本当に存在するの? ぐらいに思ってるんです。ひとりで『ほしのこえ』をやっていた頃とは違って、『君の名は。』では周囲にいろんな人がいて、それは幸福なことで、今ではそれを前提に脚本を書きますけど、差はそれだけなんですよね」

創作の環境が変化することで、変化せざるを得ない作家も存在するが、新海監督は壮大なスケールで描かれる新作で、自身が追い続けてきたテーマを現代の観客に向けてこれまで以上にクリアに描き出している。

『君の名は。』
公開中

最終更新:8月30日(火)12時4分

ぴあ映画生活