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水で作れる電解液を新発見、リチウムイオン電池を安く安全に

スマートジャパン 8月30日(火)7時10分配信

 東京大学 大学院工学系研究科の山田裕貴助教と山田淳夫教授らの研究グループは、水をベースとする新しいリチウムイオン伝導性液体「常温溶融水和物(ハイドレートメルト)」を発見したと発表した。安全かつ安価な新型蓄電池の実現に貢献する成果だという。科学技術振興機構の袖山慶太郎さきがけ研究員、国立研究開発法人物質・材料研究機構の館山佳尚グループリーダーらとの共同研究で発見した。

 分散電源社会を実現する鍵として蓄電池への期待が高まり、さまざまな次世代電池の開発が活発になっている。しかし現在の主流はリチウムイオン電池であり、今後しばらくは引き続き市場の中心を占めると考えられる。そのリチウムイオン電池の電解液には有機溶媒が用いられているが、これは可燃性が高く、火災や爆発を防ぐための安全対策が必須である。

 そこで電解液に使われている有機溶媒を、不燃かつ無毒で安価な水に置き換えた「水系リチウムイオン電池」の研究開発も行われている。しかし、水は有機溶媒と比べて電圧耐性が低く、低い電圧でも水素と酸素に電気分解されてしまう課題があった。研究グループによれば水系リチウムイオン電池の電圧は基礎研究レベルでも2V(ボルト)以下となっており、2.4~3.7Vの電圧を有する市販のリチウムイオン電池に対して電圧とエネルギー密度で劣るため、実用開発が見送られてきたという。

 研究グループはこうした中で、水をベースとした新たなカテゴリーのリチウムイオン伝導性液体で、実用に耐えうる性質を持つハイドレートメルトを発見した。特定のリチウム塩2種と水を一定の割合で混合すると、一般的には固体となるリチウム塩二水和物が常温で安定な液体として存在することを確認したという。

 一般的な水溶液は1.2V程度の電圧で酸素と水素に電気分解されるのに対し、発見したハイドレートメルトは、3V以上の高い電圧をかけても分解しなかった。理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を用いた解析の結果、この耐電圧性能は一般的な水溶液ではありえない特殊な溶液構造に起因していることが分かったという。さらにこうした高電圧耐性に加え、優れたリチウムイオン輸送特性を備えており、リチウムイオン電池用の水系電解液として応用可能であることも分かった。

有機溶媒と同等の性能を確認

 研究グループではこのハイドレートメルトを用い3.1V級と2.4V級のリチウムイオン電池を試作したところ、水を用いた電解液で初めて可逆動作に成功。従来2V以下に制限されていた水系リチウムイオン電池の電圧が、有機溶媒を使った商用のリチウムイオン電池と同等レベルまで引き上げられることを示した。

 また、エネルギー密度においても市販の2.4V級リチウムイオン電池と同等以上の性能を発揮し、充電時間も6分以下と高速な充放電が可能であることも確認したとしている。

 研究グループでは今回の成果について、「可燃・有毒・高価な有機溶媒に替わり水をベースとした溶解液を利用することで、電池の過充電や破砕などの誤使用時における爆発・火災事故のリスクを限りなく低下させることができる。また、事故などによる電解液漏えいが起こったとしても、無毒な水を溶媒として使っているため、人体や環境に対する悪影響も小さい。エネルギー密度を犠牲にすることなく、格段に安全性の高い蓄電池システムを構築可能になる」としている。

 また、発見したハイドレートメルトは自然界に豊富に存在する水が電解液原料になることに加え、既存のリチウムイオン電池では必須となっている電池および電池材料の生産工程における厳密な禁水環境(ドライルーム)を撤廃することができるため、生産設備の簡素化が可能になり、電池のコスト削減にも貢献するとしている。

 研究グループでは今後、今回発見したハイドレートメルトが示す異常物性の起源解明と、さらなる新機能の開拓を行い、新たな学術領域としての確立を目指す。また、ハイドレートメルト電解液が可能にする新しい蓄電池デバイスの実用化に向けた問題抽出を行い、開発を進めていく方針だ。

最終更新:8月30日(火)7時10分

スマートジャパン