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「これ誰が買うの……?」 ニッチすぎるのに人気沸騰 スマホで最大4枚のSIMを切り替える「SIM CHANGER デルタ」が生まれたわけ

ITmedia ニュース 8月30日(火)8時10分配信

 「キワモノすぎる」「これ誰が買うの……?」「こんなのを待っていた!」――スマートフォンで最大4枚のSIMカードを切り替えられる専用デバイス「SIM CHANGER デルタ」が発表された時、ネット上の評価は真っ二つに分かれた。だが、いざクラウドファンディングサイトで開発資金を募り始めると、コアなガジェット好きからの人気が沸騰。公開初日に目標額の250万円を突破し、1カ月足らずで800万円近い金額を集めるなど注目を集めている。

【画像】SIMカード型Bluetoothデバイス

 「決して100万台売れるデバイスではない」

 開発元の家電ベンチャー・Cerevoの岩佐琢磨CEOはこう話す。なぜ“超ニッチ”なガジェット開発に取り組んだのか、そこにどんな勝算があったのか。狙いを聞いた。

●ドコモのポータブルSIM技術を使うも……「えっ、そう使うの!?」

 スマートフォンやタブレットで安価にモバイル通信サービスを使える“格安SIM”の普及に伴い、1人で複数枚のSIMカードを使い分けるユーザーがじわりと増えつつある。SIM CHANGERが目を付けたのは、そんなマニアックな層だという。

 開発に当たっては、NTTドコモの「ポータブルSIM技術」(SIM情報を格納した親デバイスから子デバイスにSIM情報を送信する技術)を活用。1台のスマートフォンのアプリ操作で、最大4枚のSIMカードを簡単に切り替えられるようにした。

 だが岩佐CEOによれば、このポータブルSIM技術の使い道は、ドコモが描いていたものとは全く違ったという。

 ドコモがもともとポータブルSIMの活用例として想定していたのは「1つのSIMカードを複数の端末で使い、共通の電話番号を使い回す」というもの。一方、SIM CHANGER デルタは、複数のSIMカードを1台の端末で使い、いくつもの電話番号を使い分ける――つまり、技術の使い方としては“真逆”だ。

 「SIM CHANGER デルタは、ドコモのベース技術を逆さに使っているというか、ドコモが表に押し出してなかった機能をわれわれが掘り起こした感じです。『えっ、そう使うんだ……』と、ドコモさんもびっくりされていました」と岩佐CEOは振り返る。

 SIM CHANGER デルタでも、端末に挿入するSIMカード型Bluetoothデバイス「ブリッジカード」を複数枚用意すれば、ドコモが想定していたような使い方をすることもできる。だが、複数の格安SIMを切り替える使い方は、キャリアであるドコモでは提案しにくかったのでは――と岩佐CEOはみる。

 「これが大手企業とスタートアップのコラボの良いところだと思っています。すでにユースケースまで完成した技術をただ使ってくださいというのはつまらない。ユースケースが想像できない、あるいは想像できても可視化できない新規事業って実は多くて、そういうものにマーケットがあるんじゃないかという感じがします」(岩佐CEO)

●「250万円」では実は足りなかった 目標額に隠した“からくり”

 とはいえ、普段から複数枚のSIMカードを切り替えて使っているユーザーはかなり限られており、SIM CHANGER デルタが響くのは非常にニッチな層だ。なぜ製品化できると考えたのか――そこにはCerevoの戦略があった。

 この製品のクラウドファンディング目標出資額は250万円。だが「製品化に向け、僕らが本当に目指していたのは500万円から600万円だった」と岩佐CEOは明かす。いったん250万円を超えれば、その後の伸びによってもっと増えるのでは――という考えがあったという。

 「これまでのクラウドファンディングのさまざまなプロジェクトを見ていると、目標額を達成した後に、出資がさらに伸びるというケースが目立っていました。実際、社内のメンバーにヒアリングしてみると『目標額を達成していると買いやすいよね』という声が多かった。達成したものイコール人気商品みたいな。普通の(ECサイトにあるような)商品に近くなっていく感覚があります」(岩佐CEO)

 クラウドファンディングとはいえ、目標額を上回っていれば、出資者にとってそれはリスクのある出資ではなく“注文”に近い感覚となる。これまでもクラウドファンディングを利用してきたユーザーにとっては、なおさらそう感じられるはずだ。そこで、SIM CHANGER デルタでは目標額を250万円とあえて「低め」に設定し、それ以上に伸びることを前提に計画していたという。

 「早期にある程度目標額を達成してしまえば、その後も伸びるだろうと。出資額が250万円ぐらいいけば、(最終的に)500万円くらいになるでしょう。そこまでいけばビジネスとして回すことができます。ギリギリ250万円で達成した場合でも、お客さんに製品を届けなきゃいけない責任はあるが、商品としては伸びないだろうなと。その点は僕らにとってもチャレンジでした。現時点で出資額は700万円台後半と、十分僕らの予想以上の反応が得られました」(岩佐CEO)

●なぜ三角形? デザインは『遊んでもいい』

 その一方で、ネット上では三角形の本体が「持ち歩きにくそう」という声も挙がっていたが、これに対して岩佐さんは次のように説明する。「(コンセプトが)相当とがっているデバイスなので、デザイナーにデザインで遊んでもいいと言っていました。とにかく小さくしてくれと言うと、見た目はモバイルルーターのような形になる。それは用途を誤解されるので避けたかった。」(岩佐CEO)

 「結構割り切りが大事で、特にCerevoのようなスタートアップ企業はロジックを重ねてモノづくりをしません。『他社より0.5ミリ薄くなりました!』みたいなところで勝負しないと決めている。そうやって割り切っていったら、大きめの筐体で一カ月間もバッテリー充電しなくていいものができました」(岩佐CEO)

●意外なB2B需要も?

 同社の甲斐祐樹さん(セールス/マーケティング・広報)は「完全にニッチ狙いの製品だったので、正直に言えば、製品発表会に来た報道陣にウケなかったらダメだなと思っていました。しかし実際にはその場で出資してくれた人までいて、想定以上にすごく好評でした」と自信を見せる。

 クラウドファンディングの製品ページには出資者からのコメントも集まっている。例えば、スマートフォン向けゲームの開発会社に勤めるユーザーからは、「通信事業者それぞれのSIMカードを差し替えてアプリの動作検証をしていると、物理的にスロットが壊れてしまうことがある。こういった問題を解決できそうだ」と業務用途で期待する声が寄せられているという。

 「こうした声を聞くと、意外とB2Bの需要もあるのかなと。たとえスマホゲーム開発会社の検証部隊にしか需要がなくても、全世界で売れれば数千万円といった需要となり、ビジネスになるのでは」(岩佐CEO)

●ニッチ需要をつかまえるのに「コツはない」

 「決して100万台売れるデバイスではない」――岩佐CEOが製品発表会でこう話していたように、SIM CHANGER デルタが非常にニッチなガジェットであることは間違いない。しかし、確かに存在する需要を確実にモノにしている。この需要を見極めるにはどんなコツがあるだろうか。甲斐さんは「そこにコツはない」と話す。

 「クラウドファンディングにプロジェクトを出して反応がよかったら『あったね』、悪かったら『なかったね』という感じ。昔はこれができなかったので、今は良い時代だなと。とにかくクイック・アンド・ダーティー(時間をかけず、素早くアウトプットして先に進むこと)で、クラウドファンディングに出すところまでパッと持って行く。ここまでの流れを2~3カ月でやってしまえば、最低限のコストで需要があるかないかを実証できると考えています」(甲斐さん)

最終更新:8月30日(火)10時56分

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