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日本過酷すぎぃ! フランスのクリエイターが語る高待遇な海外アニメ業界

ねとらぼ 8月30日(火)12時14分配信

 フランスの国営放送が初めて日本のアニメを放送したのは1978年、雨の多い7月のこと。屋内にこもりがちになった子どもたちは、はじめて触れる日本のアニメ「ゴルドラック」(原題は「UFOロボ グレンダイザー」)に夢中となり、視聴率100%も記録したモンスター番組となった。以降、同国では日本のアニメが次々と放送され、欧州でもアニメや漫画愛好家が多い国となったことはよく知られている。

【どうしてここまで差が付いた】

 日本のソフトパワーを担うものとして、アニメを思い浮かべる人は多いはず。しかし、アニメーターの仕事は労働環境の悪さがしばしば話題となる。2015年に日本アニメーター・演出協会「JAniCA」が発表した「アニメーション制作者 実態調査報告書 2015」では、年間収入の低さなどが世間に驚きを与えた。

 吉田クリストフさんは、フランスと日本の両国で活躍するクリエイターだ。パリ第5大学医学部を卒業後、クリエーションの道を選んだ彼は、クリストフ・クリタのペンネームでcomicoなどで連載する一方、本名ではアニメーターとして絵コンテの仕事をしている。フランスと日本、両方の業界をよく知る吉田さんに、日本のアニメーターはなぜ待遇が優れないのか、日本と世界のアニメの傾向の違いなどを聞いた。

―― 現在フランスで絵コンテを担当されているアニメ作品を教えてください。

吉田 いまやっているのは映画監督のリュック・ベッソンの会社がやっている「Arthur et les Minimoys」のテレビシリーズ。劇場版もあったね(※劇場版3部作は「アーサーとミニモイの不思議な国」「 アーサーと魔王マルタザールの逆襲」「アーサーとふたつの世界の決戦」の邦題で公開)。

―― フリーランスとして契約しているのですか。

吉田 みんなフリーランスだよ。アニメの場合1話ごとで契約したりする。

 僕たちにはエンターテインメント領域で働く人用の特別な社会保障制度があって、健康保険や年金もあるし、年に1回「Conges Spectacles」(エンターテインメント産業界の休暇)という有給休暇が1カ月分もらえる。「ここからここまで休みを取ります」と言うと1カ月分の給料をボンと渡される。前年にあまり働いてなければ少なくなってしまうけど。

―― 継続して取っていいんですね。

吉田 そうだね。この社会保障制度は、映画や演劇などのエンターテインメントの領域で、大きな会社に長期所属するわけではない「Intermittents du Spectacle」(エンターテインメント産業界の不定期労働者)という不定期に働く人たちが対象。僕たちは仕事があるときでも失業者の扱いで、例えばルーブル美術館なども割引料金で入ることができる。仕事がないときには、幾つかの基準(前年に規定の時間以上働いたなど)を満たしていれば手当をもらえるよ。

 ただこれもフランスではいろいろ言われている。エンターテインメントに関わっている人は優遇されすぎているから是正すべき、とかね。

―― どうして? フランスではほかの職業でも社会保障制度は同じように手厚いですよね。高すぎたり多すぎたりするとも思えませんけど。

吉田 そうなんだけどね。実際に働いている立場からみても、特に優遇されてるとは感じない。でも、ほかの職業の人たちからみるとすごく優遇されてるイメージがあるのかも。キリギリスみたいに好きな音楽やってお金をもらえて社会保障もあって、「俺たちアリは真面目に働いてるのに」って。

―― なるほど。でも日本でフリーランスとして働いてる人に比べるととてもよいですよね。

吉田 もちろん、日本に比べるとすごく優遇されてる。勤務時間も日本のように夜遅くまで働いて23時に会議、なんてことはフランスではあり得ない。10時ごろにやってきて18時には帰る。

 でも雇う側も大変。フランスでは月給20万円で人を雇うとするとさらに社会保障のために20万円払うから結局、倍の40万円を毎月払うことになるからね(※エンタ―テインメント領域に関わらずフランスで雇用する場合は全て同じ)。

―― フランスではアニメーターの平均所得はどのくらい?

吉田 アニメーターといってもいろいろだから一概には言えないけど、月給だと2500ユーロ(約28万円)から4500ユーロ(約50万円)くらいかな。このほかに監督や脚本家、絵コンテも作品によっては印税がある。例えば「トムとジェリー」みたいにせりふがほとんどなくて動きだけで笑わせるようなアニメの場合、僕たちがギャグを考えたりするから。

―― フランスの制作会社の方が日本の制作会社よりも利益を出しているからアニメーターの高待遇が可能ということはありますか?

吉田 日本は制作会社が多いので、「うちならもっと安くできますよ」とどんどん安い値段で提案されてしまうのだと思う。たくさん作品が制作されていてもヒットするのはわずかだし、これではヒットしても制作会社自体が儲からない。当然その中で働いている人にはまわらないよね。

 フランスの場合、スポンサーやテレビ局がたくさんお金を出してくれる。多くはアメリカ。日本も海外と関係を持つことができればアニメーターの所得はもっとよくなると思う。ただ、お金を出す人は口も出すんだよね。欧米ではアニメは子どもの見るものなので、規制がとても厳しい。おへそはセクシーな部分なので出してはいけないとか、大きな胸もダメだし、殴るシーンも暴力的だからという理由でダメだったり。日本は多分そういうのはイヤだと思う。好きなものを作りたいでしょう?

―― 海外の制作会社にとって、日本のアニメーターは需要が考えられる?

吉田 日本のアニメのノウハウを求めている海外の制作会社は多いと思う。ただ、もう1つ問題があって、いまの欧米のアニメはほとんどが3D。日本はまだ2Dも多いけれど、正直、3Dだと日本に技術的なアドバンテージはなくなってしまう。

―― 日本に2Dが多いのはどうしてですか?

吉田 1つは昔から2Dでやってきているアニメーターがまだ多いからというのがあるだろうね。それに、表現の問題だけど、2Dは、いうならば間違った絵でも動かすことができるわけ。クレヨンしんちゃんのデフォルメとか、スネ夫が正面を向いたときの前髪のギザギザとか。ドラえもんも上唇がプンと膨らんでるでしょ? それに口の両サイドにも膨らみがあって、あれは「この角度から見ればいいけれど別の角度なら変な顔になる」というように(3Dでは)、できなくなってしまう。

 3Dではこういうズルはできない。でも芸術的にみれば、3Dはどれも同じに見えるけど、2Dでは「これはあだち充先生のタッチだ」というようにそれぞれ味がある。将来的には3Dでもそういう味が出せるようになるのかもしれないけど、いまはどこも似たり寄ったり。だから日本ではまだ2Dアニメの方が好かれているのかも。

―― 欧米で3Dが主流になっている理由は?

吉田 大きな理由は、自分の国だけで制作できること。昔はフランスも中国や韓国に外注していたけど、3Dになってからは国内で全てまわるようになってコストが大きく削減された。あとは、みんな何か新しいものが見たい、ということもあるかもしれない。3Dはまだまだ新鮮なんだろうね、流行というか。

―― それぞれ表現の幅が違ってくるわけですよね。

吉田 3Dだと、2Dのテレビシリーズではできなかったカメラアングルが可能になる。例えばゆっくり走るトラックを追い掛けてくる子どもを、荷台から撮影するようなシーンは2Dのテレビシリーズではやらない。移り変わる膨大な背景を描かなくてはいけなくなるから。あるいは背景は描かない、とか。

 でも2Dや、日本のアニメのアドバンテージはストーリーテリングにあるんだよね。欧米のアニメのストーリーは表面的で、「結局何が言いたいんだろう?」と思うことがある。説明的で論理的にすぎ、「確かに事件は起きているが」というようなちょっと冷たい目で見てしまったり。

 欧米のアニメはとにかくスピーディーで常に動いていなくてはいけない。30分のアニメなら欧米は400カットくらいだけど、日本は320カットとかかな。日本のように感情を表現するための間を入れたりしないし、登場人物が泣いたら視聴者も感情移入して泣く、とか、キャラクターに愛着を持つように導かれ、心を揺さぶられるようなことがない。

―― ご自身では、制作しながらどう感じているんですか?

吉田 内容的には面白くないよね……。でも部分部分で、「こんなカメラアングルにしてみたら面白い」とかチャレンジしながら面白みを見つけていく。そういうのは、分かる人にはちゃんと伝わるものだから。

 日本のアニメーターから見れば「いいなあ、フランスのアニメーターは給料がよくて休みも多くて」と思うかもしれないけど、その代わりにやってる内容は面白くない。日本のアニメのマーケットは日本だけで成り立っているからこそ表現の自由もある。昔フランスの子どもは「ハイジ」とか、とても新鮮な気持ちで見てたんだよ。フランスのアニメにはなかった、こんなストーリーテリングがあったんだと「発見」したというのかな。それが日本のアニメが大ヒットした理由だし、いまでも青年に人気があるのはそれが理由。

 スポンサーは、アニメで感情を描いたり、悲しい場面で泣いたりするのを「子どもにトラウマを与えてしまう」と言うわけだけど、そういうのも(欧米の子どもたちにとって)ちょっとかわいそうだなあと感じてしまう。もっとキャラクターに感情移入するシーンも、子どもたちにとっては大事だと思うんだけどね。

 ……この話、面白い?

―― 面白い(前のめり)!

吉田 そう? 日本のアニメ好きな人やアニメの仕事してる人が興味を持ってくれるといいな。

最終更新:8月30日(火)12時14分

ねとらぼ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。