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俺より弱い奴に会いに行く! PCゲームブランドの担当者は本当にゲームがうまいのか試してみた

ITmedia PC USER 8月30日(火)16時46分配信

 8月某日。記者は秋葉原の中央通り沿いにあるゲーミングPC専門店「G-Tune:Garage」で、一人の男とにらみ合っていた。身長は180センチをゆうに超えるクマのような体つきの男――マウスコンピューターのPCゲーミングブランド「G-Tune」のマーケティングを担当する安田氏である。

【ストVで対決】

 「それで、本当にいいんですね?」、マウスコンピューターの若手スタッフT氏がそう切り出した。我々は互いに頷き、大画面ディスプレイの前に並べられたアーケードコントローラーに手を伸ばす。画面にはカプコンの最新格闘ゲーム「ストリートファイターV」が映し出され、今まさに負けられない戦いが始まろうとしていた――。

 事の発端は5月に行われた「RAGEマスターリーグ玄武杯」にさかのぼる。玄武杯はストリートファイターVを競技種目としたトーナメント式の国内大会の1つで、これにマウスコンピューターが協賛し、プロも含む総勢128名のゲーマーが賞金をかけて戦いを繰り広げた。その熱気に沸く会場で出会ったのが安田氏である。

 彼は準決勝で行われたyukadon氏(決勝で金デヴ氏を抑え本大会の優勝者になった) vs. kazunoko氏(プロゲーマー。ウル4で世界大会優勝の実績を持つ)の対戦について、独自の見解を交えながら見どころを解説し、記者に同意を求めてきたのだった。すごい早口だった。正直、何を言っているのか分からなかったが、なんとなく相づちを打ちながら「さすがG-Tuneの担当者ともなるとゲームも上手なんだな」と思ったのを覚えている。

 しかしそれは大きな誤解だった。後から若手スタッフのT氏に聞いたところによると、彼はストリートファイターVの「ほぼ初心者」であり、格ゲーマニアを自認するT氏の見立てでは「デモ機のセッティング中にプレイしてるの見たことありますけど、操作も慣れてないし正直……先輩なのであんまり言えないですけど」とのこと。そこで記者はある計画を思いついたのである。

●G-Tune担当者を戦いに引きずり込む

 一息で説明すると作戦はこうだ。ゲーミングPCブランド担当者としての自尊心をくすぐりつつ、煽ってガチ対戦に持ち込み、敗北のペナルティとしてG-Tune製品の値下げを交渉する。常にPC USER読者の利益を追求する編集Gの完璧な作戦である。

 そしてその機会はほどなくして訪れた――。

編集G どもどもお久しぶりです。そういえば、ストVまだやったことないんですけど、今度教えてくださいよ。

安田 いや、私もそんなに強くないので……。

編集G またまたー。玄武杯のときあんなに熱く語ってたじゃないですか。プロゲーマーチームに混ざって自作したり、e-Sports大会に協賛したり、(ストVの)推奨モデルも出してるくらいですし、やっぱり担当者としてかなりゲームには詳しいんですよね。

安田 まあ、それなりには。でも本当にストVは弱いですよ?

編集G 謙遜しなくてもいいです。あ、でも解説するのと実際にプレイするのは違うかぁ。よくいますよね、周りがすごいからって勘違いしちゃう人とか。

安田 ハハハ。

編集 あ! 分かった。その、お腹がつっかえてアケコンに手が届かないとか?

安田 ……。

編集G まあ、初見の自分に負けたらG-Tuneブランドに傷ついちゃいますし、やめておきましょうか。お忙しいでしょうし、別に「逃げた」とか思いませんから。

安田 ……いいですよ、やりましょう。

編集G あ、すみません、ほんとに、無理しなくていいです。

安田 いえ、問題ないです。やりましょう。3セットマッチでいいですか?

編集G でもなぁ、もし私が勝っちゃったらって思うと、なんか……

安田 大丈夫です、負けないので。

編集G じゃあ、もし、本当に万が一ですよ、私が勝ったらストリートファイターV推奨PCを読者限定で値下げしましょう。どーんと。まあ、そんなことあり得ないと思いますけど。

安田 いいですよそれで。万が一負けたら社内に掛け合ってみましょう。

編集G え、本当ですか? さすがG-Tune担当ですね。

安田 その代わり私が勝ったら他メーカーの発表会にG-TuneのTシャツ着て出席してください。夏が終わるまででいいです。ま、いやならいいですよ。別に「逃げた」とか思いませんから。

編集G ……分かりました。ではそれで、対戦しましょう。

 ――こうして負けられない戦いが幕を開けたのである。

●あ、れ……?

 そしてついに対戦が始まった。二人ともほぼ初心者という、格ゲー界には何のインパクトもないマッチメークである。背後で戦いの行く末を見守るG-Tune:Garageスタッフの目も心なしか生暖かい。

 「初心者ならリュウですかね」と若手スタッフT氏の勧めでリュウを選択した記者に対し、安田氏が選んだのはキャミィ。ヒロイン格の女性キャラである。その体格でキャミィとか……おまえそれで良いのか? などと内心笑っていたものの、プロのkazunoko氏が使っていたキャラでもある。侮れない。

 T氏をセコンドにつけた記者がアドバイスを求めると、キャミィは素早く接近戦が得意だがリーチが短いので波動拳で距離をあけつつ、カウンター気味に戦えばいいとのこと。互いにオンラインマニュアルで技を確認しつつ、波動拳や昇竜拳が2回に1回くらいは出せるようになったところで試合が始まった。いよいよ安田氏の化けの皮がはがれる時間である。おまえハイスラでボコるわ。

 だが、実際に戦ってみると何か勝手が違う。セコンドのT氏に助けを求める記者。

「あの、遠くからギューンって蹴ってくるのなに」

「キャノンストライクですかね」

 なす術もなく削られていく体力ゲージ。

「ちょ、ガードボタンどれ」

「後ろに入れるだけです」

 とりあえずガードは覚えたものの、今度はいいように投げられる記者。

「投げっ、投げ抜けは?」

「投げと同じですけど、まあ、読まないと無理すね。回避はバックステップと無敵技交ぜていきましょう」

 しかし急にそんなことを言われてもうまくいくはずがなく、初心者丸出しの手つきでひたすらレバーをガチャガチャと動かす記者。背後のギャラリーからクスクスと笑い声が聞こえる。つらい。

「昇竜拳が波動拳になっちゃ、う」

「あるある」

 それでも徐々に操作に慣れてきた記者を警戒したのか後ろに下がり距離を開ける安田氏。ひたすら防御を固める記者。ふふふ、手も足も出まい。こちらからも出せないがな。するとキャミィが見慣れない動きを……まさか必殺技か!?

「喋った! いまキャミィなんか喋った」

「あれは挑発ですね」

「挑発って?」

「一言でいうと、なめプです」

「くっ、その手があったか」

「いや、ないですから」

 そんなわけで結果は1ゲームも取れず完敗。化けの皮をはいでやるぜなどと息巻きたものの、考えてみればこちらも完全に初心者である。さらにいえば最後に遊んだ格ゲーはバーチャ3。カゲ(影丸)でひたすらリングアウトを狙う汚い忍者プレイで相手を挑発し、あわやリアルファイトに発展しそうになって以来、この手のゲームにはまったく手を出していない。いまから20年近く前の話である。そしてストリートファイターにリングアウトはない。

 記者はおもむろに席を立ち、笑みを浮かべる安田氏に言った。「じゃ、練習はこれくらいで。本番の日程は改めて連絡します」。少し声が震えていたかもしれない。

 そして、背後から投げつけられる声(Tシャツ送っておきますねとか何度やっても同じだとかなんとか)に耳をふさぎ、足早にG-Tune:Garageを立ち去ったのだった。心の中で再戦を誓いながら。

(続く)

最終更新:8月30日(火)16時46分

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