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IoTビジネスの取り組みを成功させるには? 3人の先達に聞いた

アスキー 8月31日(水)9時0分配信

アスキー主催「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」では、「新産業を作り始めたB2B IoT成功の鍵とは?」をテーマとしたトークセッションが行われた。
 あらゆるビジネス領域において、IoTの活用に向けた試行錯誤が始まっている。8月26日開催の「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」では、ドローン、製造、農業の各分野でIoT活用に取り組む3人の“先達”が登壇し、「新産業を作り始めたB2B IoT成功の鍵とは?」をテーマとしたトークセッションが行われた。
 

「IoT/ITで、10年前には実現しえなかった農業ビジネスモデルが実現した」
 同セッションで登壇したのは、エンルート代表取締役の伊豆智幸氏、アペルザCEOの石原誠氏、サイボウズとダンクソフトでデジタルビジネスプロデューサーを務めつつ、NKアグリの契約生産農家兼エバンジェリストとしても活動する中村龍太氏の3氏である。
 
 各社のビジネスドメインは、エンルートが「ラジコン/ドローン」、アペルザが「製造業」、そしてNKアグリが「農業」とまちまちだが、共通するのは「ITやIoTを武器として、従来型ビジネスをリデザインしている」点だ。
 
 セッションでは実例として、NKアグリの契約農家である中村氏が、IoT/ITの力でいかに革新的な農業が実現しているのかを紹介した。
 
 中村氏が生産を手がける農作物の1つが、リコピンを多く含む機能性野菜「リコピン人参 こいくれない」である。このリコピン人参の生産には、中村氏だけでなく、青森から九州まで全国10都道府県のおよそ60人がたずさわっており、各生産者は“ネットワーク化”されている。単純に同一品種の人参を生産するグループというものではなく、IT/IoTを活用した情報連携がなされているのだ。
 
 たとえば、主要な圃場(田んぼ)にはIoT温度センサーが設置されている。中村氏によると、リコピン人参は生育環境の累積温度が一定レベルに達したところで最適な(リコピン含有量が最大となる)収穫時期を迎える。この「育成KPI」をクラウドアプリで可視化することによって、各地の生産農家における収穫時期の判断が容易になるとともに、商品品質が安定したものになる。
 
 同時に、データに基づいて出荷時期や出荷量を事前に予測することもできる。そこで、スーパーなどの販売店へあらかじめ出荷スケジュールを伝え、売り場の確保や特売セールにつなげてもらっているという。「IoTによって、量販店には2週間とか10日前にこうした情報が伝えられる。NKアグリ側の輸送オペレーションも、わずか2人で回せている」(中村氏)。こうした取り組みで、安定した価格も維持できているという。
 
 「このアプリはサイボウズの『kintone』を基盤に作ってきたもので、開発費がだいたい40万円、センサーが6万円、それに月のクラウド利用料が5~6万円くらい。10年前にはできなかったビジネスモデルが、IoTで実現している」(中村氏)
 
 中村氏の説明を聞いた石原氏は、製造現場のIoT活用にも似た部分があると応じた。「製造業も、これまでは『職人の勘、コツ、度胸』で成り立つ世界だった。しかし現在はセンサーを使ってこれを数値化し、誰でも再現可能にすることで、技術継承の課題もデジタルに解決しようとしている。農業と似ているなと感じた」(石原氏)。
 
 また伊豆氏は、エンルートが昨年から販売する農薬散布ドローンが「ヒット商品」になっていると語った。「5000機ほどの市場ポテンシャルがあると言われるが、昨年は100機ほど、今年は300機ほど売れた」(伊豆氏)。もっとも、農薬散布だけではドローンオペレーターが年間のわずかな期間しか稼働しないことになるため、災害対応や測量、さらに大規模な農場における詳細なセンシング(精密農業)といった需要も喚起していきたいと語った。「メーカーと言うよりは、ドローンを使ったサービス業に展開しようと考えている」(伊豆氏)。
 
IoTビジネスが陥りがちな「4つの不在症」をどう乗り越えていくか
 IoT活用を喫緊のビジネス課題として考える企業が増える中で、IoTビジネスの立ち上げを阻害するような課題も見えてきている。アスキー編集部・大谷は、典型的な4つの課題を「IoT不在症」と名付け、提示した。企業のIoT活用においては、目的/ビジネス/モチベーション/技術の4つが不在になりがちである、という指摘だ。
 
 「IoTを活用して新規ビジネスをやれ、と上から言われてやる人には『目的』や『モチベーション』が不在。また、身の回りの課題解決だけに注目している人には『ビジネス』が不在。IoTビジネスをやりたいのだけど、デバイスやシステムの知識がない人には『技術』が不在と、こうなる」(アスキー大谷)
 
 これについて伊豆氏は、顧客に「ビジネスの不在」を感じることがあると答えた。「ドローンが流行り言葉になっていて、『ドローンを使えば何となく儲かるのでは?』とやってくるお客様もいる(笑)」(伊豆氏)。ビジネスとして成立させるためには、自社だけで補えない知識や技術を他社とのパートナーシップによって補うという考え方も重要だと述べ、エンルートではスタートアップとのコラボレーションを積極的に展開していることを説明した。
 
 また、中村氏は「NKアグリにもセンサーやシステムを売りに来る人が多いが、売りっぱなしのケースも多い」と語った。「大切なのはIoTが目的ではなく、どういうビジネスをしたいのか、どういうところでセンサーを使うかということ。たとえば製造業ならば工場の生産性を上げる、コストを下げるということになるだろうし、NKアグリの場合は商品価格の安定化に目標を置いている」(中村氏)。
 
 一方で石原氏は、これまで“モノづくり”の世界とインターネット技術がまったく交わってこなかったために、製造業の現場では「技術不在」のパターンが非常に多いと述べる。さらに石原氏は、たとえば製造業とメイカーズムーブメントの間にも同じような分断を感じると語り、「IoTの技術を持つ方が、もっと製造業に興味を持ってもらえたら非常に嬉しい」と述べた。
 
 セッションのまとめとして、石原氏は「IoTという言葉にまどわされないほうがいい」と語った。現在「IoT」というタームで語られているものの内実は「ビッグデータ活用」であり、製造業の現場における活用の余地はまだまだ残されているという。石原氏は、IoTの技術を持つIT側から「ぜひ製造業に参入してほしい」と呼びかけた。
 
 また中村氏は、IoTビジネスに取り組むスタンスとして「“自分ごと”としてやることだ」とコメントした。「今では、さまざまなIoTツールが簡単に手に入る。インターネットを使っていろんな人とも交流できる。紹介したように、コストも大してかからない。だったら自分でやればいい」(中村氏)。
 
 
文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

最終更新:8月31日(水)9時0分

アスキー