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「人工知能? 人間が人間を作ろうとしているだけの話です」 楳図かずおさん(79)

ITmedia ニュース 8月31日(水)8時21分配信

 コンピュータにたくさん言葉を覚えさせると、ある日、意思を持ち、世界中のコンピュータとつながる――楳図かずおさん(79)が1982~86年、「ビッグコミックスピリッツ」に連載したSF漫画「わたしは真悟」は、30年前の作品にも関わらず、現代の人工知能やインターネット社会を予言したかのような内容だ。

【「わたしは真悟」をみる】

 主人公の小学6年生、悟(さとる)とヒロインの真鈴(まりん)は、町工場の産業用ロボットに興味をひかれ、コマンド入力用のキーボードでさまざまな言葉を入力し、ロボットに言葉を教え続ける。やがてロボットは知能と感情を持ち、自らを「真悟」と名付け、学習・成長していく。

 「鉄腕アトム」など人型ロボットを描いた作品が主流だった当時、あえて産業用ロボットの「成長」や、機械化が変える社会を描き出した楳図さん。30年経った今、現実社会が作品に近づく中で、現代の人工知能やロボットをどう見ているのか。インタビューした。

●それまでのロボット像に「ちょっと反発」

――80年代当時、ロボット漫画といえば「鉄腕アトム」など人型ロボットを描いたものが主流でした。そんな時代になぜ、産業用ロボと人間の関わりをテーマに選んだのですか?

 鉄腕アトムは当時、あまりに先に行きすぎて現実離れしすぎると思ったから。「機械」というイメージの中のロボットなら当時でも身近で、普通に作ってもできそうというイメージがあり、そこらへんをやりたかった。

 「8(エイト)マン」とか「鉄人28号」とか「鉄腕アトム」とか、人型で、理屈なく人間に近い動きや考えができるロボットではなく、「機械」を意識したロボットを描きたいと。それまであったロボットからちょっと反発して、違う視点にいきたいと、ちょっと逆らってみたというところがあるかもしれない。

●人間の仕事が機械に奪われる恐怖

――作品では、工場で働いていた悟の父の仕事がロボットに奪われ、父は落ちぶれて飲んだくれてしまいます。

 当時、人間の仕事がロボットに奪われる恐怖感はあったと思います。昔、僕の田舎にあった踏切には、「踏み切り番」の一家が住み込んでいて、電車が来るとおばさんが出てきて手で遮断機を下ろす仕事をしていたんです。今の遮断機は自動で下りますよね。コンピュータが踏み切り番のおばさんを追いやったのは間違いない。駅の切符切りだって同じです。自動改札によって切符切りの職員が干されているのは間違いないと思う。

 人が減らされ、機械が代わって仕事をするのですごくスムーズに進むけど、首を切られる人もたくさんいるでしょう……という未来予測の意見も当時からあったと思います。悟のお父さんは首を切られ、落ちぶれたけど、真鈴のお父さんはエリートで、英国でリッチな生活をしています。対比させて、違う生活状況を描きたかったんです。

――真鈴の父のような知的労働層は、ロボットやITにより上に上がるけれど、末端の労働者は職を失うと。

 でも、悟のお父さんが好きという読者もいるんです。肉体派で、あまり賢くないんだけど。科学の時代に入ると、野蛮な力強さががうらやましい部分もありますよね。

 今に合わせていけない人の良さもあるので、機械化はしても、どこかに人間らしさの名残りみたいなものを残すことを気をつけて進めないと、機械化に完璧にあわせた進化ってそれでもいいんでしょうか? という疑問もあります。

 ただ、作品の中心は、コンピュータやロボットが未来に向けての進化するさまを描くことでした。

●IoTを予見? ネットワークとつながる真悟

――「わたしは真悟」に登場するコンピュータは、当初は8ビットで、文字入力を受け付けるだけでしたが、物語の中盤以降では、ほかのコンピュータとつながり、ネットワークや人工衛星にまでつながっていきます。まるで現代のネット社会やIoT(Internet of Things)を予言したような内容ですが、どう発想されたのでしょうか?

 発想はないです。思いつきだけで描いているので。漫画ならではの発想だと思うんです。

 漫画の中の発想は、現実の発想とそんなに変わりはなくて、話のなかでこうありたいと描けば、そのうち現実にも同じことが起きるんですね。今住んでいる世界は、こうあればいいと思う願望が現実になっているだけなので。どの時代もそうだと僕は思う。「遠くにあるものが見えたらいいな」と思っているうちにテレビになったりするわけで。漫画で描いているあほらしいことや、そうあればいいなと思って描いていることって、現実に起きるんですね。

――当時、コンピュータの専門家に取材したそうですが、取材でコンピュータの進化について教えてもらったことは?

 全然。雑誌で科学者のインタビューもしたんですが、未来について聞いたら「科学者はそういうことは言えません」とムッとされて。科学は現実であり得ることしか言えない、未来を憶測できないと言うんですが、僕はそれはちょっと不満で。科学だって何かきっかけがあって科学に進化するはずで。

――真悟がネットワークや人工衛星とつながって知識を得ていくさまは、今でいうクラウドコンピューティングのようです。

 全然知らなかったです。当時は漫画の流れとして描いているだけで。

●最後に「AI」が残った

――「わたしは真悟」では、悟が真悟にさまざまな言葉を覚えさせていきますが、真悟は言葉をどんどん忘れていき、最後に「ア」と「イ」だけが残ります。人工知能、「AI」を予言したかのようです。

 ただの偶然です。作品の中に「最初に言葉ありき」と書いたと思うんですが、言葉は決まった文字数だけでできている。真悟は言葉によって自分を進化させ、言葉1つ1つをエネルギーに換えていっていろんなものを助け、自分は壊れていきます。そして最後に残ったのが「ア」と「イ」だった。

 当時は、「愛」の「ア」と「イ」が残ったと描いていた。でもこれから先は、違うかもしれない。いままで「アイ」といえば悟と真鈴の話だったが、「A」と「I」なら、AI、すなわち、真悟そのものについて言っていることにつながると思う。

 アルファベット何文字かの中に世界のすべてが入っているという言い方をしてもいいと思う。ノーベル賞級の発見も、言葉で説明できたとしたら、何文字かの組み合わせだけでできていることだから。世の中のすべてが数文字でできているとすると、最後に残したいものはたった1つかもしれない。“基”というのはすごくシンプルな、たったこれだけ、というぐらいのところから出発していると思う。

●AI開発によって「人間は自分自身を進化させようとしている」

――AIが世の中で話題になっている今は、産業用ロボットが入ってきた80年代ごろと似た感覚があるかもしれません。

 当時は仕事を奪われると言っていたけど、今はもっと深刻で、人間そのものの知能を奪われる危機感に陥っていると思います。

――AIが囲碁や将棋でプロに勝ち、話題になっています。

 それは全然面白くないです。興味ないですね。コンピュータが先を読むというだけの話だから。何手も何手も先の可能性をどーっと計算して、答えを出しているだけのことなので。そこから変なものが生まれてきているというわけじゃないので。

――人間をコンピュータが上回ると言われていますが。

 結局は、人間は人間を作るというところに行っているだけの話で。その途中の段階だと、囲碁で人間に勝つとか、人間の知能に代わるいろんな出来事を予測するとかあるけど、とどのつまりは人間が人間を作ろうとしているだけの話です。途中の細かい部分の進化を確かめていると、驚きになってしまうが、そんなこと言ったって、人工が生きている生物に勝てるわけはないです。

 飛行機だって鳥のまねをしたり、船だって魚のまねをしたりとか、どれもみんな生物のまねから始まっていて、人工知能も人間のまねをしているだけなんで、そこは人間よりさらに素早く複雑なことをやるだろうけど、それが人間になるわけじゃありませんので。

 どこかでそれを人間にしちゃおうとか、人間の見えない方向の目的……気づいてないけれど、人間は人間を作ろうとしている、その途中の段階で、細かく分けるとそんなことが起きているんだと思います。そうじゃないと、人間の進化は、どのように次の段階に行くんだろうと。

 進化の途中の段階ってあまり分かっていないらしくて、進化するときは一斉にぱっとするらしいですね。脳なんかは、ちょっと増えるというんじゃなくて、進化したら倍になると言うんですよね。いきなり脳が倍になったらどうします? 寝るとき枕どうしようと(笑)。

 そういうことも含めて、次の段階、人間がどのように一段上るかということを考えなければならないところにきているから、注目されちゃうんじゃないでしょうかね。科学によって人が奴隷化されてしまうとか言われるけど、人間だって、脳みそが倍になればそんなのには負けないと思う。

――AIやロボットを開発することで、人間が人間自身を進化させようとしている、と。

 そうですね。人間は本能の底では、進化しようと一生懸命あがいていると思う。あがかずにのんべんだらりとしていたら、イソギンチャクになっちゃう。イソギンチャクは、口を開けて待っているとエサがやってきて、それを食べれば生きていけるので、何億年たっても進化しないらしいんだけど。人間も何億年かけて進化する中で、どこかで追い詰められたのがあるんでしょうね。

 人間は本当は、自分たち自身を作りたいと思っている。今の段階では、人型ロボットのように、似たものから作っている。本当はあれは、ロボットを作りたいというよりは、人間を作りたいことの言い換えただけなんだろうと。

●ロボットやAIは「生物」になるか

――人工知能が小説やニュース記事まで書けるようなりつつあります。人工知能はどこまで来れば、人間を超えたと言えるでしょうか。

 人間に右脳と左脳があるような形にならないと。単純にいろんなことを知っているだけでなく、感じ取る心を……心って何だろうとなってくると、知識がいっぱいあるだけでは心にはならない気がするので……。でも別の言い方をすると、ものごとは一杯たまってある段階にいくと、突然違うものに変わることもある気がするので、たくさん知識をコンピュータに与えると、ある日突然心が生まれるかもしれない。

――作品の中でも、コンピュータにいろいろな言葉を与えていくと、ある日突然、心を持ちました。

 数の不思議というか、ある一定のところまで達すると、急に違うものに進化してしまうことがあるような気がする。粘菌のように。知識も同じで、集まると知識の中にまた知識を生み出すような……生物界の不思議が隠れているかなと思います。

――今ロボットとかAIといわれているものが生物になるタイミングは来ますか?

 来るんじゃないでしょうかね。機械でできた生物が知性を持っちゃったら、生まれてくる子供も機械になったり……ということですもんね。あってもおかしくはないと思うんだけど。宇宙の成り立ちの中で人は進化しているので、宇宙の成り立ちがそれを許可してくれているかどうかですが、ないとは言い切れないですよね。

――そうなったとき社会はどうなる?

 めちゃめちゃ変えないといけないですよね。

 機械が働いてくれれば、黙ってても食べていけるけど、生物って黙って食べてると良くないんですよね。苦難の道を進んでこそ、それに対応しようと存続しているので、なんともない安楽の時代が来ちゃったら、それこそイソギンチャクになっちゃう。生物として維持しようという感覚が消えてしまい、消滅に向かってしまう。

 進化の果てはどこなのかと言ったって、宇宙の果てと同じで限りがないですからね。どこまで行けば到達点かは誰も決めているわけじゃないから。最終的に、形がなくてもいいじゃないか、という世界にもなるじゃないですか。それもありだと思うし、ここじゃなくてあそこにいるんだよという存在になってもいいし、心配しなくてもいくらでも、進化の果てはあるような気はするんですけどね。

●PCもスマホも持たない生活

――楳図さんはPCやスマートフォンは使われていますか?

 まったく。最初、携帯電話を買ったんですが、すぐめんどくさくなってやめました。携帯とかPCが出た時点で、そっちの道はいかないよと。その代わり外国語の勉強をするようになりました。フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、英語を。

――ネットが嫌なのは、検索結果などがすぐ出ることに違和感があるから?

 パッと答えを出してくれて、いいとは思うけれど、自分自身の身に着いているものなのかどうかが、ちょっと違うと思いますから。

――今後また、漫画を描くことはありますか?

 ないです。たぶん。面倒くさい(笑)。話を作りたいという気はあるけど。映画もやりたいなと思うけど、面倒くさいわー。お金で縛られるでしょ。予算と現実を兼ね合わせてできるできないを決めないといけないから、話をいくら面白くしようとしても、それを絵柄にするには、お金の問題で進まない。だからここから先は日本じゃなくて、米国の映画会社から映画監督の声がかかるといいなと。

――もし今の社会背景を踏まえて、SF漫画を描くとしたら、どういう作品になりますか?

 そうですね……。1つは、ITのなかのホラーですよね。それ以上はネタに関わるから(笑)。人間って、どこまでいっても興味があるのは人間なんです。これがヒントです。

――スマホは使っていらっしゃらないそうですが、楳図さんの作品を基にしたLINEスタンプが3種類出ています。

 漫画そのものがみなさんに見ていただけるというだけでも素晴らしいので。(LINEトークの)お話のなかに、僕の作品を入れていただけるなら、文句を言う筋合いはないです(笑)。

 スタンプは絶好調です。最新作は動くスタンプ。僕の絵がそのまま、こんなにリアルに動くのは、アニメでもこれまで一度もなかったので、本人が見ても楽しくて。アニメは、他の人が描き換えた絵で動いているので、いまいち細かいニュアンスが入っていない気がしたけど、スタンプはすごいです。本物のキャラの迫力がしっかり出ていると思って、ぜひ見てもらいたい。

――漫画のコマがコミュニケーションに使われることは、これまでないことですね。

 人間が進化してくるのと同様に、漫画もある意味、進化していく。そう考えたら全然おかしくなくて、本でない形も、こうやって進化していくというのはありだと思う。スタンプも、せりふは作中のものとは全然違いますが、絵柄がしっかりしているので、漫画の“基”をどう活用するかという活用範囲の1つだから。

 私の作品を知らない人にも楽しんでいただいて、何かの機会に漫画も読んでもらえればそれでいいと思う。「漫画しかありません」という言い方をしていたら、それはイソギンチャクですね。

――テクノロジーが発展すれば、楳図さんの原画を基にした長編アニメもできるかもしれない。

 ネットの進化の話を、僕の世界だけにしぼって考えると(笑)、僕のアニメーションのドラマをはじめから最後まで作れるよう進化してほしいなと。今回のスタンプは、僕の原画を基にしたアニメーションのはしりな気がしていて。

 コンピュータの進化が危険な方向に行くよりは、「アニメにしにくい楳図の絵柄を、最初から最後まで動かしてみよう、それはできるぞ」、というふうに進化したら、みんな喜んでくれると思います。中には嫌がる人もいるかもしれないけど(笑)。

最終更新:8月31日(水)16時6分

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