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ミステリー短編集、切れ味追求 米澤穂信さんに聞く

岐阜新聞Web 8月31日(水)9時23分配信

◆「真実の10メートル手前」直木賞候補にも
 ミステリーのジャンルで新境地を切り開き、次々に話題作を生み出す、岐阜県高山市出身の小説家米澤穂信さん(38)。先の第155回直木賞では、「真実の10メートル手前」(東京創元社)が候補作となり、注目を集めた。元新聞記者のフリージャーナリスト太刀洗万智が拾い集めた情報から、失踪したベンチャー企業の美人広報の行方、電車の人身事故が起きた背景、高校生の心中といった事件の謎をひもとき、真相を解明していく短編集だ。「情報社会の中で情報を伝えるということ、そして向き合い方に興味を持った」と作品に込めた思いを語る。米澤さんにとって創作とは、ミステリーの魅力とは-。
 同作は六つの短編で構成。主人公の太刀洗が鋭い視線で小さな違和感も見逃さず、報道などで伝えられている情報の裏にある、事件の“真実”を明らかにしていく。
 米澤さんはデビュー前、ネット小説サイトを運営し、習作の小説を発表するなど自ら情報発信をしてきた経験がある。だが情報に対する疑問を感じるようになったのは、むしろその後。ここ数年の情報社会の進展を目の当たりにし、「こうも誰もが発信者になるものかという驚きがあった」という。「これまで記者やジャーナリストが背負い込んできた業(ごう)や倫理観みたいなものが、より広く求められている。ジャーナリストの主人公の心を描くというより、むしろ出発点は、自分自身の情報との向き合い方だった」と振り返る。
 太刀洗は「さよなら妖精」という作品に出てきた登場人物の1人だ。「この物語での経験を元に、自分の目と足で情報、そして真実と向き合った生き方をしていく人と考えた」と人物像を語る。「真実の10メートル手前」は太刀洗を主人公にした連作短編集だが、表題にもなった同名の短編のみが新聞記者時代の太刀洗を描く。東洋新聞大垣支局勤務という設定で、出身地である県内の地名が登場し、地元読者には親近感を持たせる。
 いずれの短編も追うべき事件の真相にはたどり着けているのだが、その裏にある真実にふれた結末には、切なさが漂う。「小説的にはすべてが割り切れ、何もかもがよかったとは終わってはいない。最後の10メートルが届かない言葉がある」とメッセージを込める。
 同じ太刀洗シリーズでありながら、前作の「王とサーカス」は長編、「真実の10メートル手前」は短編集と異なる。「長編では重層的に要素を積み重ね、泥臭くあがくような場面が小説の中で有効に機能する。一方、短編はスマートな切れ味を追求できるところにやりがいがある」
 デビュー作の「氷菓」以来、ミステリーを書き続ける。「実際の出来事、人の心の動きは理だけでは割り切れないものだが、ミステリーは理を持って状況を整理し、真相を追求していける。だが、それだけでは推理クイズと何ら変わらない。なお余りあるものが、ミステリーを小説にしてくれる」と創作への思いを語る。

 よねざわ・ほのぶ 高山市出身。2001年、「氷菓」で第5回角川学園小説大賞奨励賞を受賞し、作家デビュー。11年、「折れた竜骨」で第64回日本推理作家協会賞。14年、「満願」で第27回山本周五郎賞。同作は第151回直木賞候補にもなった。年末恒例の各社ミステリー小説ランキングでは、14年の「満願」、15年の「王とサーカス」と2年連続で3冠を達成。

岐阜新聞社

最終更新:8月31日(水)11時6分

岐阜新聞Web