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マニュアル通りなのに……コンビニでミスが起きるワケ

ITmedia ビジネスオンライン 9月1日(木)7時37分配信

 8月15日、居酒屋チェーン「鳥貴族」が直営店の南柏店(千葉県柏市)で焼酎と食品添加物アルコールを入れ間違えて、チューハイを151杯提供していたことが分かったと発表した(関連記事:焼酎と誤り……食品添加物アルコール製剤をチューハイとして客に提供 「鳥貴族」が謝罪)。

【作業マニュアルは頻繁に書き換えられる】

 「なんだこりゃ! マニュアル通りにやっていれば、こんなことは起きないはず」と思われたかもしれないが、実は「マニュアル通り」にやっていてもミスが生じることがあるのだ。どういうことか。

 今回は、コンビニ運営マニュアルの実態について紹介しよう。

●「見れば分かるでしょ?」という想定外のミスが起こる

 先のニュースで、筆者は以下の部分に注目した。

 チューハイを提供するためのドリンクサーバーに焼酎を接続して使用するが、従業員が誤って食品添加物アルコール製剤をセット。(中略) 両方とも透明の液体であり、段ボール製の包みを取り外した透明な容器に入った状態で使っていたため、見た目には焼酎との区別が付かない状態だったことなどが原因という。発覚後、一目で区別できるものに全店で入れ替えた上、焼酎の交換作業の詳細な手順書の作成・周知や、保管場所をあらためて定めるなどの再発防止策を講じるとしている。

 今回、酒と消毒用アルコールを間違えた主な原因は、パッケージがよく似ていたことだろう。そして、「消毒用アルコール」と記載のある段ボールからわざわざ出して使用していたことが、さらに発覚を遅らせたようだ。

 鳥貴族では二度と同じ過ちを犯さないように対策を講じたようだが、「見れば分かるようにした=間違いは起きない」というのは、少々早計な判断ではないだろうか。すべての業務がマニュアル化され、数人の社員もしくは責任者以外はアルバイトで運営している業界では、似たようなケースが今後も起きる可能性はあると筆者は考えている。

 「えっ、マニュアルがあるのに間違えるの?」。読者の中にはそう思った人もいるのではないだろうか。すべての作業工程がマニュアル化されているコンビニでも、ミスは日常茶飯事だ。現場では「見れば分かるでしょ?」という想定外のミスが起こる。コンビニオーナーなら誰しも一度は経験しているだろう。

 一言で言えば「操作マニュアルと作業マニュアルは違う」ということだ。店舗を運営するに当たり、この2つのマニュアルがごちゃまぜになっている場合が多い。次に、レジ操作を例に詳しく説明しよう。

●「作業マニュアル」と「操作マニュアル」は似て非なるモノ

 レジの操作において、マニュアル通りに操作をすれば壊れたりすることはまずない。操作した通りに商品と金額が入力され、買い物合計金額がはじき出される。

 ただ、レジでは「お金の受け渡し」という手順がある。最新のレジはお客さんから受け取ったお金を入れればおつりが自動で出てくるが、今でも大半を占めるのが手入力、手作業によるものだ。

 例えば、568円の会計に対しお客さんから1000円を預かったとする。間違いなく入力すれば432円のおつりだ。しかし、アルバイトがやりがちなミスで、1000円を「1万円」と間違えて入力してしまうことがある。預かり金が1万円なら、おつりは9432円だ。普通なら、預かり金1000円に対しておつりが9432円と表示さた時点で間違いに気が付きそうなものだが、そのままおつりを渡してしまうケースが後を絶たない。

 そこで、作業マニュアルの登場だ。読者のみなさんは「1万円入りまーす」「5000円入りまーす」という掛け声を聞いたことがあるだろうか。その昔、1万円札も5000円札も同じ聖徳太子の絵柄だった。5000円を出しておきながら店員がレジにお金を入れた後に「おいおい、いま渡したのは1万円札だろ?」と、5000円をかすめ取るインチキを防ぐためにファストフード店が始めたことだ。お札の絵柄が変わった今でもその習慣が残っているのは、1万円と1000円という入力ミスを防ぐためだと思われる。アルバイトのミスで痛い目をみたオーナーが作業マニュアルに追加したのだろう。

 このように「操作マニュアル」とは違い、「作業マニュアル」は現場の状況に合わせて追加・変更されることが多い。ここで重要なのは、作業マニュアルの多くは省略してもコトが進むということだ。

 例えば、「1万円入りまーす」と言わなくてもお客さんは困らないし、レジ操作が止まることもない(1万円渡したのに1000円の預かりにされないかぎりは)。このように、作業マニュアルは変わる可能性があるのだ。

●おつりのいらないお客さんは要注意

 もう1つ、よくあるレジのミスを紹介しよう。

 コンビニに限らず、何か買うときはレジに並ばなければいけない。しかし、朝の混雑時に、ちょっとしたイレギュラーな事態が発生する。店員がレジで接客をしているときに、スポーツ新聞を片手に「ココにお金を置くよ」と言いながら代金をおつりのないように置いていくお客さんがいる。

 混んでいるレジの現場で横入りは到底許されないが、他のお客さんには支障がないので、いわゆる横入りとは少し違う。ここで、作業マニュアル通りに「順番にお並びください」などと言おうものなら、スポーツ紙を叩き付けかねられない。常連客ならなおさらだ。

 このようなケースは少なくないので、スポーツ新聞を買ったお客さんには「ハイ、分かりました。ありがとうございます」と愛想よく言いながら、接客中のお客さんに対応しなければいけない。

 スポーツ新聞の代金は、レジに並んでいるお客さんがはけたあとに入力することになる。多くの場合は他のお客さんの会計時、レジが開いているときに行う。ところが、ついうっかりと、開いているレジにスポーツ新聞の代金をそのまま入れてしまうことがある。スポーツ新聞の会計がきちんと完了していないことになり、レジ上ではスポーツ新聞の売り上げが立たないまま放置されてしまうのだ。

 逆のパターンもある。スポーツ新聞の売り上げをレジに入力していると、そこに次のお客さんが来たとする。スポーツ新聞の会計をきちんと済ませられれば問題ないのだが、お客さんを待たせまいと急ぐあまり、前の処理を終わらせないまま次のお客さんを受けてしまうと、スポーツ新聞の金額が足されたまま会計することになってしまう。

 その人の買い物が、缶コーヒー1本といったように金額が明らかな場合はその時点で前の処理が残っていたことに気が付くが、弁当やお菓子や飲み物などをまとめて買った場合、埋もれて気付かないことがあるのだ。

 こうしたケースがあるので、作業マニュアルは現場の状況も踏まえてどんどん書き換えられていくのだ。

●すべてをマニュアル化することは不可能

 これはあくまでも筆者の臆測だが、鳥貴族のケースも、当初のマニュアルでは焼酎やアルコールの段ボールは取らないと決められていたのではないか。しかし、段ボールを外すほうが別の作業をするのに好都合で、マニュアルを変えてしまった。その結果、消毒用アルコールを酒と間違ってお客さんに提供してしまい……大きなミスを生んでしまったのではないかと。

 もちろん、こんな事態を防ぐためにマニュアルは存在しているが、現場の作業はケース・バイ・ケースで対応することが多いため、すべてをマニュアル化することは到底不可能なのだ。それなのに、チェーン展開している業界では、あたかもマニュアルですべてを解決できるという風潮が多く見られる。

 「マニュアル通りにやれば、簡単なお仕事です」――どこかで聞いたフレーズだ。しかし、現場はそんなにやさしくない。新たなトラブルが生じるたびに作業マニュアルはどんどん書き換えられていく。それは膨大な量になって、多くのバイトがすべての内容を把握できないでいる。そして、忘れたころに大きなミスが生じてしまう。その繰り返しである。

(川乃もりや)

最終更新:9月1日(木)7時37分

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