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読書で「寿命が伸びる」のは本当か

ITmedia ビジネスオンライン 9月1日(木)7時40分配信

 近年、日本では読書をする人の割合が減少し続けているという。

 文化庁が2014年に実施した「国語に関する世論調査」によれば、1カ月に1冊も本を読まないと答えた割合が日本人の47.5%で、2002年と比べて10%増加していることが判明している。

【あの人も読書家!】

 この調査では、回答者に読書の「良いところ」は何かについても質問している。回答のトップは「新しい知識や情報を得られること」で、その後は「感性が豊かになること」「豊かな言葉や表現を学べること」「想像力や空想力を養うこと」と続く。こうした答え以外でも、「学べる」という感じの答えがほとんどを占める。

 だが最近の調査などによれば、読書の利点はどうも「学び」だけではないようで、海外では新たな説が登場して注目されている。2016年は早くも9月に入り、間もなく「読書の秋」がやってくるが、いま改めて読書のベネフィットについて探ってみたい。

●本を読むことは健康に効果があるのか

 いま、2016年9月号の『ソーシャル・サイエンス&メディスン誌』に掲載されたある論文が欧米メディアで注目されている。「読書と長生きの関連性」と題されたこの論文は、米イエール大学の疫学・公衆衛生研究室によって行われた研究の結果をまとめたものだ。同研究所は「本を読むことに健康効果があるのか」という素朴な疑問から調査を開始したという。

 研究結果によれば、1週間に最大で3時間半の読書をする人は、本を読まない人と比べて、その後の12年間で死亡率が17%も低くなることが分かった。それ以上に読書をする人は、23%も死亡率が低かった。また読書をする人たちは、読書をしない人と比べて平均で2年ほど長生きすることが判明したのである。ちなみにこの研究で使われたのは実際の書籍で、新聞や雑誌は含まれていない。

 論文の共同執筆者であるベッカ・R・レビー教授は、「財産や学歴、認識能力やそのほかの変数を考慮して調整しても、延命効果は変わらなかった」と取材に対して述べている。つまり長生きしたければどんどん本を読んだほうがいいのである。

 実は、読書が体にいいという研究はあちこちで目にする。シカゴにある世界的に有名な米ラッシュ大学医療センター病院は、成人が休憩時間などに読書のような知的な行為を行うと、将来的な「認識能力の衰退」が32%も遅くなる、と研究で報告している。読書は脳を若く保てるということらしい。

 また英サセックス大学の研究によれば、読書を30分するとストレスが68%も軽減されることが分かっている。音楽を聴いたり、TVゲームをプレーするよりも断然ストレス解消の効果があったという。本に没頭することで体は筋肉の張りなどを忘れがちになる傾向があり、リラックスできるようだ。

 米ミネソタ州の総合病院、メイヨー・クリニックは、睡眠への導入としても読書は体にいいと報告している。さらには、読書をする人はアルツハイマー病になる比率が低くなるという研究結果もあるし、スコットランドの研究では鬱(うつ)にも効果があり、「読書療法」と呼ばれて実践されている。

●読書によって脳は鍛えることができる

 イエール大学ハスキンス研究所のケン・パーク所長によれば、脳は鍛えることができる。パークは「文書には多くの情報が含まれており、脳によって推測を行う必要がある」と述べ、読書は神経生物学的にも、画像や言葉を処理するよりも脳に対する要求が高いという。つまり良質なワークアウトによって体に筋肉がつくように、読書によって脳は鍛えることができるのである。そして脳機能が向上すれば、それに波及してさまざまな健康効果を得られる可能性がある。

 長生きや健康を望むなら、時間があれば読書をしたほうがよさそうだが、実際には文字を読むのなら何でもいいということではないようだ。例えば、電子書籍は場合によっては健康を害することがある。米ハーバード大学の調査では、睡眠前に電子書籍を読むと、睡眠時に生成されるメラトニンという重要な「睡眠ホルモン」の分泌が鈍くなるという(参照リンク。結果的に、睡眠までに時間がかかり、深い睡眠を妨げ、寝起きに疲れが残る。そういう状況は健康によくない。

 また影響は睡眠だけでない。ノルウェーの研究では、電子書籍よりも実際の本からの情報のほうが、頭に内容が残りやすいとの結果が出ている。電子書籍よりも印刷された書籍を読んだ人のほうがストーリーの順序をよく覚えており、その差は「著しい」という。つまりこの調査では、紙の本のほうが脳を活性化させる可能性が示唆されたと言える。読書の効果を最大限に得ようと思うなら、できる限り紙の書籍を手に取ってページをめくりながら読むべきだということだろう。

 そもそも健康うんぬん以前に、読書の利点については、多くの世界的な成功者たちがその価値を認めており、ビジネスパーソンなら耳を傾けるべきかもしれない。

 米国の大物投資家ウォーレン・バフェットは、読書に人生の80%の時間を使っている。億万長者のビル・ゲイツは子どものころ、読書にハマりすぎて「夕食の間は禁止」というルールが決められていた。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、2015年年始の抱負で2週間に1冊のペースで読書を行うと宣言した。1200人の大富豪にインタビューを行って自分も百万長者になった米国人コンサルタント、スティーブ・シーボルドは、富豪たちは多くの時間を読書に割いているという。

●時間を確保しなければいけない

 米ハーバード大学の出版社が発行するハーバード・ビジネス・レビュー誌は、「歴史的にも熱心な読書家や、物書きだった偉大な指導者たちは大勢いた。また幅広く深い読書が、組織を改善するための知識や習慣、才能を養ってくれたと考えているビジネスリーダーたちも数多い」と書いている。またIT文化を生み出すシリコンバレーの中心地である米名門大学のスタンフォード大学には、MBA向けに、読書を通してビジネス世界とリーダーシップを探求する、という趣旨の授業を提供している。

 現代社会では、比較的静かな環境でそれなりの時間を取らなければいけない読書は、かなり「非日常的」な行為だと言える。事実、冒頭の文化庁の調査によれば、日本人が読書をしない最大の理由は「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」からだった。

 しかし読書がビジネスで成功するヒントを与えてくれるだけでなく、健康にも効果があるというのなら、そのための時間を確保する価値はあるのではないか。

 今年の秋は、本を手に取ってみてはいかがだろうか。

(山田敏弘)

最終更新:9月1日(木)7時40分

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