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暴走! マイコラス投手を不問にした巨人の“罪”

ITmedia ビジネスオンライン 9月1日(木)7時42分配信

 最近のプロ野球では珍しい光景だった。8月28日に横浜スタジアムで行われたDeNA対巨人の一戦。先発マウンドに立った巨人のマイルズ・マイコラス投手が大暴れしたのだ。と言っても、それは投球内容の話ではない。マウンドでも6回2失点で粘投を見せたのだが、大半の取材メディアによってクローズアップされたのはマイコラスの情緒不安定ぶりだった。

【プロ野球のレベルが低下するかも】

 この日の横浜スタジアムは試合開催が危ぶまれるほど開始直前から断続的に強い雨が降り注いでいた。それでも悪天候の中、試合はプレーボール。しかし2回裏のDeNAの攻撃中、雨は激しさを増したことで試合が一時中断した。この時点でマウンドにいたマイコラスはすでに相当な不機嫌モード。球審に対し、何やらジェスチャーを交えてアピールするなどイライラがいつ爆発してもおかしくない状態であった。豪雨でぬかるんだマウンドを気にしながらの投球を強いられていたことに対し、ぶち切れ寸前になっていたのは誰の目にも明らかだ。

 そして案の定、試合中断でマウンドからベンチに戻ったマイコラスはグラブをベンチに叩き付け、怒りを露にする。ただ、これは最初の“小噴火”だった。

 1時間15分後に試合が再開。ところがマイコラスのイライラは治まっておらず、3回表の第一打席で空振り三振に倒れると怒りのあまりに自らのバットを右ひざでへし折った。その後の6回裏には打者・筒香に四球を与えた際の捕手・小林の捕球に納得ができず、マウンドへ小林を呼び寄せると身振り手ぶりでキャッチングをレクチャーする驚きのシーンまで見られた。異常な空気を察知した尾花投手コーチがベンチから駆け足でマウンドへ向かい、マイコラスを必死になだめていたほどだった。

 さらにここから同点打を浴びたマイコラスは、6回を終えてベンチに戻ってくると完全に感情を抑え切れなくなって荒れ狂った。ベンチを蹴り上げた後、再びグラブを叩き付け、バットの先で床に転がっていたペットボトルを数回に渡って「バコッ、バコッ」。これに周囲のチームメートがドン引きした場面の一部始終は試合中継の映像にも克明に映し出されており、ネット上でも大きな反響を呼んだ。

●マイコラスの暴走は“不問”

 闘志をムキ出しにした助っ人はさすがだ――。非常に少数ではあったが、そういうニュアンスの声もいくつかネット上で散見した。だがこれには残念ながら賛同できない。組織社会と同様にして強固なチームプレーが求められるプロ野球チームにおいて、この日のマイコラスのぶち切れぶりは到底看過できるようなレベルではなかった。見ている側は楽しいかもしれないが、ともにプレーしているチームメートにとってみればたまったものではない。

 ましてや、マイコラスはプロフェッショナル・チームの選手。アマチュアの選手たちの模範とならねばならない存在でもある。かつて「巨人軍は紳士たれ」と訓示していた元オーナーの故・正力松太郎氏ならば、今回の助っ人の行為をどう見て、どのような裁定を下したであろうか。おそらく激怒したと思う。

 普通に考えてもマイコラスの暴走は球団からの「厳重注意」、もしくは紀律に厳しい球団であれば「懲罰降格」を通達されても不思議はなかった。実際、これまで取材を重ねていてもマイコラスに対してチーム内から不満の声が出ていた。「彼はがんばってくれているけれど、あまりにも協調性がなさ過ぎる」「もしかしたら日本人をバカにしているのではないか」そういう流れの中で今回の暴走行為がぼっ発したとなれば当然、現場の首脳陣か、球団フロントが何らかのペナルティを課すのが通例だ。

 しかしながら、この日の試合後の高橋由伸監督をはじめ首脳陣は「雨の中、よく投げてくれた」などと口をそろえ、悪条件にもめげない粘りのピッチングを賞賛するばかりだった。どうやら“1人大立ち回り”を演じてチームメートを震え上がらせた件については不問とするようである。

 確かにマイコラスは成績だけをみれば、優良外国人選手であることに異論はない。ここまで来日1年目の昨季途中から14試合連続勝利中で外国人投手としては日本プロ野球史上タイ記録の好投を続けており、今季もいまだ負け投手にはなっておらず次回登板においては更新する可能性も残されている。

 しかし、それだからといって何をやっても許されるわけではない。今季のマイコラスについて振り返ってみても宮崎キャンプ中に右肩痛を訴え、開幕に間に合わず一軍初登板が6月下旬と大幅に出遅れていた。うがった見方はしたくないが、これに関しても「仮病疑惑」まで向けられていたほどである。

●マイコラスを野放し状態にしてはいけない

 マイコラスは来日1年目の昨季の活躍が認められ、メジャーリーグ復帰の誘いを蹴った上で球団側と好条件の2年契約を結んだ。その流れもあって多くのチーム関係者が「マイコラスは2年契約を結んだから来季は切られる心配もないし、いきなり手を抜いたのではないか」と疑心暗鬼になったのである。

 その疑いの信ぴょう性を高める材料として、こういう話もあった。マイコラスがシーズン開幕後の5月中旬にまだリハビリ中だったにもかかわらず、妻とともに映画のプレミア上映会イベントに招待ゲストとして出席したのだ。当時チームが苦戦を強いられている状況だったのに、堂々と2人仲良く撮影や取材に応じたことからチーム関係者からひんしゅくを買い、球団に厳重注意される騒動にまで発展している。つまり“前科”があるということだ。

 だからこそ、このままマイコラスを甘やかし続けていたら巨人、いやひいては日本のプロ野球界がナメられることにつながってしまうかもしれないのだ。こういうウワサはすぐに代理人サイドを通じて米球界にも広がっていく。そうなれば「日本のプロ野球界は緩い」との認識が広まり、ますますワガママで協調性の足りない助っ人が大挙して押し寄せてくる最悪の結果にもつながりかねない。

 そのような事態を招くとなると、日本プロ野球界のレベルもどんどん低下していってしまう。メジャーリーグのアメリカン・リーグ球団の極東スカウトも次のように指摘し、マイコラスを野放し状態にしている巨人に対して警鐘を鳴らした。

 「メジャーリーグで、こんな不遜な態度を見せたら即一発でマイナー降格でしょう。3年ほど前にレッドソックスの(デービッド・)オルティス(内野手)が球審の判定に激怒し、放送禁止用語を連発しながらベンチ内にあるブルペンコール用の電話をバットで破壊したことがあった。

 このときのオルティスは審判に暴言を吐いたことも重なって退場処分を食らったが、その後チームメートや監督ら首脳陣、さらにはファンにまで謝罪したことから球団による処分は言い渡されずに済んだ。それでもオルティスは反省の意味を込めて内々でボストンの地元でボランティア活動などを行うなど自らにペナルティを課したと聞く。

 メジャーリーグには納得がいかないとバットや器具を壊す選手が多いというイメージがあるが近年ではレアケースで、もし引き起こしてしまうと当人は必ずチームメートや関係者に謝罪する。『フォア・ザ・ザ・チーム』の精神が求められているからだ。ただ今回のスタンドプレーを起こしたマイコラスは、その後チームメートに何の謝罪もない。そういう助っ人の怠慢な態度に対して何の注意もしない巨人という球団の姿勢には首をかしげざるを得ない」

 巨人は自分のところだけの問題だからと考え、見てみぬフリをしてはいけない。仮にまだ「球界の盟主」という自覚があるのであれば、断固たる姿勢でマイコラスに日本には日本のしきたりがあることを示す必要性がある。

 今はチームの選手育成法や管理方法を他の企業も参考にする時代なのだ。そこは今後も肝に銘じてほしい。

(臼北信行)

最終更新:9月1日(木)7時42分

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