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ネットにつながる「IoTイノシシ罠」も 格安SIMでアイデア実現、盛り上がる開発者たち

ITmedia ニュース 9月1日(木)11時23分配信

 イノシシが罠にかかるとスマートフォンに通知してくれる――。

 これはどこかの狩猟具メーカーが発売した新製品ではない。福岡県に住む個人・moyaidcfさんが、超小型コンピュータのRaspberry Piと格安SIM、クラウドを使って自分で開発した、自分のためのIoT(Internet of Things)ハードウェアだ。

【画像】自作の「IoTイノシシ罠」

 技術情報投稿サイトやブログを覗くと、そんな“草の根IoT開発者”が何人も見つかる。簡易地震計を自作した人、家庭の分電盤にセンサーを取り付けて消費電力をグラフ化した人。さらに、トイレの空き状況を可視化するデバイスを作った人や、スマートフォンで制御できる「IoTクリスマスツリー」を開発した人……。

 彼らに共通するのが、1日当たり10円程度からの格安SIMカードを使っていることだ。「モバイル通信サービスは便利だが、これまではコストや手間のかかる『ヒト向け』のものしかなかった。IoT時代に合わせて、もっとカジュアルなモバイル通信を提供したかった」と、格安SIMサービス「SORACOM Air」を提供しているソラコムの玉川憲社長は話す。

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●1日10円から ネットで簡単にSIMカード発行

 SORACOM Airは、1日最低10円から使える独自のSIMカードをユーザー自身で発行できるサービス。2015年9月末にリリースし、16年7月時点で3000以上のユーザー(法人/個人含む)に使われているという。

 SORACOM Airの特徴は、とにかくIoT機器向けにこだわった「安さ」と「簡単さ」。Webサイト上の手続きだけで、LTE/3G回線に対応するデータ通信SIM「Air SIM」をいくらでも発行できる。料金は初期費用が1回線(SIMカード)当たり954円(税・送料別)、基本利用料は1日10円からで、あとは使った分だけの従量課金制だ。

 さらに、ダウンロードよりもアップロード料金を安価に設定し、センサーデバイスなどの小容量通信を用いたサービスで使いやすくしているという。小容量通信を安価に行える格安SIMとしては「0 SIM」(500MBのデータ通信まで無料)もあるが、0 SIMは契約者1人につき1回線までなのに対し、SORACOM Airは無制限だ。

●個人だけでなく法人も 活用サービスが続々

 そんなSORACOM Airの特徴を活用し、法人/個人を問わずユニークなIoTサービスが続々と登場している。

 例えば北海道帯広市で事業を営む十勝バスは、路線バス約130台にAir SIMを搭載したスマートフォンを設置。5秒に1回程度クラウドに位置データを送信し、バス利用者向けアプリでの運行情報サービスなどに役立てているという。

 「北海道は雪が降り積もるので、路線バスがよく遅れるし、スムーズな乗り換え方法が分からない利用者も多い。バスがネットにつながって、お客さんが外で凍えることなく適切なバスに乗れるようになった」(玉川社長)

 スタートアップでの利用も広がりつつある。スマートフォンアプリからの遠隔操作でドアのカギを開けられる“スマートロック”サービス「Akerun」は、デバイスをインターネットと常時接続するための仕組みにSORACOM Airを活用。専用端末とサービス、Air SIMカードを合わせてユーザーに提供している。

 ユーザーが大便をもらしてしまうことを防ぐ“世界初の排泄予知ウェアラブル端末”こと「DFree」も、SORACOM Airとの連携を検討しているIoTサービスの1つだ。従来は排泄サインをBluetoothでスマートフォンに通知するモデルだけを開発していたが、SORACOM Airを活用し、単独でモバイル通信を行える3Gモデルを視野に入れているという。

●携帯ショップで「社長来てくれ」……法人契約の壁にびっくり

 「ITを用いたサービスを新たに立ち上げようとしている企業やスタートアップは、通信で困っているところが多い」――玉川社長はこう話す。

 モノとネットを接続するIoTのサービスでは、その接続手段として何らかの通信機能が必要となる。Wi-Fiを用いる場合も多いが、屋外や移動するモノでは難しい。スマートフォンとのBluetooth接続やテザリングを用いる手もあるが、利用者にある程度のリテラシーが求められる。そこでモバイルデータ通信が注目されているものの、法人契約に至るまでのハードルが高いという。

 「実はわれわれも会社設立後、社員の1人が携帯電話を法人契約しにショップに行ったら『社長が来てくれ』と呼び出されたことがある。きちんとした会社かどうかの与信審査のためだ。でも、そのSIMカードをIoT機器で使うとなると、いったい何百枚必要なのかと。料金設定も相対契約(通信事業者と企業が特別に取り決める契約)のような形が多く、とてもカジュアルに始められる話ではないと分かった」(玉川社長)

 そこでSORACOM Airでは、スタートアップのような小規模法人がWeb上で簡単にSIMカード発行を申し込める簡単さと、IoTに合う料金体系にこだわった。「SORACOM Airは誰でも月300円程度から手軽に始められる。それがいろんなユースケースにつながっている」。

●「持たざる者でも使える」通信サービスを目指して

 玉川社長はもともと、Amazon Web Services(AWS)の日本法人でエバンジェリストとして働いていた経験を持つ。Soracom SIMの価格の裏側には、AWS時代に培ったノウハウが込められているという。

 例えば、従来のMVNO事業者が高価な専用機器で行っていたパケット交換、帯域制御、顧客管理、課金などの仕組みは、ソフトウェアで代替。基地局はNTTドコモのものを用い、残りの部分はAWS上に展開したソフトでまかなっている。これでコストを削減しているほか、Web上の管理画面からSIMカード1枚ごとの通信状況を確認したり、通信速度を変更したりできるようになっている。

 「かつて個人開発者やスタートアップなどの小規模組織がWebサービスを始めたいときに、最も大変なのはサーバなどのインフラを用意することだった。自社で数千万円かけて調達するのが難しい状況を、クラウドが変えた。とりあえずサービスを作ってみて、ユーザーが増えた分だけ利用料も上がる。そんな『持たざる者でも始められる』というクラウドのコンセプトを、通信サービスでも実現したかった」と玉川社長は話す。

 サービス提供開始からしばらくたち、「さまざまなスタートアップから『こんな通信サービスがほしかった』と言われている」という。「クラウドも登場したばかりのころは“バズワード”と言われたが、いまや誰もそう言わなくなった。今のIoTは黎明期。IoTで何かを作りたい企業や人に向けて、質のいい“材料”を提供していければ」(玉川社長)。

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最終更新:9月1日(木)12時53分

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