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防衛省、中国、北朝鮮想定のグレーゾーン対応へ準備着々

ニュースソクラ 9月1日(木)14時0分配信

首相腹心の稲田新防衛相のもと、防衛予算増額か

 防衛省が昨年10月1日に「防衛諸計画の作成等に関する訓令」を全面改訂していたことが明らかになった。

 この事実を同省は明らかにしていないし、メディアも全く気付いていない。

 筆者が知ったのも偶然であった。筆者が定期的に情報公開請求を行っている『陸上自衛隊報』(陸自の部内報に相当するもので、外部には非公開)で最近開示された第493号(2015年10月29日)に「防衛諸計画の作成等に関する訓令」が改定された旨の告知が掲載されたおかげだ。

 同訓令はその名の通り、防衛省が防衛力の整備や運用に関するいくつかの「防衛計画」を作成する際の、プロセスを定めた規則である。

 私が別途公開請求して開示された新訓令(A4で16ページ)はタイトルは旧訓令と同じだが、平成27年防衛省訓令第32号として新たに制定され、冒頭で「防衛諸計画の作成等に関する訓令(昭和52年防衛庁訓令第8号)の全部を改正する」と全面改定を行ったことを謳っている。

 新訓令の最大の特徴は「統合機動防衛力の構築を推進する」ことを新たに目的として加えた点。全面改定された新訓令を読むと、この統合機動防衛力という目的に沿って、これまでの「有事」対処を主眼とした硬直的な防衛計画の作成プロセスを有事以外の事態、いわゆるグレーゾーン事態にも対応できるように変更したことが分かる。日本の防衛が、侵略を受けたときの「有事」への対応から一歩踏み出して、グレーゾーンという新たな状況にも、まさに実戦レベルで対応し始めたと言えるだろう。

 では、「統合機動防衛力」とは何かご存じだろうか。第2次安倍政権が新設した「国家安全保障戦略」を踏まえて策定された防衛大綱(「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」)のキーワードとなる日本の防衛のための新概念だ。

 統合機動防衛力は、純然たる平時でも有事でもない事態(いわゆる「グレーゾーン事態」)が発生した場合に、「必要な海上優勢・航空優勢を確保して実効的に対処し、被害を最小化すること」(『平成27年版防衛白書』)を狙いとしている。

 グレーゾーン事態への対処は、現防衛大綱で初めて自衛隊の任務として具体的に明記された。それ以前に制定されていた旧訓令では、この事態への対処はそもそも想定されていなかった。

 グレーゾーン事態に関し『東アジア戦略概観2014』(防衛研究所)は、「有事に対処する能力を整備するだけではなく、平素から常時継続的に防衛力を運用させていくことが、意図と能力を相手に認識させ、抑止力を実効的に機能させる上で重要になってきている」と説明する。

 つまり今回の訓令全面改定は、有事対処を主眼としたこれまでの「防衛計画」では対処し切れないという防衛省の認識の現れなのだ。

 新訓令では、防衛計画作成プロセスを計画の作成に留まらせず、統合機動防衛力の構築という任務を加えることで、グレーゾーン事態への対処に向けての態勢構築にも適用可能にしたと筆者は見ている。

 では、グレーゾーン事態とは何か。一昨年の集団的自衛権行使容認を巡る連立与党協議で政府が提出した15事例では、具体的なグレーゾーン事態として以下の3事例を挙げている。

事例1:離島等における不法行為への対処
事例2:公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
事例3:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護

 事例1は尖閣諸島を意識しているし、事例3は北朝鮮のミサイル発射が想定されるだろう。要するに、中国、北朝鮮からの脅威に対応しようとしているものだ。その意味では、最近頻発している接続水域への中国軍艦の進入、防空識別圏への中国軍機の進入などもグレーゾーン事態に整理できる。

 このグレーゾーン事態への対処を盛り込んだ統合機動防衛力について『平成26年版防衛白書』は、前防衛大綱の「抑止概念に代わる新たな抑止力の考え方を示したもの」と説明しているが、明確な定義を示していない。白書の関連の説明を読む限り、規模的な概念ではなく、防衛態勢の有り様を示したものと言えそうだ。

 明確な定義がない「統合機動防衛力」だが、安倍政権が集団的自衛権行使容認へと舵を切ったことと合わせて鑑みると、日本の防衛政策が、じわりと専守防衛の枠から抜け出ていく先ぶれとみることができるのではないだろうか。

 なお、「統合機動防衛力」について政府は、「『質』と『量』を必要かつ十分に確保」(「防衛大臣談話」〔2013年12月17日〕)するとしている。

 このうち「質」の確保が、今回の訓令の改定であったと言える。そして「量」の確保が、予算による裏付けだ。

 防衛大綱を防衛力整備の面で具体化する「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」では、これまでの中期防所要軽費が過去4回連続で当初決定総額が前期より減額されてきたのに対して、前中期防より約1兆2,800億円の増となった。

 また第2次安倍政権は厳しい財政事情でありながら、内閣発足後に初めて編成された平成25年度予算以降、4年連続で防衛費を増額して財政面で統合機動防衛力を後押ししている。

 折しも、内閣改造があった。安倍政権の統合機動防衛力の整備方針を忠実に実行するのが、稲田新防衛相の役割といえる。訓令の全面改正にともなう「防衛計画」の改定とともに、次のポイントは防衛予算の折衝になる。防衛省は首相腹心を大臣に得て、来年度も防衛予算増額の恩恵を享受することになるだろう。

桜井  宏之 (軍事問題研究会 代表)

最終更新:9月1日(木)14時0分

ニュースソクラ

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