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農業のIT化で、生産コストを4割削減

ニュースソクラ 9月1日(木)16時1分配信

九州大、センサー1000台の稲作大規模実験を4法人と

 篤農家の多くは、あぜで区切られた田んぼ、一枚一枚の特徴をそらで語ることができる。

「ここは水持ちが悪くて油断すると雑草が生える」「こっちは肥料が抜けやすいので、多めに施肥しないと収量が上がらない」という具合だ。

 しかし、高齢農家が次々に引退し、若い雇用労力を抱えた大型の農業法人が農地を引き受けるようになると、篤農家の技に頼れないのが悩みだ。

 農業生産の現場で急速に普及し始めたのが、ITを利用した農業技術。優れた経験をITでデータに置き換え、幅広く伝えることで、日本農業全体の技術水準を引き上げる。情報機器、総合電機メーカー各社がIT農業生産市場に参入し活気が出てきた。

 注目を集めるのが、九州大学が中心の農匠ナビ1000プロジェクトだ。全国を代表する4つの大規模農業法人と、コスト削減に向けた研究を進める。文字通り農の「匠」に導かれ、新しい技術を編み出すイメージだ。

 茨城県龍ケ崎市で100ヘクタール余りの水田を経営する横田農場の横田修一社長は、プロジェクトの一環で380枚ある田んぼのすべてにセンサーを設置した。24時間水量や水温などを監視してデータを送る。

「似たような土壌条件のところで同じ水管理をしていたつもりが、データを見ると田んぼの水の状態が全く違っていたところがあった。センサー情報を精密にチェックすれば収量を増やし、結果的に1キロ当たりのコメ生産費を下げることができる」と横田社長。

 コスト削減には省力化や肥料削減などがすぐに頭に浮かぶが、単位面積当たりのコメ収量を伸ばすことも有力な手段。ITで田んぼの特徴をつかんで最適の水管理を行えば、増産に結びつく。

 滋賀県で150ヘクタールを経営するフクハラファームの福原悠平常務もセンサーを設置した。

「(父親の)社長が言っていた意味が少しわかるようになってきた」

 設置したセンサーから送られてくるデータを読みながら、長年の経験や勘で農作業をしてきた社長の技術として、マニュアルに落とし込む作業を進める。土壌、作物、水、温度、天候など複雑な条件に応じた営農技術を、篤農家は体で覚えてきた。それを標準化することで情報を従業員と共有したり、世代を超えて引き継いだりすることが可能になると福原常務は考えている。

 九大などは農匠ナビの基本技術開発を、2015年度までの2年間で終えた。水田センサーのほか、田んぼを均平にしたり、細かく収穫量をチェックできるコンバインの開発なども進めた。玄米1キロ当たり生産費を、全国平均の4割減に相当する150円まで引き下げる野心的な目標は、4法人で達成し16年度からは全国で普及活動に入っている。

 農匠ナビの普及で今年度から協力を行うJA全農は「農業法人が開発したもので、農家の目線に一番近いのが特徴。農家の所得向上に役立つ」として、全国のモデルJAなどで試験導入を進めている。

 九大の南石晃明大学院教授の話――
「4法人に1000台のセンサーを設置しほ場ごとの水の状態をリアルタイムで把握したのは、世界で初めての大規模実証試験。これらの成果を広げていくことが、日本のコメ生産の競争力強化に役立つだろう」

山田 優 (農業ジャーナリスト)

最終更新:9月1日(木)16時1分

ニュースソクラ