ここから本文です

1979年に作り出された「世界」の行き詰まり

ニュースソクラ 9/1(木) 18:00配信

宗教と市場の暴走の果てに

 米国のジャーナリスト、クリスチャン・カリルが書いた『すべては1979年から始まった』(邦訳は昨年、原著は3年前)は、79年の5つの出来事が21世紀を方向づけたと、ズバリ断じて評判になった。

 (1)中国でとう小平が経済改革に着手(2)イラン革命でホメイニ師主導のイスラム共和国樹立(4月)(3)英国でサッチャー政権誕生(5月)(4)455年ぶりの非イタリア人ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の母国ポーランド訪問(6月)(5)ソ連のアフガニスタン介入と対抗するジハード(聖戦)の始まり(12月)――の5つ。

 長年、無視されていた「市場」と「宗教」の2つの力が猛然と舞い戻った歴史の転換点が79年で、「共産主義や社会主義思想が色あせ、市場が経済思想を支配し、政治化した宗教が大きく立ちはだかる世界」を生み出した、という歴史観は説得力があった。

 しかし、いま「1979年製・世界」の行き詰まりこそが、世界を混迷させているように見える。

 確かにイラン革命とアフガニスタンでの聖戦は、宗教(イスラム)を政治化した。馳せ参じたアフガンでゲリラ戦に習熟したムジャヒディン(聖戦士)が各地に散ると、過激派と内戦がイスラム圏に広がった。その究極の姿がIS(イスラム国)の狂気だ。

 アフガニスタン、イラク、シリア、イエメン、リビアなどが「失敗国家」に落ち、難民が大挙して欧州に押し寄せ、ISがらみのテロも多発する。欧米で反難民・移民のポピュリズムの政治勢力が勢いづき、先進諸国の民主主義が、危機にさらされている。

 カリルが「市場の伝道師」と呼ぶサッチャー首相の「新自由主義」政策は、所得税のフラット化、国有企業の民営化、規制緩和、福祉の抑制、労組の弱体化などのパッケージだった。「市場」の領分を広げると同時に「強者への賭け」の色合いも濃い。

 いま、世界を一つの市場に統合する「グローバル化」への反乱が起き、ひと握りの強者への富の集中に批判が高まる。BREXITもその現れだが、英国でサッチャー以来の女性宰相となったメイ新首相が第一声で強調したのは「不公正をなくす」だった。

 とう小平が始めた「社会主義・市場経済」の「社会主義」とは中国共産党の一党独裁のことだが、中国経済の失速で、このモデルも壁に突き当たった。

 国有企業の不良債権の山が露呈し、そこにメスを入れようとすれば、共産党も無傷ではすまない。習近平政権は、汚職の摘発と言論統制強化で体制擁護に懸命だが、度を超すと市場経済を窒息させかねない。

 ポーランドの自主管理労組「連帯」の発足は、ヨハネ・パウロ2世の訪問の翌年。アフガンに足を取られたソ連は東欧に介入する余裕がなく、ベルリンの壁崩壊、ソ連解体につながった。だが、民主化ドミノは「プーチンの壁」に突き当たった。西側を頼るウクライナへのロシアの介入は、新冷戦とも呼ばれている。

 「宗教」と「市場」の暴走の末に「1979年製・世界」が終わるのか、手直しで長らえるのか。いま断言はできないが、5年もすれば私たちは結果を知るはずだ。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:9/1(木) 18:00

ニュースソクラ