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店の試供品で無料メーク、現代女性の生きる道?

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月1日(木)16時47分配信

 米ノースカロライナ州ジャクソンビルに住む大学生のジェイダ・ボイスさん(18)は、バッグがいっぱいになるほどのメーク用品を持っている。にもかかわらず、化粧をする際にはより豊富な品ぞろえを求めて自宅を出ることもある。

 彼女が訪れるのは、化粧品小売りチェーンのアルタ・ビューティーの店舗内にある陳列棚。そこに並んだ膨大な数の試供品を使い、実際にメークをするという。あくまでも試供品なので、どれを使っても無料で済む。

「お店から商品を盗んでいるわけではない」とボイスさんが話す通り、その行為が窃盗罪に問われることはない。同じように化粧品店でメークをする人たちは、店側が提供するテスターやサンプルを使っているだけにすぎないのだ。

通勤途中でメークに立ち寄る客も

 百貨店から顧客を奪いつつあるアルタやセフォラなどの化粧品小売りチェーンは、数千点に及ぶ商品を自由に試してもらう戦略を展開している。無料で提供されるのはアーバン・ディケイのアイシャドーやシャネルの香水、そしてスマッシュボックスのリップなどだ。買い物客はしつこい店員に邪魔されることなく、照明や鏡がふんだんにある売り場で好きな物を使い、肌を輝かせ、顔に陰を作り、ハイライトを加え、輪郭を整える。

 自由に化粧をする客たちは、店側がどこまで無料でやらせてくれるのか探っているようにも見える。実際、多くの客はこうしたサービスを最大限利用し、自宅の化粧室にいるかのように振る舞う。店に入るとドライシャンプー(皮脂で汚れた髪に使用するパウダー状のもの)を使い、コンシーラーで目の下のくまを隠し、マニキュアをする人もいる。中には通勤途中でメークに立ち寄る女性もいるが、その様子はラテを買いにコーヒー店に立ち寄ったような雰囲気だ。

 大学生のボイスさんは化粧品を試すため、自分のメーク道具を店内に持ち込むことさえある。商品を実際に買うかどうかはあまり考えないという。「70種類ぐらい商品を試したら、ひとつ商品を買うことはあるかもしれない」と話す。

「常習者」が商品を買うのはまれ

 ニューヨーク市内のセフォラに3年ほど勤務していたキアラ・ジェームズさんにとって、テスターなどを常習的に大量に利用する客の姿は見慣れた光景だ。

 「客はノーメークで来て、店内で香水をふりかけ、顔をすべて整えた状態で出て行く」とジェームズさん。「最初からそのつもりで来店しておきながら、一応買いたいようなそぶりを見せる人もいる」と語る。

 中にはブラシにいくつものサンプルをつけてまわり、一通りそろえた状態で店内の鏡に陣取る人も。そういった客が商品を購入するのは非常にまれで、「彼女たちがその行為を恥じているような雰囲気はない」ともジェームズさんは話す。

 医療関連の仕事をするアシュレー・ベリオスさん(24)は、自分も高級メーク用品を試しただけで買わなかった経験があると打ち明ける。しかし友人と一緒にセフォラを訪れると、いつも驚かされるという。その友人は両手のネイルを2回コーティングして、テスターが利用可能な場合はトップコートも店内でつけてしまそうだ。

 「さすがに店内で足のネイルをやり始めたことはない。もしそれをしたら、確実に私は彼女を置いて先に店を出る」とベリオスさんは言う。

友人向けにメーク教室も

 23歳のダイミン・ヘイズさんも化粧品店のテスターをよく使うが、それは自分のためではない。友人を連れて店を訪れ、メークを仕上げてあげることが多い。彼女が利用するのはイリノイ州カーボンデールにあるアルタの店舗で、最近も知人のメークを直してあげたそうだ。

 使ったのはベッカのファンデーション、ローラ・ゲラーのハイライト、そしてアナスタシア・ビバリー・ヒルズの眉毛エンハンサー。仮に全てを購入したら、100ドル以上はかかるラインアップだ。しかしそれらを使うことに対して店員は嫌な顔もせず、自由に利用させてくれたとヘイズさんは語る。

 店側も無料のテスター提供を控える動きを見せない。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン傘下のセフォラも、アルタ・サロン・コスメティックス・アンド・フレグランスも、その無料サービスを誇りに思っていると説明する。両社とも店員に対して指導しており、品位を保った行動である限り、来客が好きなようにテスターを使うことを許可しているという。

 2万点を超える商品を取り扱うアルタは、最近2000点にも及ぶテスターを追加で店舗に設置した。無料テスターを設置するには基準があり、衛生面で問題がなく、水がなくても落とせ、客にとって危険にならないようなものだけを提供しているという。熱を使うヘアアイロンなどは基準を満たさないので、店内で試すことは認めていない。

テスターの半分以上は不衛生

 ニュージャージー州にあるローワン大学で生物学を教えていたエリザベス・ブルックス教授は、化粧品売り場に置かれているテスターの調査を10年前に共同で実施している。研究の対象には高級デパートからドラッグストアまでさまざまな店舗形態が含まれたが、調査の結果、テスターの50%以上がバクテリアなどで汚染されていることが判明した。

 現在トーマス・ジェファーソン大学に勤務するブルックス教授は、自分の娘たちには化粧品売り場のテスターを使うことを認めているという。ただし、使う前に店員に汚れを取ってもらうのが前提だ。「大抵の汚れはどれも表面的なもの。店員が拭くだけでも、ほとんどきれいになる」とブルックス教授は話す。しかしマスカラの利用は結膜炎に感染する恐れがあるので、おすすめできないという。

 セフォラの店舗では「厳しい衛生基準」を設けており、店員は客が商品を試す前にさまざまな準備を行うことが義務づけられている。テスターを利用する際は使い捨ての道具を提供したり、ブラシも毎回掃除をする。セフォラの社員ジュリー・タイング氏によれば、パウダー商品の表面を削る方法や、鉛筆削りやアルコールを使ったペンシルやリップの掃除の仕方の指導も行われている。

 会社員のブリタニー・チェックさん(26)は「直接他人の肌に触れたものは何か抵抗がある」との理由で、使用されたブラシなどのテスターは使いたくないと話す。ただ、急に決まったデートの準備をするため、ファンデーションやマスカラ、そしてリップを使いに先日セフォラを訪れたという。

 「セフォラは化粧をする女性のための公共の再生施設のようなもの」であり、「お店を利用して化粧直しをしない女の子なんて、なかなかいない」とチェックさんは言う。

現代女性の生きる道か

 作家のアラナ・ホープ・レビンソンンさん(28)は、ティーンの頃から試供品を利用するためにセフォラに居座っていたと明かす。化粧品店のテスターを活用するのは、女性が女性らしくあるべきだとする社会において、なるべく出費を抑えたい現代の女性の生きるすべだと言う。

 「古典的なフェミニストならば、メークなどしなければいいと言うかもしれない。しかし今は2015年だ」

 自身のブログにこう書き込んでいるレビンソンさんがお気に入りのセフォラは、ニューヨーク市のユニオンスクエアにある店舗だ。最近もお店に読書会に向かう途中で立ち寄り、ジョルジオ・アルマーニのファンデーション、NARSのブラシ、シャネルの香水、そしてバンブルアンドバンブルのヘア・スプリッツァーを無料で利用した。全部購入したとしたら200ドルはかかる。

 「暑い日だったから、化粧がかなり落ちてひどかった。セフォラがあってくれて本当に助かる」とレビンソンさんは話している。

By KHADEEJA SAFDAR

最終更新:9月1日(木)16時47分

ウォール・ストリート・ジャーナル

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。