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ただのサスペンスじゃない!映画『セルフレス』で人生を考えてみる

M-ON!Press(エムオンプレス) 9月2日(金)11時55分配信

放送作家・コラムニストの町山広美さんが女子力アップにつながる映画を紹介する『andGIRL』の人気連載「町山広美の『女子力アップ映画館』」。今回は、映画『セルフレス/覚醒した記憶』を取り上げました。

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今までの知識や経験をもって、つまりは今の脳みそのまま、今より若い身体と新しい顔で、別の人生を生きることができたなら。『セルフレス/覚醒した記憶』では、そんな願望が叶います。ただし、相応の費用がかかる。秘密裏に運営されている研究所に大金を払って、その夢を叶えたのは、ニューヨークの不動産王ダミアン。身体は老いて病を負っていますが、意識や欲望に衰えは感じていません。もっと生きたい。金ならある。ダミアンは一度死にます。死を偽装し、唯一の家族である娘は彼を弔うのですが、脳みそは別の身体に丸ごとデータ転送されていました。その身体は若々しく、顔もかっこいい。

研究所によれば、それは培養されたもの。当然、新品の「はず」。新品の身体をダミアンはエンジョイします、マークという別人として。 ビフォアの自分から有り余る財産も受け継ぎ、悠々自適の暮らし。ダミアンとしては死んだので、ビフォアの自分の家族や友人は失いましたが、それでいい「はず」でした。なにしろ娘にはひどく嫌われ、彼女は父親を否定するような人生を選んできたのですから。でも、ふたつの「はず」がおかしい。心が虚しい。なにより、研究所で処方された副作用をおさえる薬を飲まないと、マークの脳に、ダミアンが持っていない記憶が浮上してきます。この身体や脳は本当に新品なのか。上書きされる前の別のデータ、別の人生が前の別のデータ、別の人生があるのでは?

ダミアンとしては娘に拒まれたのに、マークの前には彼を父親として慕う可愛らしい女の子があらわれます。いったいどういうことなのか。その秘密を探るうち、何が大切なのか、強欲な不動産王のときにはないがしろにしていた数々のことに彼の思いが及ぶようになって。意識の転送で得られる永遠の命。何度も生き直すことができるなら、幸せになれるのか。重ねてきた失敗や悲しみは、やり直せば癒されるのか。忌まわしく思える失敗や悲しみ、 こじれてしまった人とのつながり、その全部が自分自身ではないのか。そんな自己や人生についての問いかけを、研究所の秘密を探るサスペンスとアクションの奥に抱えた物語。スペイン人兄弟による脚本は、映画製作前から高い評価を得ていたそうですが、サスペンスとのバランスを保ちながら展開する心のドラマにひきこまれます。

※『andGIRL』2016年9月号

最終更新:9月6日(火)10時8分

M-ON!Press(エムオンプレス)