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いまウォール街で注目される日系人を知っていますか?

ZUU online 9月2日(金)10時10分配信

ウォール街で有名になるのは、「米系大手金融機関に所属する人物」というのが定説だった。だが、1人のカナダ系金融機関出身の日系人が、それを覆した。

彼の名は、ブラッド・カツヤマ。

■彼は“シンデレラ・ボーイ”なのか?”Self-made man”なのか?

日系カナダ人のブラッド・カツヤマ氏は、1978年生まれの38歳とまだ若い。カナダ・オンタリオ州出身で、地元の公立大学ウィルフリッド・ローリエ大学を卒業後、カナダロイヤル銀行(RBC)でキャリアをスタートさせた。

2002年にウォール街に転籍となり、株式トレーダーとして勤務していた2007年、トレーディングに不具合を感じたことをきっかけに、電子取引を担当することになる。個人的な疑問を解決する過程で、「取引所が超高速取引(HFT)に有利、投資家に不利となるような不公平な取引の場所を提供している」と感じたカツヤマ氏。2012年に投資家の保護を唱えて、自ら新取引所「インベスターズ・エクスチェンジ(IEX)」を立ち上げるに至る。

現在、旧ワールドトレードセンターの跡地にある4ワールドセンターにオフィスを構え、IEXグループの共同創業者としてIEXグループの最高経営責任者(CEO)、また同社が運営する取引所の会長兼CEOとして活躍している。ニューヨーク在住で、2人の息子を持つ父親でもある。

■切り開いた「弱き者を守る道」 注目されて本の主人公に

カツヤマ氏が所属したRBCは、カナダ最大の銀行ではあるものの、残念ながら米国での存在感はないに等しい。RBC出身の同氏が、ウォール街で注目を集めるきっかけとなったのが、2014年のベストセラー「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」だ。

ブラット・ピット主演で映画にもなった、「マネー・ボール」の著者としても有名なマイケル・ルイス氏の著作である。同書でルイス氏は米国の株式市場が、どのように「不正操作」され、大手銀行や取引所、HFTトレーダーに有利な仕組みになっているのかを描いてみせた。同時にIEXの創業者たちが、より公平な取引所を創設しようとするヒーローとして描かれ、その主人公となったカツヤマ氏は一躍時の人となった。

ほかにも、CNBCの討論番組で取引所運営会社のバッツ・グローバル・マーケッツの社長(当時)、ビル・オブライエン氏を負かしたことでも名を馳せた。

■「公平な市場」ないのなら、作るまでだ

インベスターズ・エクスチェンジ(IEX)の特徴は、受注から売買までの時間を350マイクロ(マイクロは100万分の1)秒遅くする、「スピードバンプ」という仕組みを導入している点にある。

HFTトレーダーはスピードを武器に、トレーダーがデータを受け取って注文執行するのにかかる、ごくわずかな時間差を利用して利益を上げる、「レイテンシー・アービトラージ」という取引をする。端的に言うと、市場で発注された買い注文を瞬時に探知し、「先回り」して買ってしまうことが、HFTを利用すれば可能ということだ。

IEXでは、スピードバンプを導入し、HFTトレーダーがレイテンシー・アービトラージをできないようにすることで、「公平な市場」を提供している。

■ブラックボックスを見える化、不公平の芽を潰し始める

既存の取引所は収入の多くをHFT会社に依存しているため、彼らにさまざまな便宜を図っている。たとえば、特別な注文タイプやより速いデ ータの提供、料金割引やコンピューターを取引所のものと同じデータセンター内に置く権利(コーロケーション)などだ。IEXはこうした便宜を認めていない。

1回のレンテンシー・アービトラージによって、得られる利益はわずかであるが、何度も取引を繰り返すことで、利益を膨らませることができる。カツヤマ氏は、投資家の「先回り」をすることで、合法的に勝率100%の取引が可能になっており、知らぬ間に投資家が不利益を被っている、という現実を変えたかった。

IEXのスピードバンプは、1回の取引で数十件もの注文取り消しをすることが多いHFTトレーダーに対し、取り消しを難しくするとともに、取引速度の遅い投資家を保護してもいる。スピードを故意に遅らせることで、注文情報が持つ価値をゼロにできるので、注文に付随する情報が役に立たず、「先回り」されることもないのである。

■既得権益に切り込み、その流れは大きなうねりに

これまで、ナスダックやニューヨーク証券取引所(NYSE)は、IEXが提唱する「スピード制限」に反対してきた。しかし、2016年6月にIEXが公式な取引所として認可されたことを受け、HFTを批判する投資家に、新たな選択肢を提供する動きが出ている。

ナスダックは2016年8月15日、1秒もしくは特定の時間内に取り消しや変更のできない、新しい種類の注文機能を導入すると発表した。これによってHFTトレーダーを恐れる必要がなくなったとしている。

また、HFTが市場の変動を大きくしている可能性が、指摘されていることに対応し、NYSEは既にIEXが導入している価格が激しく変動している際に、取引を抑制する注文機能を加えた。

こうした動きは他の取引所にも拡大する見通しで、投資家を保護するためのスピードバンプ機能に類似したシステムが他の取引所でも設定されることが見込まれている。

■勝負はここから、カツヤマ氏の戦は始まったばかり

2013年10月、ダークプールとも呼ばれる私的取引システムとして、取引を開始したIEXも、公式な取引所として米証券取引委員会(SEC)から認可され、8月19日に2つの銘柄が、新取引所に移行されたのを皮切りに、9月2日までに全ての米国株の取引が可能となった。

米国には現在、IEXを含めて13の公的取引所があるが、IEXはNYSEやナスダックといった、世界有数の取引所と同じ土俵に立つことになり、巨大取引所と競合することになる。今後は既存の取引所が、IEXと類似の機能を導入することが見込まれることから、競合する取引所との差別化は難しくなるだろう。

40あまりとされるダークプールの中で、常に3位から4位に付けていたIEXが、公式な取引所に転換したことで、ダークプールのトップクラスから弱小な取引所に転落し、経営面で行き詰まる恐れもありそうだ。さらなる躍進を遂げるのか、伸び悩むのか、今後のシェア争いにも注目だ。(ZUU online編集部)

最終更新:9月2日(金)10時10分

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