ここから本文です

顧客満足度1位 「リッチモンドホテル」が好調なワケ

ITmedia ビジネスオンライン 9月2日(金)6時40分配信

 各地のターミナル駅や空港では家族連れの姿が目立つ時季だが、8月が終わると通常の光景が戻ってくる。家族連れに代わって出張姿のビジネスパーソンも目立つはずだ。

【リッチモンドホテル名古屋新幹線口の朝食メニュー】

 近年は公共交通機関の高速化や距離の延伸で日帰り出張も増えたが、宿泊出張の味方といえばビジネスホテルだ。経費節減もあって「1泊1万円以内」の規程を設ける会社も多く、価格訴求や価値訴求で各ホテルがしのぎを削る。その中で今回は、各種調査で高評価を受けている「リッチモンドホテル」(1988年オープン)の活動を紹介し、同社の顧客戦略を考えたい。

 「何かが突出しているというより、全体的な快適性が優れているのでリッチモンドホテルを選びました」

 先日、札幌市内の同ホテルに宿泊した取引先社員の感想だ。この人は、前職でビジネスホテル業界に長年勤務していたので、出張時のホテル選びには一家言を持っている。

 各種の調査結果でも同ホテルに対する評価は高い。6月22日に発表された「2016年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)調査」(公益財団法人日本生産性本部)では、ビジネスホテル部門で顧客満足1位となった。

 また、「2015年 日本ホテル宿泊客満足度調査」(JDパワーアジアパシフィック)でも、「1泊9000~1万5000円未満部門」において1位を獲得。2016年の調査結果はまだ発表されていないが、同調査でリッチモンドホテルは2006~2013年まで8年連続1位に輝いている(2014年は2位)。

 売上高や客室稼働率も好調で、右肩上がりとなっている。なぜ、これほど同ホテルは好調なのか。運営するアールエヌティーホテルズの社長を2011年から務める成田鉄政氏に聞いた。

●徹底的な不満の改善

 好調の理由について成田氏は「当ホテルは宿泊客の約6割がリピーターの方ですが、ここまでリピーターにご利用いただけるのは、お客さまの不満に徹底して向き合ったからだと考えています」と説明する。

 例えば細かな点では、ハブラシの形を戻したことにある。歯科医師の助言で磨き残しがないよう、持つ柄の部分が曲線上のハブラシを採用したが、「磨く時に液だれがして嫌だ」という利用客の声を受けて、柄が直線のものに戻したのだ。過去には部屋の消臭剤をメーカーと共同開発したこともあり、利用客の細かいストレスを軽減することに徹底している。

 筆者も名古屋出張で同ホテルに宿泊したが、同価格帯の競合ホテルでは通常、エレベーターの前に数台置かれているズボンプレッサーが部屋に常備されていた。また、朝食時のコーヒーの横には紙コップが置かれ、テイクアウトできるようにしている。

●ロイヤルホールディングスの強みを生かす

 近年のビジネスホテルは、各社が独自の特色を打ち出している。例えば「朝食の内容」や「大浴場」だが、同ホテルは前者の朝食ビュッフェに注力してきた。

 「北海道から沖縄まで直営で36店舗ありますが、全て食事内容は違います。例えば山形では山菜そばや芋煮、名古屋は味噌カツや天むす、大阪ではバッテラすしやたこ焼き、長崎では皿うどんや地元で獲れたアジのみりん干しなどもそろえています。郷土色を強めて『その土地ならではの食を味わいたい』というご要望にお応えしてきました」(同)

 実は同ホテルは、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」や「シズラー」を展開するロイヤルホールディングスの子会社だ。羽田や成田、関西、福岡など国内の主要空港にレストランも構えるグループの食材調達力や調理技術が、同ホテルの味覚を支えている。

 ロイヤル創業者の江頭匡一氏(故人)は終戦直後、米軍基地でコック見習いをした後に起業した。その後、黎明期だった日本航空の機内食や空港内レストランに進出して実績を積み、同グループを築き上げた。戦勝国・米国の豊かさの象徴だったレストランを日本に浸透させた江頭氏の経営哲学「憧れだったものを手の届く価格で実現」が、同ホテルにも反映されている。成田氏も若い頃は江頭氏の哲学を学んだという。

 宿泊客の不満解消といえば、同ホテルにはこんなサービスもある。

 「翌朝の出発が早いなどの理由で朝食が利用できないお客さまには、朝食券をホテル特製フルーツケーキに交換しています。非常に好評で年間3万個以上も出ています」(同)レストラン事業を持つグループらしいサービスが、顧客満足につながっている。

 一方、「大浴場」は設置していない。競合ホテルのドーミーインや三井ガーデンホテルズが大浴場を完備して利用客に訴求するのとは対照的だ。

 「そうしたニーズがあるのも承知していますが、女性客の中には、『大浴場で会社の同僚と会いたくない』『風呂上りで浴衣姿の人とエレベーターで乗り合わせるのも嫌』といった声も耳にします。浴場設置に踏み切った場合は、現在の宿泊料金の値上げにつながりかねないので、全体の設備投資と料金とのバランスで考えています」(同)

 筆者の周囲では「同価格帯なら大浴場つきを選ぶ」人が多いが、楽天トラベルの「出張に関するアンケート調査」(2015年1月発表)によれば、ホテル選びの1位は「価格」、2位は「立地」、3位は「朝食の質・量」の順で、「大浴場の有無」は8位だった。 

●「日帰り出張時代」にどう魅力を伝えるか

 「国内出張でホテルが取れない」という声をよく聞く。2015年にはインバウンド(訪日外国人)が年間1973万人を超え、2012年の同835万人から倍増した結果、ホテル不足がいわれるようになった。インターネットの予約サイトで早めに「満室」となることも多い。

 だが、実は最近の客室稼働率は下がっている。ビジネスホテルの業界団体である全日本シティホテル連盟の調査では、2016年5月まで7カ月連続で前年同月を下回った。そこにはこんな裏事情があるという。

 「ホテルを早めに確保したい消費者心理で、複数のホテルを早めに予約しておき、違約金が発生する直前になってキャンセルする人が目立ちます。ホテルにとっても機会損失ですし、本当に泊まりたい利用客も諦めてしまう現象が起きています。実は当日の午後に予約を入れれば、部屋が空いているケースも多いのです」(業界関係者)

 冒頭に記した交通の高速化や経費節減の影響も無視できない。例えば新幹線で東京駅~新大阪駅が2時間40分台で行けるようになり、もはや両都市の日帰り出張は当たり前だ。

 そうした「日帰り出張時代」の対策としてリッチモンドホテルは「家族旅行への訴求」「外国人観光客への訴求」を強化している。

 「家族旅行への訴求」では、ゆっくりくつろげるように通常のチェックアウト時間が11時のところを12時に延長したり、小学生以下の子どもの添い寝は無料といったプランを用意。「外国人観光客への訴求」では団体客ではなく、個人客中心に受け入れており、外国人リピーターも増加中という。

 日本人の平均宿泊数が2.6日なのに対して、外国人は5.4日と長いため、外国人の顧客獲得は稼働率の高値安定も期待できる。その外国人客を見据えたホテルとして、2015年には「リッチモンドホテルプレミア浅草インターナショナル」も開業した。

 もちろん「ホテルの魅力の深掘り」には一番力を入れる。昨年は同ホテル会員を対象にグループインタビューなどの対話を実施したほか、会員にメールを送り、約1000人から意見・要望を集めた。前述のハブラシの交換も会員の意見を反映させたものだ。

 消費者に「店」が選ばれるキーワードは、「価格」「快適性」「機能性」「くつろぎ感」だが、これはホテルも飲食店も変わらない。好調の背景にはロイヤルホールディングスとしての強みや、経営哲学が反映されたホテル作りにあるようだ。

(高井 尚之)

最終更新:9月2日(金)13時7分

ITmedia ビジネスオンライン