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スマホで覇権を握れなかったIntelの生きる道

ITmedia PC USER 9月2日(金)6時25分配信

 Intelが戦略の岐路に立っている。PC市場が横ばいまたは微減傾向に陥る中、ここ数年ほどくすぶり続けていた動きが、最近の相次ぐ同社の発表で明らかになってきた。

【画像】3Dカメラで撮影したモノを仮想空間に取り込めるHMDデバイスも披露

 最近のIntelは、CESなど対外向けイベントで基調講演を行う際に「IoT」「5G」「データセンター」といったキーワードを掲げ、PCの話題にあまり触れない傾向があったが、8月中旬に米国で開催した開発者向けイベント「Intel Developer Forum(IDF) 2016」ではそれがより目立った。

 2時間に及ぶIDFの基調講演で、PC向けプロセッサ新製品である開発コード名「Kaby Lake(ケイビーレイク)」こと「第7世代Core」に触れたのはわずか10数分程度で、ほとんどPCの世界にフォーカスを当てることがなかったのだ。

 もちろん、8月30日(米国時間)のKaby Lake正式発表を前にしてのイベントということもあり、多くを語れなかった事情はあるだろう。しかし、2016年は迷えるIntelが次に向けて大きく舵を切り始めた記念すべき年になるのかもしれない。

●PCプロセッサでは支配的な地位を得ているが……

 「Intelと言えば、PCプロセッサの会社」というのは多くの共通認識だと思うが、同社の利益の源泉は、PCというよりはむしろサーバやデータセンター事業にある。

 Intelが7月20日に発表した2016年度第2四半期(4~6月期)決算の事業部別売上を見ると、PCプロセッサを扱うClient Computing Group(CCG)とサーバ向けプロセッサや関連製品を扱うData Center Group(DCG)の間では売上で2倍近い差があるにもかかわらず、営業利益はほぼ同水準となっている。つまりサーバ向け製品の方が利益率が高く、同社の屋台骨を支える2本の柱の1本であることが分かる。

 かつてPCとサーバ業界でAdvanced Micro Devices(AMD)が好調だったのも、サーバ向けの「Opteron」プロセッサ事業に支えられてのものだ。現在このポジションはIntelの「Xeon」に取って代わられており、Xeonが大きな利益を生んでいる。

 とはいえ、PC事業もまた依然として同社を支える柱の1つには違いない。個々の単価や利益はサーバに及ばずとも、Gartnerなどの調査会社の資料によれば、世界の年間PC出荷台数は8000万台以上で非常に大きな市場だ。

 一方、PCは販売台数ベースで今後の成長余地があまり見込めない市場でもあり、Intelは次を見据えた決断に迫られている。

 Intelはスマートフォンやタブレットなど「スマートデバイス」市場に活路を見いだし、「Atom」プロセッサをベースにしたSoC(System on a chip)を市場投入して、Qualcommなどのライバル企業に対抗すべく活動を続けていた。

 しかし利益を度外視したプロセッサのばらまきによる市場拡大戦略は「安価なWindowsタブレット」という興味深い市場を作り出したものの、本丸であるスマートフォンやその周辺市場に侵食することはかなわず、自らの体力を削るだけの結果となった。

 2016年第1四半期(1~3月期)決算発表直後の4月中旬に発表された1万2000人もの大規模な人員削減や、次期Atomプロセッサ「Broxton」を含む将来製品のキャンセルは、こうした失敗を受けたものだ。

●製品全体を高価格帯へシフト

 苦戦するIntelは、製品全体を高価格帯へシフトするという選択をした。同社はエントリークラスの製品の価格レンジを従来の200~300ドル程度から400~500ドル程度まで引き上げようとしている。

 PC市場が縮小へと向かう中、減りゆく出荷台数をカバーすべく平均販売価格(Average Selling Price:ASP)、つまり製品単価を引き上げることで対応しようというのは自然な流れだ。これは一定の効果がみられ、例えば、2015年第2四半期と翌2016年第2四半期との比較で販売個数は15%減少しているのに対し、ASPは13%も上昇している。

 ただ、Atom計画のキャンセルによるPCの高価格帯へのシフトも、PC市場縮小の流れにおいては対症療法にすぎない。PC市場が今後数年程度で半減したり消滅したりすることは考えにくいが、今後5~10年を見据えれば、2本柱の1本としてIntelを支えるには不十分な存在になるだろう。

 スマートデバイス市場への進出の道も閉ざされた今、世界最大の半導体企業としてIntelの研究開発費や製造工場を支える新たな柱を探さなければならない。その葛藤がIDF 2016ではよく現れていた。

 現在Intelは、将来的なPC市場の縮小に向けて、大きく分けて3つの方策を採っていると考える。1つ目は「新たな成長分野を見つける」、2つ目は「既存の分野を徹底的に伸ばす」、最後の3つ目は「当面の減少分をなんとかフォローする」だ。

●IoTなど組み込みの世界へ注力

 1つ目の「成長分野」とは、IoTなどのセンサー技術を含む組み込みの世界だ。IDF 2016では「Project Alloy」と「Joule(ジュール)」が披露された。

 Project Alloyは仮想現実(VR)に対応したヘッドマウントディスプレイ(HMD)だ。2017年後半の登場予定で「Windows Holographic」に対応する。最大の特徴は、正面に内蔵されたRealSenseカメラが撮影した立体映像をVRに取り込めることで、例えば自分の手を仮想空間に映し出して作業が可能だ。

 Jouleは「Edison」や「Curie」に続く組み込み型モジュールで、Edisonよりも幾分かコンパクトながらよりパフォーマンスが向上している点が特徴となる。壇上のデモでは拡張現実(AR)を使った画像投写が可能なメガネ型デバイスにJouleを搭載し、作業員がメガネ上に映し出される情報に沿って作業できるような産業向けのシステムが紹介された。

 このほか、ドローン向けの組み込みプラットフォームや、RealSenseをモジュール化してロボットなどへの搭載を容易にした開発キット「Intel Euclid」も発表しており、モノ作り市場をにらんだ施策を次々と打ち出している。

●必ずしも盤石ではないサーバの世界

 前出のように、Inteにとって収益の大きな源泉はサーバ分野にある。PCアーキテクチャをベースにしたサーバで動作するアプリケーションがあり、ここにXeonを供給することで寡占とも呼べる市場を形成してきた。

 しかし現在、この市場が揺らぐ素地が形成されつつある。PCクライアントがそうであるように、市場そのものがいきなり縮小することはないだろうが、クラウド化の進展とともに大規模データセンターを運営するのが特定企業へと集中し、市場のパワーバランスが変わることが予想されている。

 特に不穏な動きを見せているのがGoogleで、IBMとのサーバ向けプロセッサでの協業のほか、TensorFlowなど深層学習に適した専用処理プロセッサ「TPU(Tensor Processing Unit)」の開発など、「データセンターでの最適化はユーザー(である企業)自身が最もよく知っている」と言わんばかりの勢いだ。

 実際、従来ながらのPCベースのアプリケーション環境を離れることで、クラウドの世界ではこうした動きが今後も加速する可能性が高い。そのため、大規模データセンターを運営するための仕組みを整備し、さらにGoogleのTPUのような最適化ソリューションまでカバーできることをIntelはユーザーに示さなければならない。

 IDF 2016で紹介された「Rack Scale Design v1.0」はデータセンターをスケールしつつ、プロセッサなどのリソースを最適な形で配分する仕組みを提供し、「Silicon Photonics」はチップ間のインターコネクトを電気信号ではなく光通信としてシンプルに行う手段を提供する。

 特に後者のSilicon Photonicsは、Intelが何年も技術開発をアピールしていたものだが、2016年の夏になりようやく出荷にこぎつけた。現状、パフォーマンス的には既存技術を置き換えるものではないが、将来的な高速化で効率的なデータセンター運用を見込んでいる。

 また、データ処理を効率よく高速化する手段として「Xeon Phi」の次世代版である「Knights Mill」を2017年に投入することを発表したほか、Alteraの買収を経て得たFPGA技術のXeonへの統合などが行われている。

 IntelではIDFの会期中に「Intel SoC Developer Forum」というイベントも併催しており、Alteraの顧客らに対して今後も継続的な製品サポートを続けていく意向を示し、開発者らの取り込みを狙っている。

 一見するとデータ処理の高速化という点で似ているXeon PhiとFPGAだが、前者がOpenCLのようなプログラミングモデルが中心なのに対し、後者はVHDL(VHSIC Hardware Description Language)を使って論理式を記述していく、どちらかといえばASICのような専用プロセッサの設計を行う仕組みだ。

 当然、求められる技術スキルや適用分野も異なっており、この辺りの技術者やリソースをどのようにIntelに取り込んで市場を大きく盛り上げていくかが大きな課題となる。

 これが2つ目の「既存の分野を徹底的に伸ばす」だが、やはり成果が見えるようになるまで5~10年程度の期間は必要だろう。つまり、現在のIntelは5~10年先の変化を見据え、生き残れるかの賭けに出ていると言えるかもしれない。

●IntelがARMプロセッサを製造する背景

 しかし、現在のIntelにはより差し迫った問題がある。それは生産ラインの稼働率に関する問題だ。他のどの半導体メーカーよりも最新の製造プロセスを採用し、高品質な製品を安定供給することでIntelは現在の地位を築いている。これがPC世界において同社の寡占に近い状況を生み出しているのだが、一方でPC市場の需要がそのまま同社の供給能力に影響を及ぼすことにもつながっている。

 PC市場が成長している間は製造設備を増強してもそれがそのまま売上につながるため問題はあまりなかったが、需要が減少するとなれば話は別だ。半導体製造工場のラインは稼働率が落ち、製造プロセスの微細化が進むごとに急上昇している設備投資や開発コストが回収できなくなってしまう。

 ここ数年は最新プロセスの製造ラインをAtomプロセッサに割り振ることが可能だったが、もしBroxton以降の製品をキャンセルするとなると、減少していくPC向けプロセッサの穴埋めが難しくなる。前述のように、サーバ向けはそもそも個数が少ないため、IoT以外の用途でもラインを埋めることが求められる。

 最後の3つ目は「当面の減少分をなんとかフォローする」だが、ここで出てきたのが「Intelの工場でARMプロセッサを生産する」という話になる。

 具体的には、ARMのIP(知的財産)、つまり「ARM Cortex-A」といったARMが提供するプロセッサコアの設計図を組み込んだSoCをIntelが製造し、顧客であるファブレスの半導体メーカーに提供する。Intelは台湾TSMCなどの「ファウンダリ」となるわけだ。

 ARM IPは「ソフトマクロ」などと呼ばれる論理設計図の状態で提供されるが、これをIntelの製造プロセスに最適化されるように同社自らが開発を行う。「Intelの最新製造プロセスでARMコアのSoCが製造できますよ」ということをセールスポイントに、同社はファウンダリビジネスを展開することになる。

 ARM IPが基本となるが、契約次第ではAppleの「A」プロセッサやQualcommの「Snapdragon」のように、アーキテクチャライセンスで開発されたARM IP以外の製造も将来的にIntelが受け持つ可能性もある。

 PCコンポーネントの主要ベンダーとして大成したIntelは、PC市場の変化や縮小とともにその在り方が問われ、自らを変革する必要に迫られている。今後しばらくはアップダウンを繰り返して市場は緩やかに推移するものの、5~10年先にIntelがどのようなポジションを得て、どのような姿になっているかは分からない。2016年はIntelにとって、そんな大きな変化の分岐点にある。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

最終更新:9月2日(金)6時25分

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