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同じ仕事なのに、なぜあの人は「結果」を出すのか

ITmedia ビジネスオンライン 9月2日(金)9時27分配信

 仕事のやり直し、差し戻しを防ぐには、どうすればいいのか。準備段階での「結果を出す"下ごしらえ"」について、たくさんの取材経験から考えてみる連載第5回最終回。

【過去の仕事を「知る」こと】

 第4回まで、「目的」「ターゲット」「アウトプットイメージ」「プロセス」というキーワードを掲げてきたが、最終回のキーワードは「アウトプット」だ。最終的に仕事を仕上げていくことである。

 ある取材で、マネジメントを担う上司がこんなことを語っていた。「よく似た仕事を別の社員2人に頼んだら、まったく違う出来になって驚いた……」

 ほどんど同じ仕事なのに、なぜ違いが出るのか。その理由は、「目的」「ターゲット」「アウトプットイメージ」「プロセス」というアウトプットに行き着くまでの流れに大きく左右される。そして、もうひとつ大きな違いを生むのが、「アウトプットをどう考えるか」ということだ。

 アウトプットの考え方の質次第で、出てくるもののクオリティは大きく変わる。アウトプットイメージは近くても、似て非なるものが出てくる可能性もあるのだ。

 どういうことか。端的に言えば、「考える時間」が極めて重要になるということである。ところが、アウトプットを考える時間が、意外に意識されていないのだ。

 やらなければいけないステップに引きずられ、肝心の考える時間が取れなくなっていることが、差を生むというのである。

 考える時間がなかったとすれば、単にステップを踏んだだけの仕事になってしまいかねない。これでは依頼者が求める期待に応えるのは難しいし、受けた側の仕事も面白いものではなくなる。

 まずは「プロセス」まで準備したところで、一度、頭をクールダウンさせて考えるのだ。「さて、どうするか」と1人で作戦会議を立ててみる。これが、アウトプットのレベルを大きく左右するのである。

 そのひとつのヒントが、「相場」だ。物事には相場というものがある。例えば、レベル相場の理解だ。

●「過去の仕事を探ること」がポイント

 上司に資料づくりを命じられた場合、どんなクオリティレベルの仕事をすれば、上司は納得してくれるのか。あるいはほめてくれるのか。それが把握できているかどうか。

 自分の主観で「このレベルでやっておけばいいだろう」と思ったことが、上司の主観で見れば、「こんなレベルではOKは出せない」ということにもなりかねない。

 そこで有効なのが、過去の仕事を探ること、と語っていた経営者がいた。第3回の「アウトプットイメージ」でも、サンプルや参考になるものを探してみる有効性を書いたが、これはレベル相場の確認にも役立つのだ。

 経営者は若いころ、上司に仕事を頼まれたとき、過去の仕事について、上司に必ず尋ねていたという。「いい実例はないですか」「何かお手本になるようなものはありませんか」「サンプルとして参考にできるものはありますか」……。

 これによって、経営者は頼まれた仕事のレベルを理解することができた。その仕事の「相場観」が分かったのだ。

 もし、上司がイメージを持っていないようであれば、「過去にこういう仕事を依頼されたことがないか」「何かいいサンプルになるものはないか」と先輩に聞いてみるのもいい、と語っていた。

 勘違いするべきではないのは、もらったお手本やサンプル、見本をそのまま真似ろということではないことだ。あくまでこれらは、仕事レベルを知る、相場観を知るツールに過ぎない。そのレベルまで、あるいは、そのレベル以上の仕事をしようとするために、ツールとして使えばいいというだけだ。

 その意味では、そのものずばりサンプルにならなくても、似た仕事、近い仕事、上司の仕事、同僚や先輩の仕事、同じ部署の仕事など、相場観を知るヒントはたくさんある。

●情報を取捨選択しなければいけない

 そしてもうひとつ、アウトプットを考えるとき、最も出くわすことになるのは、情報の取捨選択の概念になる、と語っていたのは、あるトップセールスマンである。

 資料づくりを頼まれたとき、どの情報を資料に盛り込み、どの情報を外すか。セールスの企画書をつくってプレゼンをするとき、どのポイントを一番に持っていくか。

 これら情報の取捨選択を考えるとき、重要なキーワードがある。それが、ターゲットメリットを考えることだ。

 第2回で解説した、本当のターゲットを満足させることが、仕事の最終目的。そうであるなら、ターゲットを軸に、情報の取捨選択を考えることが重要になる。

 上司に資料を頼まれた。提出先は、上司の上司である部長。これが本当のターゲット。では、なぜ部長はこの資料を求めたのか。部長はどんな状況にあり、どんなことに関心を持っているのか。上司の課長と一緒に考えるのだ。

 本当のターゲットを考えることによって、情報の取捨選択ができるようになっていくのである。

 セールスのための企画書なら、ターゲットはお客さま。となれば、お客さまの状況をしっかり分析しなければならない。こちらがどう売るか、という前に、お客さまがどういう状況にあるのか、把握しないといけない。

 場合によっては、企画書を出す前に、お客さまの状況をヒアリングする機会を真っ先に設けたほうがいいかもしれない。それによって、企画書の情報の取捨選択ができるようになるのだ。

 アウトプットを考えるときには、こうしてターゲットメリットを強く意識しなければいけない。しかし実際には、流れている情報が膨大である。そこから情報を整理して、正しい結論を出していくことは、やはり簡単ではない。

 また、ターゲットメリットを知るには、いろいろなターゲットがイメージできる想像力も必要になってくる。出したものが、どんなふうに受け取られるか、求められているものに過不足なく応えられているか、依頼者のターゲットが好む仕上がりになっているか、ということも想像しないといけない。

●情報感度の磨き方

 こうした想像力をどう培っていけばいいのか。いろいろな人にとって必要な情報に反応できる情報感度をどう磨いていけばいいのか。

 これについて興味深い話をしてくれたのが、ある外資系企業のトップだった。ただひたすらに膨大な量の情報を浴び続ければいい、というのだ。

 今や何もしなくてもたくさんの情報が入ってくる時代。とにかく情報のシャワーを浴びるのである。ただし、このとき、ひとつだけ意識することがある、と経営者は語っていた。それは大事なニュースは何か、ということ。

 膨大な量の情報の中から、「大事なもの」というアンテナを立てておくのである。そうすることで、引っかかる情報が出てくるのだ。そうすることによって、ただ情報が受け身に流れていくのではなく、こちらから取りに行けるようになる。

 別の著名な経営者はこんなことを語っていた。彼のもとには毎週月曜日に各事業部門から分厚いレポートが集まる。それを束ねると、厚さは10センチ以上。

 そのすべてを読み込むことは、とてもできない。では、どうするのかというと、斜め読みをしながらページをめくっていくのである。そうすると、「おや?」と引っかかる箇所が出てくるというのだ。そこにだいたい問題点があり、すぐにそのレポートを書いた担当者に電話で問い合わせるのである。

 大事なのは、膨大な量の情報に慣れ、そこから本質的なものを吸い上げる意識を持っておくことだ。先の外資系社長は、「インサイト」という言葉を使っていた。本質は何か、インサイトは何かというアンテナを立てながら、膨大な量の情報に接していくのである。

 若い時代の仕事は、その仕事自体の構造が比較的シンプルだ。ターゲットメリットも分かりやすい。しかし仕事の難易度が高まると、情報の取捨選択の難易度も高まっていく。大量の情報に接すると、その扱いに困るようになる。だから、インサイトが生きてくる。経営者たちは、こういうことをして想像力を鍛えているのである。

●優れた仕事の裏に「膨大な準備」

 アウトプットについて考える、というところまで、仕事についてずいぶん長い道のりを書いてきた。「こんなに準備に手間暇がかかるのか」と思われた方も多いかもしれない。しかし実際には、仕事のほとんどは準備だと語っていた人は多かった。優れた仕事には、間違いなく膨大な準備がある。それがうまくできていないと、アウトプットのクオリティは高まらない。

 やり直し、差し戻しをくらってしまうのは、準備段階に問題があるのだ。ところが、どうしても早くアウトプットに目が向いてしまう。早くアウトプットがしたくなる。しかし、これでは文字通り「準備不足」になってしまいかねない。

 アウトプットは最後の最後、という意識でいい。それまでの準備に7~8割のパワーをかける。

 そして重要なことは、いきなり完成を目指さないことである。最初は60~70点程度のものを作り、そこから何度も見返して、どんどん精度を上げていく。

 この方法のメリットは、大きな枠組みがぶれなくなることである。いきなり完成形を目指そうとすると、マクロな視点よりも、どうしてもミクロな視点に向いてしまう。

 焦らず急がずじっくりステップを踏んで取り組む。結果的にそれが、やり直しや差し戻しを防ぐ、最も近道なのである。そうやって優れたビジネスパーソンたちは、着実に力をつけていくのである。

(上阪徹)

最終更新:9月2日(金)9時27分

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