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新海誠監督が語るアニメ観客層の変化 若い世代の女性ファンが増える背景とは?

オリコン 9月3日(土)8時40分配信

 リアルで美しい色彩と繊細な物語世界で世界中の熱狂的なファンに支持される新海誠監督の最新作『君の名は。』が、8月26日からの公開3日間で興行収入12億円を突破した。この破格の大ヒットスタートの裏には、従来のアニメファンの枠を超える観客層の動きがあるようだ。「僕の作品を観る観客層が変わってきている」という新海監督が、女子中高生のリアルな声を発信してきた18歳の起業家・椎木里佳と女性層の最近の趣向や動向について語り合った。

【写真】新海誠監督と女子大生社長・椎木里佳の対談カット

◆ここ4、5年は女の子の観客の方が多い(新海誠)

【椎木里佳】 『君の名は。』を拝見させていただきました。すごく純粋で美しい世界が描かれているなと。最初は、都会の男の子と地方の女の子が入れ替わるコミカルなラブストーリーかと思って観始めたんですけど、観ていくうちにそれだけじゃないぞと思うようになってきて……。予想外の物語の展開に驚きながらも、「そういうつながりがあったのか」っていろいろな伏線を思い返したりして、気がついたらストーリーにぐぐっと引き込まれていました。予告編を観ただけではまったくわからなかった深みを感じて、本当にすばらしい映画を観たなと思いました。

【新海誠】 ありがとうございます。

【椎木里佳】 新海監督は、街の景観とかを大事にして描いていらっしゃいますよね。最近は外を歩いていてもスマホを見ていることが多くて、顔を上げることが少なくなってきていたんですけど、そういえば街の景色ってそんなに意識的に見ていなかったなと思って。そういうことに気づけたことも良かったです。

【新海誠】 『君の名は。』公開前には、映画プロモーションで全国の試写会をまわっていたんですが、お客さんはほとんどが女性。場合によっては80%くらいが若い世代の女の子だったときもありました。もちろんそれは主演の神木(隆之介)くんが舞台挨拶に来るからということも大きいとは思うんですが、神木くんがいないときでも女の子がすごく多かった印象があります。だから今作は、ふだん僕のアニメに接していないような方たちが観てくれているのかなと思っているんです。

【椎木里佳】 私のまわりの子たちに聞いても、『君の名は。』に興味があるという女の子はすごく多くて。みんなスマホで映画の予告編はよく観ているんですよ。この映画は、とくに若い女の子の期待度がすごく高くなっているなと感じていました。

【新海誠】 それは良かった。椎木さんはふだん、アニメを観るんですか?

【椎木里佳】 観ますけど、みんなが観ているピクサーとか一般的な作品が多いですね。

【新海誠】 深夜アニメとかは観ないですか?

【椎木里佳】 私はあまり観る機会がないんですけど、女子中高生のマーケティングの仕事をしていると、アニメを観ること自体がふつうになっているというか、昔のような“オタクが観る”というイメージはなくなっている気がします。学校で目立っている子たちでも、アニメ好きの子は多いですし。いまはアニメに対する壁というか抵抗感みたいなものはないと思います。

【新海誠】 ここ数年は、僕の作品を観る観客層が変わってきていて。以前は20~30代くらいの男性客が多かったのですが、ここ4、5年くらいは女の子の方が多くなってきています。
【椎木里佳】 いまはアニメだからどうっていう意識はないんじゃないでしょうか。おもしろければふつうに観るっていう。あと、やはり女性って男性も一緒に連れていくじゃないですか。だから女性が集まるものには、より男性も集まると思います。

【新海誠】 確かに女子に誘われたら行ってしまいますね(笑)。ところで女性の立場から見て、『君の名は。』は何が響きました?

【椎木里佳】 音楽は大きいかもしれないですね。RADWIMPSって、私たちよりもう少し上の世代から人気だと思うんですけど、高校生くらいの世代からも支持が厚い。自分たちの気持ちを代弁してくれる人という気持ちがあります。とにかくRADWIMPSが流れる予告編がすばらし過ぎて、それで心奪われて観たいという子たちも多いんじゃないかと思います。実際、映像と音楽がすごくピッタリだったと思います。

◆中高生の恋愛に関する悩みは昔から変わらない(椎木里佳)

【新海誠】 ところで、コミュニケーションツールが変わったとしても、恋の悩みだったり、心の悩みだったりといった思春期の苦悩というのは、根本ではそんなに変わらないのかなと思っているんですが、実際はどうですか? 5年前にはなかったような悩みはあったりするんですか?

【椎木里佳】 いまだと既読無視とかLINEのやりとりで悩んでいる子は多いですけど、コミュニケーションに関わる悩みって昔から日常生活のなかにあって、それは根本的に変わっていないと思います。恋愛に関しても悩むことは一緒だし。単にツールが変わっただけという気がします。

【新海誠】 高校生が主役の作品を作るときには、自分が10代の頃に抱いていた悩みなどを思い返しながら、想像で描くことになるんです。悩みの本質的な部分が今でも変わっていないのであれば、まだ僕も映画を作ることが出来るのかなと安心しました。

【椎木里佳】 この映画を観たときは、いまの若い子はこんなことはしないんじゃないか、言わないんじゃないか、と思ってしまうようなところは全くなかったです。パンケーキの写真をパシャパシャ撮るシーンがあったじゃないですか。ああいうのって私たちもよくやるなと思って。高校生の生活のなかの細かい描写がとてもリアルだなと思って観ていました。

【新海誠】 それは良かったです。いまの高校生がリアルに何を考えているかというとわからないことも多いし、最終的には人によってみんな違うじゃないですか。たしかに全体の傾向はありますから、リサーチして調べなくてはうまくいかないこともあると思いますが、でもやっぱり映画で描く10代の気持ちというのは、内発的なものだと思うんですよね。

【椎木里佳】 新海さんは個人でアニメ制作を始められていますが、どこかのスタジオに入ろうとは思わなかったんですか?

【新海誠】 僕は自分のやりたいことが見えてきたのが30歳前後だったので、そこからアニメスタジオに入るのはちょっと遅いなと。下積みがなかったので、そのぶんの苦労は30代のころはずっとありましたね。いま思えばどこかの企業に入るという選択肢があっても良かったのかなとも思っています。その前はサラリーマンだったので。椎木さんは大学を卒業してもいまの会社をやっていくんですよね。

【椎木里佳】 そうですね。私は就職は難しいと思います。もし入ったらその会社に迷惑がかかりそう(笑)。このまま会社をやっていって、22歳までには上場したいと思っています。そこから先は違う道にいくこともあるかもしれませんけど。

【新海誠】 僕たち、なんだかまったく違った人生を歩んでいますね(笑)。
(文:壬生智裕)

最終更新:9月3日(土)8時40分

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