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【漢字トリビア】「備」の成り立ち物語

TOKYO FM+ 9/2(金) 12:56配信

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「備える」、「準備する」「備蓄する」の「備」。防災の日にひもといてみたい漢字です。今回は「備」に込められた物語を紹介します。

「備える」という漢字の右側の字は、矢を入れて背中に負う「箙(えびら)」と呼ばれる箱型の武具を示しています。
その「箙」を人が背負う形が「備える」という漢字。
元の意味は戦いに「そなえる」ということですが、のちにすべてのことに「そなえる」という意味になりました。
さらに、前もって用意するにはすべてが「そなわっている」ことが必要なので、「つぶさに、ことごとく、みな」の意味ももつようになりました。

現存したことが確認されている中国最古の王朝・殷。
殷の国王は呪術の力を利用して国を統治したといいます。
彼は、漢字を媒介として神と人との間を行き来し、神と意見が一致したことを占いの結果として示し、権威づけを図りました。
また、呪術はあらゆる邪悪なものに対しての備えとしても使われます。
戦に出かける際は、敵に呪いをかける巫女を連れてゆく。
討ち取った相手の生首を手に持ち歩き、見知らぬ土地の邪悪な霊を祓い清める。
こうして、目に見えない力に守られた戦士たちは、さまざまな武具を身につけて果敢に敵地へ踏み込んだのでした。

「これ事を事とする 乃ち其れ備え有り 備えあれば憂い無し」
これは、中国最古の歴史書『書経』におさめられた演説の一節で、殷の宰相・傳説(ふえつ)の言葉だとされています。
するべきことをしておけば、備えがあるのだから、心配することはない。
こうして彼は必要なものをすべてそろえて、殷王朝の勢力を拡大したのでした。

ではここで、もう一度「備」という字を感じてみてください。

防災や災害についての知識を高めることを目的に制定された「防災の日」。
九月一日は関東大震災が発生した日であり、暦の上で台風が多いとされる二百十日を数える頃であることにも由来します。
自然の恵みを享受してこの国に生きる以上、災害の影響を避けては通れません。
地震、台風、豪雨、竜巻、火山の噴火。
災害は「もしかすると」ではなく、「いつでも」やってくる可能性がある、そう心得るべきなのです。
自分自身と大切な人を守るための備えは、危機に立ち向かう大切な武器。
備えあれば、憂いなし。
しっかりと整えておきたいものです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『絵で読む漢字のなりたち 白川静文字学への扉』(金子都美絵/絵・添え書き 白川静/文字解説 太郎次郎社エディタス)
『いのちを守る地震・防災の本(6) 親子のための地震イツモノート キモチの防災マニュアル』(地震イツモプロジェクト/編 寄藤文平/絵 ポプラ社)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2016年8月27日放送より)

最終更新:9/2(金) 12:56

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