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ドライバーの新リファレンスになるか、英イヤフォンの音が別格

アスキー 9月3日(土)12時0分配信

英RHAが開発したDualCoilを内蔵するイヤフォンの高音域がとても気持ちいいです。

 イヤフォンのドライバーユニットといえば、ダイナミック型とバランスド・アーマチュア型が主流。2万円台以上の機種では、低域の得意なダイナミック型と、高域の得意なバランスド・アーマチュア型を組み合わせた、2Way構成のハイブリッド型イヤフォンも再生帯域の広さで人気があります。
 
 英国のRHAが開発した「DualCoil(デュアルコイル)」は、名前の通り2つのボイスコイルを持つダイナミック型のドライバー。同軸2wayのフルレンジスピーカーに近い構造で、ローエンドからハイエンドまで、広い帯域特性を得るのが狙いのユニットです。つまり1つのユニットでハイブリッド型のような特性を実現しようというもの。
 
 このドライバーが初めて搭載されたRHAの「T20」シリーズは、ノズルの交換で特性をチューニングできるフィルターや、3D曲面で構成されたステンレスのハウジングなど、モノとしてのおもしろさも盛り込まれた意欲作です。
 
 リモコンなしの「T20」が3万227円、Apple製品対応マイクリモコン付きの「T20i」と、そのカラーバリエーションモデルの「T20i Black」が3万2194円(9月2日時点のAmazon価格)。ダイナミックドライバー一発と考えると高いですが、ハイブリッド型がコンペチターとすれば妥当な価格設定と言えます。
 
 果たしてDualCoilドライバーはどこがいいのか。そしてT20シリーズはどうなのか。しばらく使い込んでみました。
 
ドライバー間の位相差を最小化するDualCoilドライバー
 通常のダイナミック型ドライバーは、振動板の外周に付いたボイスコイルが、マグネットの反発力を受けて駆動します。DualCoilは内周にもボイスコイルを設け、両方のボイスコイルをドーナツ型のマグネットが受ける構造。外周のボイスコイルが低域、内周が高域を受け持ち、それぞれ帯域分割された信号で振動板を駆動するわけです。
 
 言ってみれば、同じ振動板を積極的に分割振動させるような仕組み。この構造を採るメリットは、ドライバー間の位相差を最小化できること。そしてユニットとしてコンパクトにまとめられる点でしょう。複数のユニットを最適な位置に配置しなければならないハイブリッド型に比べると、ダイナミック型ドライバーひとつ分のディメンションで済んでしまうため、設計自由度も生産効率も良さそうです。
 
フィルター交換も楽しみのひとつ
 ハウジングはシュアのイヤーモニターを思わせるデザインで、樹脂製のようになめらかな三次元曲面を持っています。これがステンレス製というのが、まず驚き。メタルインジェクションによる整形で、衝撃や腐食に強い堅牢性と同時に、手触り、形状ともにいままでのイヤフォンにない新鮮さも備えています。
 
 ハードとしてのおもしろさは、ノズル交換式のチューニングフィルターにも現れています。フィルターを内蔵したノズルとハウジング本体の結合部は、バルナック型ライカのようなスクリューマウント式で。交換もレンズ同様、フィルターをクルクル回して着脱するというもの。結合部には音漏れを防ぐためにラバーブッシュも入っています。
 
 はっきり言ってしまえば、AKGのK3003のフィルターと似たようなものですが、ハウジングに装着しないフィルターのために、ステンレスの厚い板でできたフィルターマウントも用意されています。これは保管や携帯に便利で、あれこれチューニングを試す際に重宝します。
 
 フィルターは標準装着のリファレンス、そしてベースとトレブルの3種類。トレブルは金属メッシュだけの素通し状態、それに高域成分を削るフィルターとして不織布を追加したのがリファレンス、そのフィルターの厚みを増したのがベース。つまりフィルターをかけないことで、高域を強調するのがトレブルフィルター。高域に適切なフィルターをかけてフラットにしたのがリファレンスフィルター。高域に強くフィルターをかけることで、低域を強調するのがベースフィルターということです。
 
チューニングはイヤーチップと組み合わせて
 音質はイヤーチップでも変化するので、フィルターと組み合わせて、好みの音に追い込んでいくこともできます。付属するイヤーチップは、通常のシリコンチップがS/M/Lの3サイズと深さの違いで6ペア、ダブルフランジチップと、低反発ウレタン製のフォームチップが2ペアづつの、計10種類と豊富です。
 
 たとえば低域を強調したいならベースフィルターと密閉度の高いダブルフランジチップ、高域を強調したいならトレブルフィルターにシリコンチップを組み合わせるといったように。高域を吸収しやすいフォームチップとの組み合わせでは、それぞれまた違ったバランスが楽しめます。
 
 ちなみに、ノズルの着脱はイヤーチップが付いた状態の方が回しやすいです。そしてスボラを決め込む場合は、お気に入りのイヤーチップとフィルターの組み合わせを、そのままフィルターマウントに装着して保管することもできます。
 
 いずれにしても、しっかり締めておかないと音質に影響が出るだけでなく、ノズルが緩んでイヤーチップごと脱落してしまう可能性があることです。万一紛失した場合でも、チューニングフィルターは別売りパーツとして国内でも流通しているので、その点では安心できますが。
 
ポストハイブリッド型としての可能性に期待
 装着スタイルは、イヤーモニターのようにケーブルを耳の後ろに回すタイプ。耳にかかる部分のケーブルはファブリックで覆われ、可塑性のあるイヤーハンガーとして構成されていますが、これをRHAは「可変オーバーフック」と呼んでいます。ケーブルのそれ以外の部分はエラストマー被覆で、やや太めながら柔軟でからみにくく、無造作な扱いに耐えます。
 
 気を付けたいのは、イヤーモニターのような外観から完全な密閉型を想像しますが、ハウジング側面にはメッシュカバー付きのチューニングホールが空いていること。つまり遮音性はリスニング用イヤフォンと同じ程度で、音漏れもあるということ。さほど大きくはないとはいえ、側面から音漏れするので、混んだ電車では隣の人との距離に注意した良いかもしれません。
 
 さて、その音質ですが、ダイナミック型ドライバーとして考えると、高音域の解像感は別格と言えます。それに低域の量感表現として、ボトムエンドの空気感が共存するバランスは、やはりハイブリッド型に近い。カナル型にありがちな中高域のディップやピークもなく、ハイエンドがストレートに伸びていて、ここは非常に気持ちがいいです。
 
 特に素晴らしいのは中音域の解像感。定位がシャープで音場再現性に優れている点は、この価格帯のイヤフォンとして傑出しているように感じました。同価格帯のハイブリッド型と比べて、再生帯域の広さで負けていないだけでなく、十分に構造上の理があるということです。
 
 ただ、それがドライバーの特性によるものなのかはわかりませんが、試聴に使ったiPhoneのイヤフォン出力が非力に感じられることもありました。T20シリーズのインピーダンスは16Ωですが、感度は90dBとやや低め。音量は十分に足りていますが、駆動力のあるアンプがあれば、持てるポテンシャルをさらに発揮できるように思えます。
 
 広い再生帯域を得るために、ドライバー構成のハイブリッド化や金属を使った振動板など、イヤフォンの世界では様々な試みがあり、それぞれ成果を上げてきました。DualCoilはそうしたもののひとつとして、将来に期待できる有望な技術と言えそうです。
 
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
 
 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
 
 
文● 四本淑三

最終更新:9月15日(木)19時18分

アスキー