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アングル:ロシア石油民営化騒動、プーチン支配の限界を露呈

ロイター 9月3日(土)15時7分配信

[モスクワ/ウファ(ロシア) 31日 ロイター] - 中規模石油会社の民営化を延期するとのロシア政府の決定は、あれほどの権力を誇るプーチン大統領であっても、政界の内紛がビジネスに与える影響を阻止できないという事実を投資家に露呈した。

外国人投資家は、もう長いことロシア資産の購入に対して二の足を踏んでいる。ロシアが私的財産権を尊重していないのではないかと懸念しているからだ。それにしても、国営石油会社バシネフチ<BANE.MM>の支配をめぐる派閥間の争いはあまりにも激しい。

バシネフチ株式の過半数を保有するロシア政府は16日、政府保有分の売却延期を発表した。ウリュカエフ経済発展相は延期の理由として、市場の状況が好ましくなく、投資家がこの案件に前向きになっていないからだと説明した。

だが、バシネフチをめぐる争いは、外国人投資家たちに、特定の陣営からの支持獲得が、必ずしも投資の保護を約束するものではないことを、改めて痛感させる結果となった。ロシア政府内での利害関係や影響力は、急激に変化する可能性があるからだ。

「外国人投資家は皆、何が起きているか理解している。つまりそれは、彼らとは関わりのない内紛なのだ」。ロシアに関するアドバイスを投資家に提供するコンサルタント会社マルコ・アドバイザリー社のクリス・ウェーファー氏はロイターに語った。

内紛の一方にいるのは、国営石油会社ロスネフチ<ROSN.MM>の最高経営責任者(CEO)でありプーチン大統領の腹心でもあるイーゴリ・セチン氏だと政府とバシネフチに近い複数の情報提供者は指摘する。セチン氏に対抗するのは、バシネフチは民営化すべきだと考える政権内の経済リベラル派だ。

プーチン大統領はどちらか一方に肩入れすることを避けているという。

「バシネフチの1件は、政争が原因なのは明らかだ」と同社の民営化協議に詳しい情報提供者はそう語る。「バシネフチは優良企業で、それなりの価値がある。ロシア国内のどこかが買収するだろう。だが、誰に買収を認めるのか、政治的決定が下されていないのは明らかだ」

外国人投資家は、ロシア政府が民営化を検討する他の資産についても、同じ道をたどるのではないかと懸念している。その一例が国営海運大手ソブコムフロットの株式25%で、ロシア政府によれば240億ルーブル(約376億円)の価値があるという。

<骨肉の争い>

ロシアで長期投資を行っている者にとって、バシネフチをめぐる騒動は既視感のあるものだ。

過去30年間、同社の所有権が幾度も変わってきたことを受けて、「バシネフチを売却する唯一の方法は、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)に売ることだ。外国人投資家は、リスクが大きいと見ている」と西側の銀行関係者は語る。

バシコルトスタン地方で原油を採掘し、そこで3カ所の石油精製所を運営していることに由来する社名を持つバシネフチは、日産約40万バレルの石油を生産している。これはベトナムの生産量とほぼ同じで、ロシア国内生産量の約4%に相当する。

1991年のソ連崩壊後、バシネフチはウファ市に設けられたバシコルトスタン共和国政府の所有となり、ロシア政府からはほとんど統制を受けなかったため、同共和国の初代大統領となったモルタザ・ラヒモフ氏が権勢を振るうことになった。

1999年12月31日に辞任したエリツィン大統領の後継となったプーチン大統領は、中央による統制を取り戻しにかかった。

当時、ラヒモフ大統領の下で働いていた情報提供者によれば、ラヒモフ氏はこれを脅威に感じ、その息子のウラル・ラヒモフ氏は、バシネフチの収益は中央政府に吸い取られ、人事権も失われてしまうだろうと父親に訴えたという。

かつてエネルギー部門の要職に就いていた別の情報提供者は次のように語る。「想像してほしい。ウファ市では屋外の気温はマイナス50度にもなる。そこで高齢の女性たちがフェルトのブーツ姿で立ったままバスを待っている。彼女たちはどこで働いているのか。3カ所の精油所、それ以外に仕事などない。ラヒモフ氏は毎朝、そういう恐怖感とともに目覚めていた」

ラヒモフ氏は2002年、エネルギー関連企業の支配権を民間に譲渡することを認める政令に署名し、これらの資産は息子のウラル氏に近い企業の手に渡った。だが、当時のバシネフチに詳しい2人の情報提供者によれば、ウラル氏が父親と政治的に対立したことで、父子の関係は悪化したという。

ラヒモフ父子が対立するなかで、バシネフチへの関心を強めていたのが、電気通信コングロマリットであるシステマを経営する富豪、ウラジーミル・イェフトゥシェンコフ氏である。システマは徐々にバシネフチの株式の取得を進め、約25億ドルを投じて2009年半ばに過半数の株式を確保した。

ラヒモフ氏に近い情報提供者によれば、これは純粋な株式の取引ではなく、ロシア政府の有力者からの政治的な支援があったという。「ラヒモフ氏は、バシネフチをイェフトゥシェンコフ氏に売るよう、上から圧力を受けていた。彼は長いあいだ抵抗していた」

イェフトゥシェンコフ氏には、その頃支配的な地位にあった経済リベラル派との人脈があった。同氏の下で、バシネフチは産油量を拡大し、2014年にロンドンで2回目の株式売り出し計画を立てていた。

だが、ロシア政府内の政治的な潮流が変化し、経済リベラル派が優位を失うなかで、同氏の運勢も怪しくなってきた。

<セチン氏の思惑>

バシネフチの成長ぶりにはプーチン大統領の腹心と言われるセチン氏も注目した。彼はロスネフチの産油量・精製能力を拡大するために他社の買収を模索していたからだ。業界筋によれば、2014年に中小石油会社Burneftegazの買収をめぐってイェフトゥシェンコフ氏がロスネフチに勝利したことも、セチン氏を刺激したという。

さらにイェフトゥシェンコフ氏は、株式売却に向けた予備交渉と見られる会合を西側の石油商社と行ったことで、ロシア政府を憂慮させた可能性がある、と石油業界の関係者2人は指摘する。

システマからはコメントが得られなかったが、西側の大手石油商社がバシネフチの株式を取得していれば、ロシアによるバシネフチの国有化は難しくなっていたかもしれない。

イェフトゥシェンコフ氏は2014年、バシネフチの株式を不正取得したとして告訴され、3カ月間自宅軟禁下に置かれた。システマはこの容疑を否認しており、最終的には告訴は取り下げられたものの、裁判所は当該株式を国家に返納することをシステマに命じている。

セチン氏はイェフトゥシェンコフ氏の逮捕に関与したことを否定している。ロスネフチの広報担当者からはコメントを得られなかった。

ロシア政府としては、石油価格が下落し、ウクライナ問題をめぐって西側諸国から経済制裁を受けるなかで、歳入不足の補填を狙った民営化推進策の一環として、バシネフチの株式時価総額100億ドルのうち約半分を回収したいと考えている。

またロシア政府は、民営化推進策の一環としてロスネフチの保有株式の一部も売却する意向だが、現在では、バシネフチの民営化よりも先にロスネフチ株の売却が行われるのではないかと予想されている。

(Vladimir Soldatkin記者, Oksana Kobzeva記者、Katya Golubkova記者、翻訳:エァクレーレン)

最終更新:9月3日(土)15時7分

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