ここから本文です

亡き父へささぐ唄 がん闘病中の娘が追悼おわら

北日本新聞 9/3(土) 0:43配信

■おわら“唄の名手”の背中追い稽古 桐谷麻弓さん(44)=八尾町天満町

 「おわらがあるから、つらい治療の中でも前向きになれた」。富山市八尾町天満町の歌い手、桐谷麻弓さん(44)は、がんとの闘いを続けながら風の盆に参加した。4月に79歳で亡くなった父の正治(まさじ)さんは八尾を代表する唄の名手。自宅前で行われた追悼おわらでは、同じ歌い手として尊敬する父への思いを胸に、今できる精いっぱいの声を響かせた。

 桐谷さんは、富山市八尾町天満町で、3人きょうだいの3番目として生まれた。幼いころから、そばにはおわらがあり、生活の一部だった。県外に住んでいた時も、風の盆の9月は八尾に戻っていた。25歳をすぎたころから唄の修練を開始。父の背中を見ながら稽古を重ね、歌い手として毎年参加してきた。

 体に異変が起きたのは、2014年の夏だった。体のだるさや気持ち悪さがあるものの、原因が分からず、ついに起き上がれなくなった。市内の病院で検査を受けたところ、腹部に大きな腫瘍が確認された。同年12月に手術を受け、初めて病気ががんの一種「平滑筋肉腫」だと分かった。転移も見つかり、本格的な闘病生活が始まった。

 抗がん剤治療の影響で、倦怠(けんたい)感に襲われ、髪の毛は抜けた。体重も術前から約10キロ落ちた。それでも昨年9月、風の盆に参加。帽子をかぶって、輪踊りや町流しでうたった。桐谷さんは「さまざまな制限がある中、おわらだけは我慢したくなかった。練習不足だったけど、とにかくうたえたことがうれしかった」と振り返る。

 「父の分もうたいたい」。今年4月に正治さんが亡くなり、心の中にそんな思いが芽生えた。現在は、抗がん剤を変えたことで、髪の毛は生え、倦怠感も生活に支障がないほどになった。体調は万全とは言えないものの、医師からも応援されているという。

 自宅前では1日夕、地元の地方(じかた)衆や踊り手が集まり、追悼おわらが行われた。同じく歌い手の兄、和茂さん(46)に続いて、目を潤ませながらできる限りの力で声を響かせた。「父にはもっとうまくうたえと言われそう」と照れくさそうに笑う桐谷さん。「来年も再来年もずっとうたい続けたい」。笑顔で話す目は常に前を向いている。(八尾・婦中支局長 正橋悠)

北日本新聞社

最終更新:9/3(土) 10:52

北日本新聞