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【2020年五輪へ、新・東京物語】「500億円海に捨てるようなもの」海の森水上競技場、問題山積み

スポーツ報知 9月4日(日)15時1分配信

 2020年東京五輪・パラリンピックを前に、東京都の小池百合子知事(64)は膨張する五輪運営費の見直しに着手し、今月中旬をメドに中間報告をまとめる。競技者や関係者から最も批判の声が大きいのが、都が新規恒久施設として整備する海の森水上競技場(東京・江東区青海)=カヌー・ボートで使用=だ。競技の“天敵”となる強い風、波、騒音問題がある。事業費は当初の7倍の約491億円にも膨れ上がっている。アクセスも全競技施設の中で最悪とされ、五輪後の運営にも課題がある。

 築地市場の移転延期を表明したばかりの小池都知事は1日、海の森水上競技場など4施設を視察した。「サステイナブル(持続可能性)がキーワードになる」と述べ、各施設の個別の評価については言及を避けたが、整備費用などの妥当性を検討する考えを示した。 「お金をドブに捨てるようなものと言いますが、500億円を“海”に捨てるようなもの。素人がこの場所を選んだのでしょう」。選手、観客に使い勝手が悪いとされる海の森水上競技場について、ボート競技関係者はこう嘆く。8月23日午後、海の森水上競技場の周辺にある風力発電用の風車2基が勢いよく回っていた。羽田空港を目指した航空機が轟音(ごうおん)を立て、5分に1回のペースで上空を通り過ぎていく。騒音は80デシベル以上(走行中の電車内と同レベル)。周辺の道路では大型トラックが猛スピードでひっきりなしに行き来する。

 海の森では馬術も行われ、クロスカントリーコースが仮設で建設される。馬は音に敏感で競技への影響も懸念される。通常、沼や川で行われるカヌー・ボートだが、現場では沿岸部独特の強風が吹き、ゴミや砂ぼこりが舞い上がっていた。競技関係者によると、海上での五輪競技開催は「史上初」という。

 スポーツ施設の整備で課題となるアクセスは、新交通ゆりかもめ「テレコムセンター駅」から約3・5キロ、りんかい線「東京テレポート駅」から約4・5キロ。利用には自家用車かバスでの移動が必要となる。周辺の区立若洲海浜公園もJR新木場駅からバスか自家用車での移動となるが、平日は閑散とし、休日さえも490台の駐車場が満車になることはほとんどない。

 500ヘクタールと広大な海の森は東京湾に浮かぶ、ごみと建設発生土で埋め立てられた中央防波堤内側埋立地の総称。高さ30メートルのごみの山に苗木を植えて森にする計画で2005年から都港湾局が始めた。どの区にも属さず、江東区と大田区が帰属を主張して互いに譲らず、協議も平行線のままだ。海の森プロジェクトの賛同者には建築家の安藤忠雄氏、石原慎太郎元都知事、高島直樹都議、江東区の山崎孝明区長、大田区の松原忠義区長、アルピニストの野口健さんらが名を連ねる。

 2016年に招致を目指した際の立候補ファイルから海の森が盛り込まれていた。選手村から半径8キロに施設を盛り込むコンパクト五輪を掲げていたが、その後、ずさんな見積もりで整備費や運営費が膨張。海の森の整備費は招致時の69億円から1038億円となり、見直し後に491億円となったが、当初の7倍となった。運営費は3兆円とも言われ、大会組織委員会や都は首都圏に会場を分散させたが、競技団体が海の森の使用に難色を示しているにもかかわらず、見直しの対象とはならなかった。都関係者は「あの場所の開発ありきで進んだ話。政治的に決着している場所、と聞いている」と明かす。

 五輪後にも不安を残す。都は観客席約2000席を設け、大規模な護岸工事を行い、波を防止する消波装置も設置する。海水で建物の腐食が進むことから維持管理費はかさむ。競技団体は環境の悪さからこの場所に拠点を移す意向はなく、国際大会を誘致できる保証もない。都は運営を民間委託したが、決まったのは国営公園の管理を行う一般財団法人「公園財団」。集客のノウハウもない中、都は来場者を年間35万人と試算する。スポーツ施設の運営管理に詳しい関係者は「アクセスが悪く、使用団体もなく、イベントもない。負の遺産になることは明白」と指摘する。

 問題山積みの海の森水上競技場には政治家同士の思惑も絡む。都関係者は「この場所を見直すことができれば、五輪運営費の削減に向け道は開けるだろう」と語る。代替地への変更を含め、分岐点を迎えている。

 ◆埼玉県戸田市は代替地に彩湖を提案

 海の森に代わる代替地はあるのか。

 埼玉県戸田市は彩湖での開催を提案している。高規格の堤防に囲まれ、自然環境の影響を受けにくいとしている。敷地内にはプロ野球ヤクルトの2軍練習施設やサッカー場などがあり、アクセスも選手村から約20キロの距離にある。市は舛添要一前知事時代の2014年9月に都などに要望したが「大会組織委員会、日本ボート協会で海の森で合意している」との回答のみで彩湖を含め岩手県、宮城県などの代替地を検討したかどうかを明らかにしなかった。

 彩湖の周辺には、1964年東京五輪のボート会場となった戸田ボートコース(戸田漕艇場)がある。戸田ボートコース監督会(大学など約30団体)などは、彩湖を整備した場合は約47億円と試算し、海の森の10分の1以下の整備費用で開催が可能とした。日大OBで埼玉県ボート協会理事長の和田卓さんらは実際に海の森を視察。代表選手がボートに乗ってみたが、競技できなかったという。和田さんは「いろいろ手を尽くしてみたが、動かなかった。競技について理解もないまま、海の森に決めてしまったが、小池知事がこの現状をどう受け止めるかです」と語った。

 ◆都の施設課題 

 東京都は海の森などを含め五輪施設を2240億円で整備する。アクアティクスセンターは辰巳の森国際水泳場と約100メートルの至近距離に建設。アクセスが悪く、集客できるか不透明だ。用途は異なるが都立夢の島公園、江東区の有明スポーツセンターと合わせ臨海部にプールが4施設もできる。バレーボール会場となる有明アリーナは五輪後、東京ドームなどが運営する。周辺には有明コロシアムがあり、周辺道路の整備などが課題となる。組織委は仮設施設を約2800億円としているが、警備費用や各自治体への負担額などの積算は固まっていない。不足分は政府や都が負担する可能性がある。

最終更新:9月4日(日)15時1分

スポーツ報知