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【木村草太の憲法の新手】(39) 「貧困」でなかったとしても…進路閉ざされる若者に手助け必要

沖縄タイムス 9/4(日) 10:15配信

 8月18日、NHKは、神奈川県主催の「高校生と教員のための『子どもの貧困』」イベントについての報道で、ある女子高校生を紹介した。彼女は、デザイン系の仕事に就くことを希望しているが、経済的事情のため進学を断念せざるを得なかったという。

 この報道に対し、テレビに映った部屋の様子や、本人のツイッターなどから、彼女は「貧困」ではないとの批判が集中した。これに対しては、有識者から、「相対的貧困は見えにくい」などの反論があり、今も、彼女が「貧困」だったのか、あるいは、どこまで行くと「貧困」なのか、が議論されている。

 もちろん、国の政策目標として格差是正や相対的貧困率の低下を掲げることは重要だ。過度な格差は、国の将来の成長を妨げる。どこからが是正すべき「格差」なのかを見極める必要もあろう。

 しかし、個々の子どもに目を向け、教育を受ける権利、成長する権利といった「子どもの人権」を実現しようとするなら、「貧困」を手掛かりにした議論はやめるべきではないだろうか。仮に彼女が「貧困」ではなかったとしても、若者が希望の進路を閉ざされ、困っているのであれば、理由はどうあれ、それを解決する手助けをするべきだ。

 一般に、希望の進路が閉ざされる原因は、世帯収入の低さだけではない。世帯収入が高くても、親が浪費すれば、学資が足らなくなる。虐待等により、そもそも勉強できない環境にいる子どももいる。「女に学問は必要ない」といった価値観から、進学を妨害する親もいる。さらには、家庭に明確な問題がなくとも、キャリア形成についての知識が少なければ、進路選択は貧しくなる。では、どのように解決していくのか。

 まず、世帯収入が原因であれば、給付型奨学金や生活保護の拡充が必要だ。現在の生活保護基準・運用では、昼間部の大学等に通う者は、生活保護を受給できない。進学状況が将来の収入に大きな影響を与えることを考えれば、こうした基準・運用を見直すべきだろう。

 また、国公立大学を中心に、授業料減免制度も整えられている。番組で紹介された彼女は、「デザイン系」の進学希望とのことだが、東京藝術大学(国立)や首都大学東京(都立)などには、デザインに関わる学部もある。入試をパスすれば、進学費用自体は、何とかなるだろう。

 次に、虐待や親の価値観が進路を妨げる原因なのであれば、親に代わって子どもの利益を守る人が必要だ。子どもの保護は、第一次的には親の責任だが、それが機能しない時には、国や自治体が子どもの成長を支えなければならない。SOSを発した子どもに安全な場所を提供したり、子どもの代理人として親と交渉したりする制度を整える必要がある。また、キャリア教育の拡充など、視野を広げる手助けをする大人も身近に必要だろう。

 子どもの貧困対策の先進市、明石市の泉房穂市長は、湯浅誠氏のインタビューに答えて、必要なのは、「子どもの貧困対策」ではなく、「すべての子ども」を対象にした施策だと言う(ヤフー個人)。 一人一人の個性を尊重した、「子どもの権利」を実現していかねばならない。(首都大学東京教授、憲法学者)=第1、第3日曜日に掲載します。

木村 草太

最終更新:9/4(日) 10:30

沖縄タイムス