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泥臭いで一致?パナソニック、村田製作所、三井不動産の新規事業開発

アスキー 9月5日(月)7時0分配信

8月26日に行なわれたIoT&ハードウェアビジネスの祭典「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」の4本目セッションは、協業型ものづくりを語るパネルディスカッション。イノベーションを目指すパナソニック、村田製作所、三井不動産の三者が新規事業を生み出す苦労やそこで生まれたメリット、体験を語った。
8月26日に行なわれたIoT&ハードウェアビジネスの祭典「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」の4本目セッションは、協業型ものづくりを語るパネルディスカッション。イノベーションを目指すパナソニック、村田製作所、三井不動産の三者が新規事業を生み出す苦労やそこで生まれたメリット、体験を語った。
 

登壇者は新規事業とこう関わっている
 「日本企業だからできる製造大手が進めるイノベーション新手法」と題したセッションは、パナソニックの中村雄志氏と村田製作所の牛尾隆一氏が自社の協業事例を披露し、モデレーターのASCII STARTUPガチ鈴木と数多くのオープンイノベーションを手がける三井不動産の光村圭一郎氏が、事例について分析するという形で展開。パネルディスカッションは、自己紹介と会社での立ち位置の説明からスタートした。
 
 パナソニックの中村氏は、B2B向けの車載・産業デバイスを製造・販売を展開するオートモーティブ&システムズ社にあるメカトロニクス事業部で新規事業開発を担当している。「新規事業というと社長直轄というところも多いが、私は現場に一番近いところで新規事業開発をやっている」と中村氏は語る。
 
 村田製作所の牛尾氏は今年の1月に設立された新規事業推進部に所属し、外部とのコラボレーションを手がけている。オープンイノベーションを目的にしているわけではなく、あくまで新規事業を作り出すためにオープンイノベーションを手法として選んでいるという。
 
 中村氏、牛尾氏のようなメーカーと異なり、三井不動産の光村氏は同社の新規事業を担当すると共に、イノベーションや新規事業が生まれやすい仕組みを街に持ち込むかが大きなテーマだという。そのため、三井不動産が手がける新規事業のフレームを他のテナントなどに横展開していくという役割も持っているとのことだ。
 
個人の思いから事業部発で新規事業を生みだしたパナソニック
 次に実際の新規事業の具体的な事例を披露した。中村氏が手がけたのは、家中の家電などをボタン1つでオンオフできる「eny」というIoTサービス。博報堂グループのスタートアップであるQUANTUM(クアンタム)と協業でコンセプトを錬ったというプロジェクトだが、きっかけは「綿密な計画を立てて進めたわけではなく、プライベートで私がハッカソンに出た時に、彼らが審査員とメンターだった。彼らの魅力に引かれ、意気投合した」(中村氏)ということでスタートした。
 
 当時、経営企画室にいた中村氏の中には「サービスやソリューションに近い新規事業をデバイスメーカーがやるのは無理だと思った」という思いがあった。こうした背景からまずは個人でフレームを作り、技術が強いパナソニックと、クリエイティブやコンセプトメイキングが強いQUANTUMとの協業がスタートしたという。その後、新規事業部門に移り、上司の承認と予算、開発期間を得た中村氏は、QUANTUMとともにenyのコンセプト作りから始め、事業部の巻き込み、動画の制作、プロトタイプの立ち上げ、そして米国のスタートアップイベントである「SXSW」に出展するところまで約半年でこぎつけた。
 
 中村氏によると、ポイントは2つ。1つは小さく始めたこと。「こうした組み方は初めてだったので事業部もアレルギーがあったが、スモールスタートしたことで、段階的に理解が得られるようになった」と中村氏は語る。もう1つは、コーポレートのR&Dやスタートアップ支援とは別に、事業部で新規事業プロジェクトが立ち上げられたこと。「ハードルは高いけど、事業開発と組織変革をセットでやらないと、結局イベントで終わってしまうし、中村がいなくったら続かなくなる」と語る。
 
 話を聞いたガチ鈴木は、「途中から会社や事業部を巻き込んだ。大手メーカーでそういうことはできるのか?」と質問すると、中村氏は「泥臭いけど、コンセプトの資料を持っていろいろなところに話に行った。あとは実際に会う場を設けて、短時間で意気投合できる演出はした」と語る。また、コーポレートで展開している「Wonder Lab Osaka」を使い、enyのコンセプトを他の事業部にも見せていった。
 
NDA締結に1年!大手メーカーと新価値創造を進める村田製作所
 続いて牛尾氏の事例に移ったが、現時点で新規事業として外に公開できるものはないという。その上で、牛尾氏は「最近、オープンイノベーションってバズっているじゃないですか。でも、オープンイノベーションの捉え方をきちんと説明しないと、最後に食い違うのではないか」と語り、社内でオープンイノベーションをどう伝えているかを説明した。
 
 新規事業を生み出すオープンイノベーションは、従来の概念とやや違うと牛尾氏は指摘する。従来のオープンイノベーションは課題解決型で、研究開発の効率化や事業化スピードアップに足りないピースを埋めるためにM&A、ライセンシング、業務委託など外部のリソースを使う手法を指すという。もう1つは新規価値創造型のオープンイノベーションは、社内では生まれない新しい価値を創造するため、いろんな人たちを巻き込んでコンセプトメイキングや事業開発するというもの。「足かけ5年くらいかけてやっているのは、後者の新規創造型の方。相手先は日本の大手企業がほとんどで、包括NDAを結んで、ブレインストーミングからやっている」という。
 
 しかし、4年前に10社と進めたプロジェクトだが、うまく行けば来年に商品化できるかもというものが1つだけ。そのため、「やり方としてよいのか、確信がない」と語る牛尾氏だが、このプロジェクトがなければ生み出せない製品であり、かつ世界初でいける可能性もあるという。
 
 こうした新規事業の苗床として、村田製作所は昨年5月に「オープンイノベーションセンター」を設立したが、「よく言われるけど、全然オープンじゃない。どうググっても出てこない」という。しかし、これには意図があり、「オープンイノベーションやります」が先行すると、見学対応などに時間が割かれてしまうのが目に見えていたからだという。「私が呼びたい企業だけ呼んで、週1回くらいでプロジェクトをやっている。単にディスカッションをしてもしょうがないので、リアルなプロトライピングをやってみたり、うちのセンサーの実物を使っている」(牛尾氏)。
 
 ガチ鈴木は、「大手同士のオープンイノベーションで気をつけなければならないことはなにかあるか?」と質問を投げると、牛尾氏は「たくさんありますね」と即答。牛尾氏が、「お互い腹を割って話したいけど、NDAを結んだんですけど、それってやることが決まってないのにNDAを結ぶということ。でも、普通の法務の人からいったら、そんなの考えられない。だから、NDAの締結に1年かかった会社もありました。やりましょうと話して、契約書が仕上がったのが1年後です」と実話を披露すると、横にいた中村氏も大きくうなずく。「一方で、1回進むと前例ができるので、次はやりやすくなるというのも気づき。2件目からは1週間でできました」と牛尾氏が語ると、会場は笑いに包まれる。
 
既存の事業を邪魔しにくいリプレイス型を進めた三井不動産
 続いてコメントした三井不動産の光村氏は、「5種類のイノベーションと『顧客の3階層』との相関関係」という図版を元に、定義がぶれがちな新規事業のキャリブレーションからスタートする。
 
 光村氏は「レッドオーシャンに関わることはすべて新規事業というわけではない」と述べ、新規事業を①商品ラインナップを拡充する「シェア拡大型」、②既存事業のやり方を変える「リプレイス型」、③グローバル展開などを軸にした「市場横展開型」、④ベンチャーへのM&Aなどを仕掛ける「オープンイノベーション型」、⑤マーケットが価値に気づいてないという「ブルーオーシャン型」などに分類した。①と②は既存の事業の延長なので手を付けやすく、効果も得られやすいので「サラリーマン的な評価も得やすい」(光村氏)というもの。光村氏は、②にあたるリプレイス型の新規事業として、三井不動産が出資したリビングスタイルという会社の事例を披露した。
 
 リビングスタイルは60万点くらいの家具のデータを持っているVRベンチャーで、VR上でマンションの間取りに仮想の家具を設置できるサービスを展開している。これだけだと単に顧客満足度の向上だけだが、実際はここから家具の販売につなげていきたいという。「引っ越しの際は家具の販売も多いけど、今まではマンション販売のオプションとしてご提案するだけにとどまっていた。それをマンション選び・部屋選びのタイミングから入っていって、売り上げにつなげていく」(光村氏)というのが目的だ。
 
 ガチ鈴木が光村さんに得意領域を聞くと、「野心的には左側(ブルーオーシャン型)がやりたいんですけど、会社の中でもわかりやすさや既存の事業が反対しないという意味では右側(シェア拡大型、リプレイス型など)に寄ってくる」と語る。不動産業界では従来型の持続的イノベーションですら滞っているところもあるが、やり方を再考するだけでもさまざまな事業が掘り起こせるという。一方、ブルーオーシャン型の方は圧倒的にスタートアップの方が進んでおり、マネタイズの実験をどんどん進めているというのが光村さんの実感。こういう事業は、スピードの遅い大手が自ら仕掛けるより、スタートアップと組んでいった方がよいという。
 
イノベーションにオープンは必要か? ベンチャーと組むのが望ましいのか?
 残り15分というところで、クロストークのネタとしてガチ鈴木が出したのは「イノベーションにオープンは必要なのか?また、組むならベンチャーが望ましいのか?」というお題だ。
 
 牛尾氏は、「オープンが必要かというと、それでもない。いろんなやり方がある中で、必要な方法を選択すればいい。ただ、間違いなく、1つの企業、限られた人材で新しいモノを生み出すのは限界なので、多様性という意味ではオープン性は必須ですね」と語る。では、外の人になにを求めるのか?「イノベーションって『ひょんなこと』から生まれるじゃないですか。だから、『ひょんなこと』を起こそうと思うと、思いもかけないことをいう人が必要になる。その期待感ですね」(牛尾氏)。
 
 実際、業務時間外のハッカソンから新規事業がスタートした中村氏は、まさに「ひょんなこと」が起きたという事例。中村氏は、「オープンかはわからないけど、強みを持ち寄るのは絶対必要。もしくはまったく事業領域の異なる人と話すことに慣れることは大事だと思います」と語る。また、組織改革へのインパクトを考えると、モノカルチャーの大企業の人が、ベンチャーと話すことは特に重要だと感じているという。
 
 光村氏は強みを持ち寄るという意味ではオープン性は必要だが、ベンチャーと組めばよいかはケースバイケース。持続型イノベーションであれば、規模の経済も働くので、大手同士のタイアップでもいいという。とはいえ、「ベンチャーと組むと魔法のようにスピードが上がると思いこんでしまう人もいるが、(ベンチャーと自社では)人でのかけ方、リスクの取り方、時間の置き方などが違うということを理解できるマネージャーがいなければ、大手が出て行っても、かえってベンチャーに迷惑だと思う」と指摘する。
 
 マネージャという観点では、中村氏は「上のマネジメントが全員理解してくれていたのでラッキーだった」という。とはいえ、リスクとリソースの分配をきちんと理解できるマネジメントは少ないし、シェア拡大で事業を成長させてきた事業部に理解してもらうのはそれなりの苦労は必要だという。
 
 牛尾氏の新規開発事業部は人が増え続けており、現在はすでに50名を超えているという。「もっと事業になるモノを探して来いよということで、1年の期限付きで開発テーマを探すため、新規開発事業部に送り込まれる人材もちょくちょくいます」と牛尾氏は語る。こういう人こそ、オープンイノベーションの取り組みで、外に連れ出した方がよいという。
 
 最後3氏はまとめとして、「方針を決めきって、泥臭いことをコツコツやるしかない」(中村氏)、「40分は短かったので、上の階で話しましょう(笑)」(牛尾氏)、「地味なことが多いので、新手法というほど立派なモノはない。あと、体系的に理解することは重要」(光村氏)と語り、セッションを締めた。大手2社の製造業の新規事業開発に加え、アクセラレーターの立場の三井不動産が入ることで話が膨らんだセッション。IoTのようなプロジェクトで苦しんでいる人には、けっこう参考になる話だったのではないかと思われる。
 
 
文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

最終更新:9月15日(木)10時7分

アスキー

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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