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マツダ・アクセラはマイナーチェンジじゃない

ITmedia ビジネスオンライン 9月5日(月)7時5分配信

 少し前まで、クルマは4年ごとにフルモデルチェンジを行い、その間の2年経過時にマイナーチェンジを行うのがお約束だった。最近ではモデルチェンジのサイクルは長くなりつつあり、少しずつ事情が変わりつつある。

【エンジンの制御でシャシーの能力を向上させる新しい試み】

 4年に1度のモデルチェンジという慣習ができたのは、1970年代で、恐らく技術進歩のペースとクルマの旧態化の関係がそのくらいでちょうど良かったのだろう。

 その慣習はやがてビジネスとして固定されていく。世の中の人は「同じお金を使うならより新しいものを」と思う。300万円のクルマが目の前に2台あったとしたら「2年前にデビューしたA社のクルマより、出たばかりのB社のクルマ」がお得に見える。新しいものが圧倒的に良いという常識があればそういう判断になる。

●新車効果時代の終焉

 ことはクルマに限らないが、新製品はそういう勢いに乗って売れる。クルマの場合、これをことさらに「新車効果」と名付けて、定期的に新車効果のテコ入れを行うことが当たり前になった。これがマイナーチェンジである。

 それがだんだん慣習化していくと、マイナーチェンジは新車効果を期待するメーカーの都合の色が濃くなっていく。新車効果を高めるためには、できるだけ変わったように見せるデザイン変更や、「ここが変わった」と話題にしやすい新機構が必要である。下手をすると、そういうマイナーチェンジの目玉は、新車のときから後出し用にキープしてあったりするのだ。

 そういうマイナーチェンジモデルに試乗してみると、「あれ?」と思うこともある。分かる人同士の間では「あれはマイナー前のヤツの方がお勧めだ」というケースもあるのだ。と書くと、メディアはそういうことを書かずに隠しているとか、ありがちな陰謀論をふっかけられるかもしれないが、そういうことではない。

 一例としてマツダのケースを挙げておく。前回のアテンザのマイナーチェンジのとき、マツダはダンパーの初期動作を柔らかくして、シートも面圧の分散を図った。それはエンジニアが上質な乗り心地を目指してやったことだ。少なくともメーカーには意図した狙いがあって、意図通りの製品になっていた。だが、それが万人に良いかどうかは別の問題だ。

 もちろん「良くなった」と評価する人もいる。しかし、当時原稿にも書いたのだが、確かに乗り心地は改善しているが、その分タイヤ踏面で何が起きているかを感じるインフォメーションは伝わりにくくなっていたのだ。これは要素のトレードオフである。筆者の身の回りには乗り心地よりも情報量の豊かさを求める人が多い。だから「お前が買うならマイナー前のヤツ」という話になるのだ。

 長い余談だったが、要するに、もう一律に新しいものが古いものより良い時代ではない。何を重視するかによっては得たものより失ったものの方が大きい場合もあるし、ひどい場合は角を矯めて牛を殺すケースもある。そういう時代にマイナーチェンジをどう考えていくかはとても重要だ。

●もうマイナーチェンジとは言いません

 そういう時代を背景に、マツダは、新車効果を狙ってマイナーチェンジすることを止めると言うのだ。マイナーチェンジは目先のイメージ刷新と、意味のある改良がボーダレスに混じり合い、目的が不明瞭だった。「そういうのはメーカーの商売の都合であってお客さま中心ではないから」とマツダははっきり言った。これからは本当に意味のある、あるいは必要なアップデートを順次施し、ついては、概念が違うからマイナーチェンジとは言わず「商品改良」と呼ぶことにした。

 コンピューターの場合もちょうど同じことが起きていて、マイクロソフトはOS「Windows10」を最後のメジャーアップデートだとアナウンスして、以後は必要なセキュリティと機能のアップデートを順次施していくことになるのだと言う。もう新しくなったから買い換えてくれという訴求をしないということである。

 さて、では商品改良とは具体的には何が行われるのだろうか? 現在のマツダ第6世代商品群は、マツダが長い時間をかけて構築してきたSKYACTIV技術が一通り全方位に採用された最初の世代だ。マツダの商品改良とは、そのSKYACTIV本体が機能的にアップデートされていくことである。原則としてSKYACTIVのアップデートが、然るべきタイミングで製品である個別のクルマに反映されていくということになる。

●SKYACTIVのアップデート

 さて、そのアップデート版のSKYACTIVが6.1なのか6.2なのか、その数え方は良く分からないけれど、ここしばらくで改善された要点は以下の通りだ。

1.運転環境の最適化

 まずはシートを基準にペダル配置とステアリングという主要操作系の位置を最適化した。同時にメーターやナビ、インパネのスイッチなどの視認性を論理的にゾーニングし、機能優先に基づいて、デザインの押し出しすぎを改めた。細かいところだが、表示文字のフォントが統一されたこともこの視認性向上の一環である。

2.リニアリティの向上

 エンジンやトランスミッションなどのパワートレイン系全体について低速域中心にリニアリティを向上させた。これは出力特性だけでなく、音質の特性についても留意され、仮にタコメーターがなくてもエンジンの運転状態が耳で分かるような音作りを意図的に行っている。

3.予防安全能力の向上

 マツダが「マツダ・プロアクティブ・セーフティ」と呼ぶ安全支援機能の向上。いわゆるぶつからないブレーキや死角モニタリング、ヘッドアップディスプレイのカラー化やアダプティブヘッドランプなどの採用だ。

 これらは、第6世代の全モデルに順次装備されていくはずである。

 さて、今回アクセラの商品改良のポイントは、1.5リッター。ディーゼルユニットの搭載だろう。アクセラXDのデビュー当時、まだマツダの手持ちのディーゼル・ユニットは2.2リッターしかなかった。アクセラにはオーバーサイズであることを承知で2.2を搭載してデビューしたが、デミオの発売と共に出た1.5リッターユニットが選べるようになり、よりサイズに適したディーゼルユニットを手に入れた。

●Gベクタリングコントロールの新しいステップ

 もう1つの重大なポイントはGベクタリングコントロールの採用だ。このGベクタリングコントロールが面白いのは、パワートレインの制御によってシャシー性能を向上させるという考え方で、クルマの運動性能を全体最適化する新しいビジョン「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS(スカイアクティブ・ビークル・ダイナミクス)」の一部である。

 ここからはちょっとだけ物理の講義である。4輪車は基礎的な物理特性として、前輪が応答性、後輪が安定性に寄与する。どちらのタイヤが優勢な状態に置かれているかによって、曲がりやすくなったり、真っすぐ走りやすくなったりするのである。だから、場面場面で必要な方を優勢にしてやれば、ハンドリングはあらゆる面で向上するはずである。では、どうやって前優勢にしたり後優勢にしたりするのかと言えば、タイヤの能力は垂直荷重に概ね比例するという特徴を生かしてやれば良い。

 唐突だが、セグウェイを思い浮かべて欲しい。あれはエンジニアリング的には倒立振り子というのだが、前へ倒れそうになれば、前進し、後へ倒れそうになればバックする。走行中の自動車の場合、バックはしないが、同じ考え方で前後輪への荷重のかかり具合はコントロールできる。Gベクタリングコントロールでは5/100秒で燃料噴射を制御して加減速Gで前後輪への荷重の掛け方を変えてやる仕組みだ。制御は加速方向では行わず、ドライバーのアクセル踏み込みに対して引き算制御のみで行う。

 想像力のある人なら、クルマが勝手に減速するのは嫌な感じにならないかと考えるはずである。しかしこの減速、ドライバーにはまったく分からない。それもそのはず、減速Gは0.005Gという聞いたこともない微細なものなのだ。

 そう言われても基準がよく分からないだろうが、助手席の人を気遣って慎重にかけるブレーキが0.1から0.2Gくらい。0.005Gは専門のテストドライバーでも分からないだろう。電子デバイスでビークルダイナミクスをコントロールするというと楽しみを奪われる気持ちになる人がいるのは想像が付くが、このGベクタリングコントロールはものすごく地味で、存在に気付くことすら難しい。だからまるでシャシーの出来が良くなっているようにしか感じない。

 さて、これでタイヤに掛かる実荷重がどの程度変わるのかを計算してみよう。アクセラの1.5リッターガソリンモデルは車両重量1280キロ。前後軸重が分からないので仮に均等だとして、タイヤ1輪あたりは車重の4分の1で320キロになる。320キロの0.005G(0.5%)は1.6キロになる。

 たったそれだけの荷重を足し引きするだけでハンドリングが変わるとはにわかには信じがたい。荷重とグリップの関係が理屈では分かっているつもりの筆者も、実際に体験してみて驚いた。本当にハンドリングが変わる。特に高速道路での直進安定性の向上はちょっと笑ってしまうほどで、レーンキーピングアシスト(自動ハンドル)なんていらないと思うほどだった。これがアクセラにはほぼ全車に装備される。例外は制御システムが違うハイブリッドのみである。

 Gベクタリングコントロールは、車両に元々備わっているセンサ-、コントロールユニット、アクチュエーターを統合して制御するプログラムなので、一台ごとの追加コストはほぼないに等しい。ということは、今後CX-5や、アテンザ、デミオにも全車標準で搭載されていくことはほぼ間違いない。それはすごいことになる。あるいはロードスターにも搭載するのではないか? ファンtoドライブを全く邪魔しないデバイスなのでロードスターのようなクルマについてもおかしくない。

 今回の原稿はマツダの新しい商品改良とは何かがテーマだった。だが、最後にちょっとクルマのことも書こう。試乗してみて、アクセラは相当な実力だと思う。ちなみに本当に中身だけを見る人にはガソリンモデルがお勧めである。ディーゼルとの車両重量差が80キロ。そのほとんどがエンジンだから、鼻先の軽快さは全然違う。すっきりとまとまった良いクルマだ。

 ただし、役物感が何もないと買えないという人もいるだろう。そういう人には1.5のディーゼルが妥当だと思う。静かで十分に速く、燃費も良い。「今回はディーゼルにしたんですか? どうですか?」とも聞いてもらえる。ハンドリングでガソリンモデルに譲るとは言っても、それは比較の話であって、こちらも優秀な部類だ。ではディーゼルの2.2リッターはと言えば、これはエンジンを楽しむクルマだと思う。マツダの2,2ディーゼルは回り方がとても気持ち良い。それは1.5にはない味である。一長一短。全部に都合の良いクルマはない。当たり前の話である。

(池田直渡)

最終更新:9月5日(月)7時5分

ITmedia ビジネスオンライン

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