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インドネシアで日本の電子コミックは普及するのか

ITmedia ビジネスオンライン 9/5(月) 7:09配信

 「クールジャパン」と言われ、アニメや漫画といった日本文化のソフト領域が国際的に評価され始めたのは5~6年前の話だ。日本政府も対外文化宣伝・輸出政策として現在も積極的に展開している。このクールジャパンに一歩踏み込んだ展開をしている会社がある。電子書籍の販売サイト「eBookJapan」を運営しているイーブックイニシアティブジャパン(以下eBookJapan)だ。

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 「日本の漫画は海外から高い評価を受けているが、市場としてはイマイチ」。そんなイメージもあるが、日本の電子コミックは海外でも通用するのか、eBookJapanの担当者に話を聞いた。

●インドネシアに目をつける

 経済産業省が発表した「平成26年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業」によると、海外の日本由来コンテンツ売上は年間138億米ドル。内訳をみると、ゲームが全体の80%を占め、次いで漫画が11%となっている。エリア別では欧州が38%、アジアが37%、北米が23%と、欧州に続きアジア市場が重要な輸出国となっているのが分かる。そのアジア市場でeBookJapanは、電子コミックを普及させようとしている。

 日本国内であれば、スマートフォンやタブレット端末を使って、通勤通学の電車の中で漫画を楽しむ姿をよく見かけるようになった。場所を問わず購入と閲覧ができる手軽さもあって、ここ数年で一般化したサービスだ。果たして海外、特に途上国の多いアジア圏でも通用するのだろうか。

 「アジアの漫画市場は10~20年前にある程度でき上がっていて、今ではクオリティーの高い“国産漫画”が誕生しています。クールジャパンとして日本が海外に進出したのは『遅いくらい』と言えるかもしれません」と語るのは、eBookJapanの海外事業部プロデューサー・篠原義英氏だ。

 「アジア市場で大きいのは、中国、韓国、台湾を想像されるかもしれません。ただ、最も市場が大きい中国では、無数の海賊版が流通しています。そうした市場で進出するには、莫大な予算と労力が必要」(篠原氏)だという。そこでeBookJapanが目をつけたのは、インドネシアだった。

●作品を購入するユーザーはまだ少ない

 ジャカルタが首都のインドネシアは、主要な5島と中規模な群島を含めた1万7000以上の島々から成り立つ。2014年10月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた調査レポート「インドネシア経済の現状と今後の展望」によると、経済はここ10年間、概ね5~6%の成長率を維持しており、他の主要な新興国に比べると安定感があるという。景気堅調の原動力は個人消費の底堅さ、世界第4位の人口(2億3000万人を超える)を背景とする消費市場の潜在力で、日本企業の関心も近年高まっているという。

 そのインドネシアでeBookJapanは「MangaMon」というオンラインサービスを展開している。現地スタッフを中心に運営するMangaMonは、日本の漫画コンテンツはもちろん、インドネシア発の漫画コンテンツを取り扱うほか、マンガ、アニメ、コスプレといった文化の記事も配信している。

 月間のUU(ユニークユーザー:集計期間内にサイトに訪問したユーザー数)は30万で、漫画は1冊1万5000ルピア(約117円)で販売。決済に手間がかかる環境のためデポジット(あらかじめポイントを購入しておいて、それを使って購入)方式で提供している。

 実はインドネシアでは電子決済が日本ほど普及していない。「電子決済が怖い」「オンライン詐欺にあうかもしれない」といった不安の声があるからだ。ネットスキルの低さがそのような認識につながっているのかと思いきや、「日本でも昔は、『電子決算は怖い』という人が多かったですよね。10年、20年前の日本と同じような道をインドネシアでも歩んでいるのではないでしょうか」と分析している。

 そのような事情があるので、実際に同サイトから作品を購入するユーザーはまだ少ない。「現状は漫画の閲覧よりも記事のほうがよく利用されています。でも、それでいい」(篠原氏)という。どういう意味なのか。「今は、漫画を身近な文化にすることが大事。日本のように電子決済で漫画を購入する文化を根付かせるために……今は種を撒(ま)いている段階」と篠原氏は話す。

●アメコミテイストのギャグマンガが人気

 IMF(国際通貨基金)によると、2013年のインドネシアのGDPは8703億ドルであり、世界第16位である。一方、2011年にアジア開発銀行が公表した資料によると、1日2ドル未満で暮らす貧困層は1億1743万人と推定されており、国民のおよそ半数を占めているのが現状だ。

 「MangaMonをよく利用しているのは、富裕層の子どもが中心。具体的には、中小企業の社長、官僚、大企業で管理職――そうしたところで働く親の子どもたちですね。彼らは日本の生活レベルとほぼ同じ」。ただ、今後も経済成長が続く可能性が高いインドネシアであれば、いずれは貧富の差も縮まり、インターネットや漫画を楽しむ一般層も増えてくるであろう。

 また、現状のインドネシアは携帯電話の通信環境に問題があるという。電波状況が悪く、基本的に従量課金制で「サイト閲覧=パケット消費=課金」という環境なので、日本のようにストレスフリーに、どこでもみんなが使えるというわけではない。

 MangaMonを通じてインドネシアの漫画ファン、アニメファン、コスプレーヤーの交流も生まれ、「日本の作品のような漫画を描きたい」という現地クリエーターも誕生している。そしてインドネシアのクリエーターによる作品も徐々に誕生し、MangaMonでの配信も始まっている。「インドネシアでは、アメコミテイストのギャグマンガが人気で、アメコミと日本のマンガを合わせたみたいな画風の人が多いですね」という。

●インドネシアの人が電子書籍を読む日

 クールジャパンで日本は何を輸出するのか。この質問に対して、多くの人は「既存の日本文化」を挙げるだろう。特に、マンガやアニメというコンテンツは「日本製が強い」と思い込んでいる人も目立つ。しかし、篠原氏の話を聞く限り、必ずしもそうではないようだ。

 日本のサブカルチャー文化は浸透していて、既に優位ではない。ということは、これからサブカルチャー文化を輸出することは遅いのだろうか。「いや、そんなことはないと思う」と篠原氏は否定する。「『数十年後、インドネシア経済は日本を抜く』と言われています。だから、いま私たちが手掛けている事情は、必ずしも手遅れだとは思いません」。漫画というコンテンツでは参入は遅かったのかもしれないが、電子書籍化した漫画の配信サービス、そして電子書籍を利用するユーザーの育成という点では、決して遅くないということなのだ。

 篠原氏の発言を聞いて、このような疑問を感じる人がいるかもしれない。「数十年後、インドネシア経済は日本を抜くらしいけれど、それまでこのビジネスを続けるの?」と。現状、購入者が少ない中で、eBookJapanがどこまでこのビジネスを続けるのかは分からない。ただ、このまま何も手を打たなければ、今後も経済発展が見込まれるジャカルタ市場で、競合他社が参入する可能性が高い。グローバルに名前が知れ渡っている企業が参入したあとに、「日本の漫画はいかがですか?」とアクションを起こしても、“時すでに遅し”になるかもしれないのだ。

 未来のチャンスを逃さないために、このタイミングで参入することで、競合他社をけん制しているのではないだろうか。今後の動向に注目である。

(甲斐寿憲)

最終更新:9/5(月) 7:09

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