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トランプ氏のウェブ責任者が語るデジタル戦略

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月5日(月)15時22分配信

 米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏陣営の最高給取りのコンサルタントのうちの1人は、これまで大統領選にはまったく関わったことのない人物だ。

 それは、ウェブマーケター(ウェブメディアのマーケティング専門家)のブラッド・パースケール氏(40)で、トランプ陣営のデジタル戦略を統括している。同氏は大統領選の予備選では、トランプ氏のメッセージを伝えるのにコストの高いテレビ広告を避け、インターネットに頼った。パースケール氏は「われわれはビジネスの世界で広く利用されている手段を選挙戦に持ち込んだ」と指摘し、「ネットを活用することで、小口の政治献金集めで信じられないほどの成果をあげている」と胸を張る。

 同氏は、カンザス州の田舎町テクムセで育ち、約2メートルの長身を売り物にバスケットボールの奨学金を得て、テキサス大学サンアトニオ校に入学した。しかし負傷したため、トリニティー大学に転校し、1999年に同校を卒業する。その後、ドットコム・ブームのまっただ中のカリフォルニア州に移り、ハイテク業界で働いた。2004年にサンアントニオに戻り、500ドル(約5万2000円)の資金でウェブマーケティング会社を立ち上げた。最初の顧客は不動産会社だった。

 2011年に、トランプ氏の不動産会社「トランプ・オーガナイゼーション」が行ったウェブデザインの小規模プロジェクトの入札を勝ち取った。トランプ氏は、大統領選への出馬を検討し始めると、パースケール氏に出馬検討委員会のウェブページの制作を依頼した。それからは、トランプ陣営のウェブサイトの制作を手掛けるようになり、6月21日には同陣営のデジタル部長に就任した。

 パースケール氏は「トランプ陣営の依頼にうまく応えられることを示してきたと思う」と自負し、「トランプ陣営が私を気に入っているから、仕事を依頼しているわけではない」と話す。今では、同氏は一日16時間働いている。彼の会社は、選挙戦が始まる前にはフルタイム従業員として60人を抱えていたが、現在は契約社員を含めて数百人に拡大しているという。パースケール氏は、陣営のメッセージの決定には関与せず、トランプ氏自身のソーシャルメディアへの投稿も管理していない。フェースブックやツイッター、グーグル、スナップチャットなどの広告枠の購入に注力している。

 トランプ陣営は7月に3600万ドルの資金を集め、1840万ドルを支出した。テレビ広告にはまったく金を使わなかった。最大の出費はパースケール氏の会社へのコンサルティング・オンライン広告料で、830万ドルだった。パースケール氏の会社への支払いは、2015年以降で1250万ドルに達する。

 同氏は、目立った失敗もいくつか犯している。デジタル部長として手掛けた最初の仕事の1つは、トランプ氏初の電子メールによる資金集めの呼び掛けだった。彼は48時間でシステムを構築した。だがメールは、大半の対象者に届かなかった。送信されたメールの79%はスパムフィルターで阻止され、開封率はわずかに6%にとどまったもようだ。その1カ月後には、副大統領候補のネット向け発表でもっと大きな批判を浴びた。トランプ陣営のウェブサイトは、副大統領候補に指名されたマイク・ペンス・インディアナ州知事の情報を直ちに更新せず、関連のURLも確保しなかった。その結果、「TrumpPence.gop」のURLを打ち込むと5万4000人以上の署名を集めたトランプ氏選出反対のサイトに行き着くことになった。

 一方でパースケール氏は、オンラインによる資金集めで、トランプ氏の弱点を克服した。同陣営が7月に集めた献金のうち、200ドル未満の小口献金の比率は約64%だった。こうした小口献金の大半はオンラインを利用したものだった。これに対し、民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏の小口献金比率は約36%にとどまっている。

 ジョージ・.H・W.・ブッシュ元大統領の顧問を務めたデービッド・カーニー氏は、トランプ氏が大統領選に勝利しなくても、同氏の選挙運動の遺産として、今後の共和党候補はテレビ広告からデジタル広告に重点を移すようになると予想する。

 大統領選の予備選でのトランプ氏の選挙費用は、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事の政治資金団体のスーパーPAC(政治活動委員会)とは大きな違いがあった。政治の資金の流れを監視する超党派の非営利団体「センター・フォー・レスポンシブ・ポリティックス」の分析によれば、ブッシュ氏のスーパーPACはテレビやラジオ、新聞など伝統的な広告枠購入のための支出が7730万ドルで、全体の約89%と支出項目のトップを占めた。デジタル広告の支出はわずか120万ドルにとどまった。

 カーニー氏は「テレビ広告は重要で価値がある。デジタル広告では有権者全員には手が届かない」としながらも、「記録を何度も調べてみると、テレビ広告に投入された大量の資金は無駄金となっている」と論じる。

 トランプ陣営は8月26日に、トランプ氏の商品を販売するウェブストアを新たに立ち上げるとともに、同陣営の公式モバイルアプリを構築した。このアプリは、同陣営が利用する連絡先リストに関連付けるようユーザーに勧めるもので、同陣営はその名前を潜在的なトランプ支持者のデータベースと照合できる。

 しかし、こうしたリストを有効活用する時間はなくなりつつある。共和党のデジタル・ストラテジストらは、クリントン陣営が今夏、テレビやネットで大量の広告を打ち、トランプ氏の気質について攻撃したのを目にして、トランプ陣営を厳しく批判するようになっている。クリントン陣営には、これらの広告がオンラインでどのように受け止められたかを分析する時間がたっぷりとある。

 ミッチ・マコネル共和党上院院内総務(ケンタッキー州)の政治顧問だったジョシュ・ホームズ氏は、クリントン陣営は「文字通り1人でゲームをしている」と話す。その上で、「クリントン陣営は投票日近くまでに、ターゲットにしている有権者のことをものすごく良く分かるようになるだろう」と予想する。ホームズ氏は「これに対しトランプ陣営は自分たちの広告の反応について分析している形跡はみられない」と懸念する。

By NATALIE ANDREWS

最終更新:9月5日(月)15時36分

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