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廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織

ITmedia ビジネスオンライン 9月6日(火)6時40分配信

 JR西日本の「みすゞ潮彩」(山陰本線)、JR四国の「伊予灘ものがたり」(予讃本線)、JR九州の「指宿のたまて箱」(指宿枕崎線)――日本各地を走り回る観光列車。その数は100を超えており、観光客から人気を集めている。近年は「ななつ星in九州」などの豪華列車も登場し、特に盛り上がりを見せている。

【秋田県の伝統行事でおなじみの「なまはげ」が車内に現れる(出典:JR東日本秋田支社 公式Facebookページ)】

 そんな観光列車ビジネスの先駆けとなったのが、今年で開通80周年を迎えた秋田県~青森県をつなぐ「五能線」である。大きな窓から季節ごとに異なる沿線の絶景を楽しめる「リゾートしらかみ」が話題を呼び、「日本で一番乗りたいローカル線」(2014年、楽天トラベル「旅行好きが選ぶ! おすすめのローカル列車ランキング」)と評価されるほどの人気ぶりだ。

●廃止寸前だった五能線

 実は、もともと五能線は赤字路線であり、観光列車が運行する前は廃止も検討されていた。

 五能線に観光列車が走り始めたのは1990年。人口流出によって利用者が減少し続け、窮地に追いやられていた五能線の復活を賭け、当時のJR秋田支社は列車の窓から見える絶景を生かした観光路線に転換した。

 当時は、広いエリアを走る路線を観光の目玉として売り出す前例はなく、県を跨ぎ13もの市町村が連携して取り組む販売促進も前代未聞。当然その改革は容易ではなく、すぐに成果につながることはなかったが、地道に努力を積み重ねてきた結果、今では年間10万人以上の観光客が「リゾートしらかみ」に乗車するほどの人気を博し「奇跡のローカル線」と言われるまでになった。

 2016年7月28日、そのJR秋田支社の奮闘を取材した『五能線物語』が出版された。著者のローランド・ベルガー日本法人会長、遠藤功氏によれば「五能線の復活劇には、日本の地方企業の再生、地方創生のヒントが隠されている」という。

 五能線の事例から地方企業はどんなことを学べるのか、そのポイントを遠藤氏に聞いた。

●“スーパースター不在”でも戦える

 廃止寸前だった五能線を人気路線へと立て直したJR秋田支社――。この事例から企業が学ぶべき要素について遠藤氏はまず、“スーパースター不在の組織”でも復活できたことにポイントがあると話す。

 「企業が飛躍するためには日本にもスティーブ・ジョブズが必要だ、カリスマ経営者が必要だと言うけれども、スーパースターがいなくても結果は出せるということをJR秋田支社が教えてくれた」(遠藤氏)

 例えば同社は、絶景を楽しんでもらうためにわざとスピートを落とす「サービス徐行」をはじめ、車内では「津軽三味線の生演奏」「なまはげイベント」――など、現在も観光客から好評を博しているさまざまなアイデアを出してきた。

 しかし、外部から経営のプロを雇ったり、今ではよく耳にするようになった地方創生コンサルトの力を借りたわけではない。以前から勤務している“普通の人たち”が人気路線へ変えるための知恵やアイデアを出し、五能線を変えていったのだ。

 「地方創生を語るとき、『東京から優秀な人(経営のプロやコンサルト)を送り込まないとダメ』『よそ者、バカもの、若者が地方を変える』という話をよく聞くが、“外に頼らないと地方は元気にならない”という世間の考え方に一石を投じたのではないだろうか」(遠藤氏)

 また、遠藤氏はスーパースター(カリスマ)不在の経営こそ、日本が目指すべきスタイルだとも説明する。

 「カリスマがいればスピード感は増す。しかし、依存してしまうとカリスマがいなくなったとき、組織が一気に弱くなってしまうというリスクがある。それでは組織として進化できない。代わりを用意するにしても、日本には孫正義氏や柳井正氏のような人がたくさんいるわけではない。だから日本が見習うべきは同社のような“全員野球”の組織だ」

●全員が“当事者意識”を持つ組織を作る

 では同社はどのように“全員野球”の組織を作り上げたのか。

 遠藤氏によれば、同社は「ホールランを打てる人材はいなくても、シングルヒットを積み重ねる人材はいる」と考え、ヒットを連打する組織を作るために「My Project」(通称、マイプロ)というJR東日本全社で展開している制度を積極的に活用している。

 My Projectは自分の関心があること(あるいは課題を感じていること)を仕事として取り組むことができる社員教育プログラム。ユニークなのは、“成果は求めず”主体的に動いたこと自体を評価することだ。

 どんな小さなことでも、その社員の取り組みを評価し、モチベーション向上につなげる。例えば同社は「KOMACHI」という社内報を通じて、毎月100人以上の社員の取り組みを紹介している。これが「自分もこの社内報に載りたい」「自分も何かしよう」という意欲をかき立てる環境を生み出しているという。

 こうして、社員が自ら課題を発見し、自発的に動くことによって“当時者意識”を持つことにつながり、組織全体の機動力が高めることができる。

 例えば前述した「なまはげイベント」は、東能代運区(秋田県能代市)の新人車掌の提案で始まった。「青森県側では三味線や民謡などの車内イベントがあるのに秋田県側ではイベントがなくて寂しい」――。このような利用者の声をアンケートで知り、イベントを思い付いたという。車掌や運転士が自ら衣装を着て演じる「なまはげ」は観光客から大好評で、現在も毎回記念撮影の列ができるほどの人気コンテンツとなった。

 他にも「リゾートしらかみ」のPRキャラクターや「五能線ガイドブック」など、さまざまなコンテンツがこのMy Projectによって生み出された。このように五能線は、小さなアイデアを一つずつ実現させていくことで(シングルヒットを積み重ねることで)徐々に人気観光路線へと生まれ変わっていったのだ。

●短期的合理性ではなく、長期的合理性を考える

 ビジネスの現場では「スピード」がとにかく重視される。成果を上げるスピートももちろん含まれる。しかし、スピードを意識するあまり、あまりにも短期的な合理性ばかり追求する「短期的合理主義」に陥ってしまう企業が増えてきていると遠藤氏は指摘する。

 「経営としては、長期的に見て合理的なものを追求すべきなのに、短期での結果ばかりを追求してしまう風潮がある。その結果、長期的には不合理なことをやってしまう。例えば、人材育成への投資においては、長期で見れば、重要な戦力に育つ可能性があるのに、短期視点では手間暇がかかり、コストを生むだけ――と考えてしまう。設備投資でも同じことがいえる。これでは、会社は良くならない」(遠藤氏)

 同社の取り組みでいえば、結果ではなくプロセスを評価するMy Projectは短期的には不合理に見える。五能線を観光路線に変えるという取り組み自体も短期的に見れば不合理かもしれない。鉄道を廃止して、バスなどに切り替えた方が短期間でコスト削減を実現できるからだ。しかし、短い時間軸だけで成果を求めず、長期的な合理性を追求した結果が、今日の五能線につながっているのだ。

(鈴木亮平)

最終更新:9月7日(水)16時29分

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