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スマートロックロボット「Akerun」は“飲み会”から生まれた

EE Times Japan 9月6日(火)11時53分配信

 未来の扉を開ける鍵、それがAkerunである――。

 スマートロックロボット「Akerun」を手掛けるフォトシンス社長の河瀬航大氏は、「イノベーション・ジャパン」(2016年8月25~26日/東京ビッグサイト)で開催されたセミナー「IoTスタートアップが乗り越えるべき壁」で、こう語った。

【スマートロックロボット「Akerun」の利用イメージ】

 Akerunとは、同社が2015年4月に発表した「世界初」の後付けスマートロックである。ドアに取り付けたAkerun本体とスマートフォンをBluetooth Low Energyで認証することで、鍵の開け閉めができる仕組みである。今使用している鍵を取り換えることなく、工事と工具不要で取り付け可能。家族や友人と鍵のシェアや、利用履歴の確認もでき、ドアが閉まると自動的に鍵を閉めてくれるオートロック機能なども搭載している。

 用途としては、家庭用としてだけでなく、ホテルへのチェックインや不動産の内覧、空きスペースの有効活用、子どもや高齢者の見守りなどが考えられるという。同社はこれまでも、NTTドコモとともにホテルのチェックインをWeb上で完結させるシステムの展開や、三井不動産との「どこでもオフィスプロジェクト」などを既に進めている。どこでもオフィスプロジェクトは、三井ビルの空いているオフィスにAkerunを設置することで、三井不動産社員らが“どこでもオフィス”として自由に利用できる取り組みだ。

 スマートフォンをなくしたときはどうするのかという疑問を持つ人がいるかもしれない。その時は、クレジットカードを落としたときと同じように、サポートセンターやWeb上の管理システムから、スマートフォンにある鍵の権限を剥奪できる。その後、家に入るためには、「他の人のスマートフォンから自分のIDとパスワードを入力する方法がある。最悪の場合、物理的な鍵を持っていれば問題はない」(河瀬氏)と語る。

 セキュリティ面では、「AES-256」の暗号化機能を備えるのに加えて、外部の企業からハッキングをわざとしてもらい、セキュリティホールがないか確認しているとする。

■たわいもない飲み会がきっかけ

 河瀬氏は、「Akerunが生まれたのは、たわいもない飲み会がきっかけだった」と語る。同社の共同創設者は河瀬氏を含めて6人いるが、その内の4人はもともと仲が良く、起業前からよく飲み会をしていたという。ある日の飲み会で、4人のうちの1人が、たまたま鍵をなくしてしまい、家に帰れなくなってしまった。

 「そこから、飲み会は“鍵って面倒くさいよね”という話で盛り上がった。例えば、オフィスに鍵を忘れて、家に着いたのにもう1度オフィスに戻った経験がある人も多いのではないだろうか。寒い日は、かばんから鍵を取り出すのも面倒である。私たちの生活は、“鍵をなくさないこと”にとらわれている感覚がある。鍵を意識しない生活は美しいし、これからの時代に当たり前になるよねという話をした」(河瀬氏)

 そこで、スマートフォンを鍵にする目的の“週末プロジェクト”が始まった。当初は起業する気がなく、目的を達成しようというワクワク感が原動力だったとする。

 世界初の後付け型を選択したのも、週末プロジェクトから始まったことによる影響が大きい。河瀬氏は、「扉の中に無線通信モジュールを直接組み込むケースロック式が良いという声もあると思う。しかし、ケースロック式では、自分たちの今住んでいる家で実装できない。そのため、後付け型の製品を開発することに決めた。趣味の一環として基礎研究を続けてきて、初めてAkerunが動作したときの感動は忘れられない」と語る。

 転機は、2014年7月27日に訪れた。日本経済新聞に週末プロジェクトが掲載されたことで、量産化を決めていないのに100件を超える問い合わせ、起業していないのに多数の事業提携の依頼が届いた。その時、鍵には多くの潜在市場があると気付いたという。

 例えば、紛失して警察に届けられた鍵の本数は、年間28万本にも及ぶ。引越しの鍵交換費用は年間216億円、ポストや鉢に隠した合鍵による不法侵入は年間7300件も起きている。つまり、鍵が物理的な存在であるが故に、さまざまな不都合が生じているのだ。

 市場の大きさに気付いた河瀬氏ら6人は、2014年9月1日にフォトシンスを創業した。

■IoTスタートアップの3つの壁

 次に、河瀬氏は自身の経験を基に、IoTスタートアップが乗り越えるべき壁として3つを挙げた。最初に訪れる壁は、「人」だ。大手電機メーカーも人員を削減する中、最近は人を採用しやすいと思われがちだが、手持ち資金を出し合って事業を進めるスタートアップが、大手電機メーカー出身のエンジニアにこれまでと同等の年収を払うのは難しい。

 「フォトシンスは週末プロジェクトから始まったことで、最初から6人と比較的多い人数で始められたのが良かった。2016年8月現在、正社員は23人まで増えたが、私の友人・知人が半数以上を占める。残りが社員の友人、業務委託からの採用、採用媒体。やはり、スタートアップに参画するにはリスクが伴うため、何でもできるエンジニアを採用するのは難しい。そのため、既存の知識に縛られない吸収力がある人、若くて情熱のある人、給与よりもビジョンに共感する人が良いのではないだろうか」(河瀬氏)

 2つ目の壁は、「お金」である。プロダクトの開発には、億単位の費用が掛かる。同社は、自己資金を出しつつ、助成金などを活用。創業から3カ月で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から最大6900万円、エンジェル投資家から2000万円、NTTドコモから最大4000万円。2015年9月には、ジャフコ、YJキャピタル、ガイアックス、ベータカタリストから、第三者割当増資により総額4.5憶円の資金調達を実現した。

 河瀬氏は、「スタートアップにおいて、1番重要なのはPRと思っている。当社がPRで行ったのは、Akerunの世界観を前面に押し出すこと。限られた資本の中でPRをしっかりできれば、社会的期待を最大限高めることができ、次のエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)につなげることができる」とする。創業当初の資金調達では、Akerunのプロトタイプ製作だけでなく、PRにも多くの投資を行ったという。

■高機能化した新製品を発表

 3つ目の壁は、「モノ」である。プロダクトアウトの発想が強く、ユーザーが求めるものを開発できないという問題だ。河瀬氏は、ユーザーを見えにくくする3つの要素として、(1)メディア、(2)大企業との事業提携、(3)投資家を挙げた。

 メディアやその読者に目が行き過ぎると、面白いプロダクトを作ることに専念するだけになってしまう。また、「IoT化」が目的化している大企業との提携は、事業スピードを低下させてしまう可能性がある。投資家については、創業者側の問題ではあるが、売り上げを上げることに照準を合わせてしまいがちになると指摘している。

 同社は、ユーザーへの多くのヒアリングから、MVP(Minimum Viable Product)とコアターゲットの仮説立てを徹底して行うことで、ターゲットを「中小企業オフィス」と定めたとする。オフィスに電気錠を導入するには、高額の機器を購入するのに加えて、大規模な工事が必要なため、1つの扉当たりに70万円のコストが掛かる。また、マイナンバーや個人情報保護といった観点から、物理セキュリティ市場は増加傾向にあるからだ。

 そこで、2016年7月にAkerunを高機能化した「Akerun Pro」を発表。Akerun Proは、Akerunと比較して15倍の開閉スピード、1日100回の利用で約半年の寿命を実現。NFCリーダーを用いることで、SuicaやPASMOなどのNFCカードで施錠・解錠ができる。

 さらに、API連携によりユーザーが、さまざまな機能を追加することが可能だ。例えば、従業員の誕生日にバースデーメロディを流したり、外の天気の様子を教えてくれたりといった利用方法が考えられる。同社は今後、Akerun Proが鍵の開閉にとどまらず、さまざまなサービス・機能を付加したコンシェルジュのような役割を果たすことを目指していく。だから、同社は、スマートロック“ロボット”と呼んでいるのだ。

 河瀬氏は、「IoTプロダクトの成長戦略は、iPod→iPhoneと似ている。音楽を聞く専用のデバイスだったiPodから、ネットワークにつながるiPhoneが登場し、さまざまなサービス(アプリ)が充実したことで、どんどん価値が高まった。つまり、IoTはネットワークにつながるだけじゃなくて、付随するさまざまなサービスが生まれることによって、デバイスの価値を最大化させるような成長曲線をとるのではないだろうか。Akerun自体は、鍵を開閉するというシンプルな機能を持つハードウェアである。しかし、ホテルの予約システムや勤怠管理などのサービスとひも付けることで、鍵が多くの価値を持つようになる。これこそが、IoTの醍醐味(だいごみ)と思っている」と語った。

最終更新:9月6日(火)13時45分

EE Times Japan

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